相談事
銀河間戦争の四戦目を終えてから、各小隊は平穏を取り戻していた。
ミハルは訓練を終えたあと、ヘトヘトになりながら自室へと戻っている。
「ただいまぁ……」
「ああ、お疲れさま。ミハルの分もお弁当買っといたよ?」
「気が利いてる! 疲れて食道まで行く気力がなかったの」
昼前に戻ると聞いていたキャロルはミハルのお弁当まで買ってきてくれたらしい。
「やっぱキャロルを嫁にもらうか……」
「何それ? あたしはまだ白馬の王子様を信じてるけど?」
ずっと考えていたことがミハルにはあった。
それは戦争後の話。ベゼラからもらった宿題についてだ。
「実はさ……」
二人してお弁当の蓋を開く。
既にキャロルは食べ始めていたけれど、徐にフォークを手にしたミハルが話し始めた。
「ベゼラに告られた……」
「へぇ、ベゼラさんに……」
パスタを頬張りながら、聞き流したようなキャロル。そのあとジュースを手にしたところで、彼女は固まっていた。
「えええっ!?」
ジュースを口に含んでいたとすれば、確実に噴き出していただろう。
重大発言すぎる。頭が内容を理解するまで随分とかかってしまった。
「嘘でしょ!? あんたハムスターくらいの背丈しかないのに!?」
「ハムスターは酷いよ。私もさ流石にないなと思ったんだけど、どうも本気みたいなのよ」
「マジかぁ。まぁた愛玩動物に見えてしまった被害者が出たのか……」
「さっきから酷くない? 私は真面目に聞いてるんだけど?」
ミハルは口を尖らせている。割と真面目に悩んでいるのだ。大戦後には返事を聞かれるだろうし、冗談でないことは既に分かっていたのだから。
「ああ、ごめん。イケメンで皇子様とか、正直に羨ましいけど、ミハルに皇妃様が務まるなんて考えられない……」
「だよねぇ。格好いいとは思うんだけど、パパやママがひっくり返って驚くし、敵軍だったから反対もされるはず」
聞いた感じではミハルも好意的に捕らえている感じだ。けれど、立場という問題が大きすぎて決めかねているらしい。
「きっとオジさんはショック死するだろうねぇ。湯を沸かすくらいしかできない娘が皇妃様になるなんて……」
「もうちと、できるけどね?」
一拍おいて笑い合う。どうしても笑い話としてしか考えられなかった。
皇妃様だんなんてお伽話でも聞かされているかのよう。真面目に考えたとして現実感が湧かない。
「でもさミハル、お付き合いくらいなら良いんじゃない? あたしも友達とか紹介してもらえるかもしれないし」
「おこぼれ狙い? でも皇子様にとりあえずなんてあるの?」
「それは……ないかも。異文化のドレスとかもらえるのかしら?」
キャロルはまんざらでもないような感じだが、ミハルとしては最大の問題が残っている。
「いや、私はさトップシューターに三度もなってる。同胞を一番撃墜したと思うの。私が皇妃とか反乱が起きるんじゃないかな……」
それは敵として戦った時間だった。特にミハルは最前線にずっといたのだ。今となっては小競り合いともいえる初戦を除いて全ての戦闘に。
「そういや、そうだね。流石に祝福ムードとはいかない気がする。やっぱミハル、やめときなよ?」
キャロルは一転して否定派に。真面目に考えているとは思えない返答である。
「無理だろうなぁ。言葉も分かんないし」
「だねぇ。国際結婚はまだ時期尚早だわ。お互いの人間が認め合ってからでないと難しいんじゃない?」
朧気に考えていた結論通りとなる。
一般人ならばともかく、ベゼラは皇子殿下なのだ。加えてミハルは敵軍のエースパイロット。二人が祝福されるような未来は考えられなかった。
「せっかくモテ期が到来したのになぁ」
「残念だったね、ミハル君! しばらくは、あたしと付き合いたまえよ」
冗談で締められるのかと思いきや、ミハルにはまだ質問があるみたいだ。
真剣な眼差しでキャロルを見つめ、その問いを投げている。
「でも、どうやって断れば良い? 嫌いとか言うのも違う気がするし」
「かはぁぁっ、贅沢な悩みだねぇ? 手料理でも食べさせたなら、一発で立ち消えすると思うわ!」
薄い目をしてキャロルを見るミハル。かといって、間違いではないと思う。
料理といえるものなど作ったことがないのだ。恐らくコメディで見る爆発系か毒色をした料理が出来上がるはず。
「やっぱ、小隊の姫をしてる人の意見は参考になるわぁ」
「でしょう? これでもチヤホヤされてんのよ!」
結局は冗談で済んでしまう。
ミハルとしてはかなり悩んでいたのだが、綺麗な断り文句なんて存在しない。たとえ自分が嫌われたとしても、ハッキリと言葉にしなければならないのだと分かった。
戦争の行方は未知数であるけれど、断ることだけは決めている。




