一週間後
大戦から一週間後。皇都レブナではカザイン光皇による戦意高揚のための演説が行われていた。その中継は全てのアルバに届けられ、住民たちは強制視聴させられている。
「我らの勝利である! 光皇路に現れし、太陽人の要塞は我が子エザルバイワの奮闘により消失した。しかしながら、英雄エザルバイワは光皇の下へと還ることになったのだ。卑劣な手段を用いられたことによってな。だがしかし、逆賊ベゼラ・リグルナムはもういない。我らの平穏を脅かす因子は排除されたのだ!」
カザイン光皇のシナリオでは奇襲ともいえる作戦が成功したかのよう。更には愛息エザルバイワの死をも利用し、求心力の向上としていた。
「新たな光皇は我らの手に戻ることになった。何も憂えることはない。あと少しの辛抱だ。近い未来には温かな光皇の輝きが再び我らに降り注ぐだろう」
演説を終えたカザイン光皇はいつもの謁見の間へと戻る。既にここは連軍の司令部と化しており、全ての情報がカザイン光皇へと知らされることになっていた。
「こ、光皇陛下! 通信が届いております!」
演説の後は穏やかな一日となる予定だった。
しかし、オペレーターの呼びかけにより、その雰囲気は一変していく。
「何だ? 侵攻軍からの報告か?」
もうそろそろ連絡が届く頃だった。戦闘機にて出撃した末端の兵は事実を知らなかったけれど、艦隊の司令官級は作戦の全てを知っていたのだから。
「ああいえ、また太陽人の通信帯域からです……」
愕然とするのはカザイン光皇である。
試算では小型の衛星など粉々になるという威力であった。よって数日内にメッセージを送るなどできなかったはず。
「繋げ……」
ひょっとすると、起爆する直前のメッセージかもしれない。そうとしか考えられなかったカザイン光皇はニヤリとした笑みを浮かべている。
刹那に映像が転送されていく。ホログラム的に浮かび上がったのは、どうしてかカザイン光皇もよく知る顔であった。
『久しいな、ダグマ・レブ・カザイン。私はこの通り、今もまだ生きている。きっと、人工太陽の爆発により、失われていると考えているだろうな』
ざわめく謁見の間。伝えられる内容によると、今しがたの演説にあった話は全て覆ってしまう。カザイン光皇が語ったもの全てを否定することになった。
『残念ながら、この通信は貴殿にとって悲報だよ。GUNSは人工太陽を退けた。もちろん、基地は無傷だ。それどころか、人工太陽の爆発は連軍の大部分を巻き込んだだけ。自爆にも似た最後だったな』
知らされていく事実。ある程度の距離まで接近したとすれば、成功確率はかなり高かったはず。だが、ベゼラから伝えられるのは太陽人が今もまだ光皇路に存在しているという内容であった。
『貴様はもう終わりだ。私とGUNSは皇都へと攻め入る。首を洗って待っているんだな』
ここで通信は終わった。
沈黙に満ちる謁見の間。誰もがカザイン光皇の反応を気にしている。無理難題を口にする可能性に怯えていた。
「何てことだ……」
ところが、懸念した事態は回避される。意外にもカザイン光皇は頭を抱えて、弱々しく漏らすように語るだけだ。
「太陽人はあの爆発を凌ぐほどの力を持っていたのか……」
光皇路からの排除が最後の望みであったのだ。それさえ成し遂げたのなら、立て直せると考えていた。
通信が虚言だと言い張りたいところでもあるけれど、ベゼラは人工太陽について述べていたし、その結末が自爆だというのだから間違っていないと感じる。
「最後まで足掻くか否か……」
拮抗していたはずの銀河間戦争は幕切れが近い。
カザイン光皇は選択を迫られることになる。もう既に連軍を指揮する司令官級は一人もおらず、兵たちは難民で占められているのだ。
この先に訪れるだろう太陽人による侵攻。カザイン光皇はもう一つとして間違った判断を下すなんてできない。
しかしながら、彼の側には適切な意見を口にする者など存在しなかった。




