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Solomon's Gate  作者: さかもり
第六章 新たなる局面に
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決断

 戦況はかなり優位にあると断言できる状況であった。


 ミハルは今も無人機の攻撃を回避しながら、全力起動をこなしている。現状でどれだけの差がついているのか、さっぱり分からなかったけれど、ミハルは戦うだけだ。

 アイリスを気にしている余裕はなかった。


「あれ?」


 ふと気付く。宙域における異変。視野のずっと先にある情報を彼女は見逃さなかった。


「近付いてる……」


 少しも気にしていなかったこと。それは艦隊よりも奥にある物体であった。


 侵攻時の盾として用意されたものと考えていたけれど、役目を終えた今も進んでいる。先ほどよりも確実に近付いていた。


「少佐、あの人工太陽ってまだ動いてますよ!?」


 無事に戦線まで部隊を送り届けた現状。人工太陽が後方から迫るなんて、連軍にとって戦いにくいはず。巨大な壁が後方より近付いてくるのだから。


「本当か? 推進機が今も稼働しているのか?」


「分からないです。でもスピードは変わっていないようじ感じます。何なら加速しているようにも……」


 ジッと見ていたわけではない。だが、明らかに接近している。まだモニターには小さく映っているだけであったが、ポップアップした距離は記憶と異なっていた。


「あれって……爆発するんじゃ……?」


 ミハルは妙な想像を巡らせていた。考えすぎかもしれなかったが、巨大な黒い球状をしたものが砲弾のように見えてしまう。


「そんなバカな……。ああいや、あり得る話か。司令部に連絡を入れておく」

「お願いします……」


 取り越し苦労であれば良いのだが、生憎と光皇連は自爆機を用意した過去がある。

 仲間諸共、爆散させる可能性をミハルは排除できなかった。



  ◇ ◇ ◇



「クェンティン司令、グレック少佐から通信が入っています!」


 テレンス大佐との通信を終えたばかり、戦況を把握しようとしていたクェンティンに更なる通信が入っていた。


「回してくれ……」


 最前線の部隊からの連絡。基本的に悪い話であるそれに応答するのは気が重い。

 クェンティンは長い息を吐きながら、回線の接続を待っている。


『司令、少しよろしいですか?』

「ああ、構わん。手短に頼む」


 戦況はテレンス大佐が言った通り、順調に見えた。けれど、最前線を預かる彼には問題点が見えていたのかとも考えている。


『実は人工太陽がまだ接近しているようなのです。ミハルはあれが爆発するんじゃないかと話しています』


 告げられた話に司令部はざわめく。巨大なユニックを何百と合わせたくらいの質量を持つそれが爆弾だなんてと。


 しばらくして、アーチボルトが話に割り込んだ。


「グレック少佐、報告ありがとうございました。確かにあの人工太陽は今も接近中のようです。速度を落とすどころか、加速している感までありますね。貴方は戦闘に戻ってください……」


 即座に精査したデータでも、やはり接近中とのこと。ミハルが感じたままの状況であった。


 グレックとの通信が遮断されたあと、クェンティンはアーチボルトと視線を合わせる。


「光皇連はプロメテウス基地を破壊するつもりなのか?」

「ああいえ、あれが皇都を発った頃にはプロメテウス基地がありませんでした。恐らくは死なば諸共とパンドラ基地に直撃させるつもりでしょう」


 アーチボルトはミハルの推論を肯定するように話す。艦隊の奥側に隠すような状況において、爆発物である話は否定できなかった。


「それは確実なのか?」


「ユニック型の推進機を取り付けていたのは確認しています。しかし、どうしてか我々から見える側に推進機を取り付けていたのです。裏側で何かしていたのだと考えられます」


 人工太陽は推進機を取り付けたあと、半周して移動を始めた。この妙な行動理由がGUNSには分からなかったのだ。だが、裏で何か細工をしていたというのなら、頷ける理由であった。


「ならば、どうする? あれを破壊するのは骨が折れるぞ?」

「まあ、そうですよね。けれど、一つだけ手があります」


 難航するかと思われたが、アーチボルトは破壊する手段があるという。


「プロメテウス基地の人員を避難させましょう。それが先決です」


「いや、避難はさせるが、その手段とやらを先に話せ」


「その避難こそが唯一の手段ですよ……」


 繋がらない会話にクェンティンは眉を顰める。参謀の話がまるで理解できなかった。


「プロメテウス基地を人工太陽に衝突させます」


 絶句するクェンティン。人工太陽は脅威であったけれど、配備したばかりの前線基地をいきなり失うようなその作戦に。


「貴様、正気か? あれの建造に幾らかかったと考えている? 地道に爆弾を破壊していくしかないだろう?」


「正直に惜しいですけれど、有益な使い方だと考えます。もし仮に爆弾を残したままパンドラ基地まで来てしまえば、取り返しのつかないことになります。幸いにも衛星プロメテウスの方が大きい。正面衝突させられたのであれば、脅威を除去できます」


 アーチボルトの意見は変わらなかった。クェンティンとしては配備されたばかりの新造基地をいきなり失うという失態をしでかすことになるというのに。


「恐らく人類が経験したことのない巨大な爆発が起こるはず。何しろ彼らは衛星ごとパンドラ基地を破壊しようとしているのですから。懸命なご判断を願います」


 クェンティンにも脅威が感じ取れた。しかし、プロメテウス基地はパイロットの安全を考えて建造したものだ。その役目を少しも果たせないまま、宇宙デブリとなるなんて考えたくもない話である。


「分かった。プロメテウス前線基地の従事者全員を退避させろ。機能はパンドラ基地が全て引き継ぐ。ドックの割り当ては今まで通りだ」


 俄に戦況が動き始める。決断から実行まで。


 プロメテウス前線基地が配備されるまで、全ての人員がパンドラ基地に配置されていたことはGUNSにとって幸いだった。


 同じ割り当てにすることで、混乱はかなり軽減されるはずだ。結果はどうあれ、危機に対処していくことは決して消極的ではなく、寧ろ積極的な対応といえることだろう。

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