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Solomon's Gate  作者: さかもり
第六章 新たなる局面に
202/226

揺らぐことのない信念

 司令部は混乱していた。

 それもそのはず、四機のパイロットが指定した無人機の照射範囲内に進入していたからだ。禁止にはしていなかったものの、明らかに指定宙域と分かって飛ぶ四機に困惑させられている。


「アーチボルト、テレンス大佐に連絡しろ」

「承知しました……」


 しばらくは様子見をしていた司令部であったが、やはり気になってしまう。

 先んじて進入したパイロットが共にエースパイロットなのだから。


 一分も要せず、テレンス大佐と通信が繋がる。モニターには苦虫を噛みつぶしたような表情の彼が映っていた。


「その顔は通信の意味合いを分かっているのだな?」


 クェンティンが聞く。シミュレーションではなく、本番なのだ。ここを守り切らねば、次へと進めない。戦局においても、重大な一戦であった。


「私も気になりまして、グレック少佐に連絡を取りましたから……」

「むぅ、それでもなお、照射範囲内で戦っているというのか?」


 気になったというテレンスは確実に咎めたことだろう。しかし、現状は指定宙域で戦っている。彼女たちは下がるどころか、尚も突き進んでいた。


「命令できませんでした……」


 小さく告げられている。どうして、今も彼女たち二人が危険な宙域に入っているのか。なぜに後退しないのか。


「二人は強い意志を持って戦っています。双方がエースパイロットとしての誇りを懸けて戦っているのです。グレック少佐にも止められないものを私が止められるはずもないでしょう?」


 言い分は理解できたけれど、テレンスは所属戦団のトップである。命令すれば容易に現状を覆すことができたはずだ。


「グレック少佐も容認しているのか?」

「というより私も容認しております。そもそも司令部はミハル君の望みを全て叶えると言ったそうではないですか? 彼女が望む唯一の環境を用意するのだと」


 言われてクェンティンも気付く。

 確かに口にしていた。初めての銀河間戦争にてトップシューターに輝いたミハルへ、彼女が望む環境を作り出せるのだと。


「この状況がそうなのか……?」


「寧ろ、この大戦以外にありませんよ。あの子は昇進など望んでいない。パイロットとしての誇りを懸けて飛んでいるだけですから。アイリス・マックイーンとの勝負をするためだけに軍部の門を叩いた。私には取りあげられませんよ。日々、努力する彼女を知っていますし」


 このところ、毎日シミュレーションの使用要請が出ていた。部隊の訓練とは別に飛び続けていたのだ。


「何なら、1HT02のフライト履歴をお見せしましょうか? どれだけ根を詰めてミハル君が訓練しているのか。とてもトップシューターに二度も輝いたパイロットの飛行時間ではありませんよ?」


 クェンティンは息を呑む。テレンスに一言指示するだけで、事態の収拾がつくと考えていたのだ。しかし、蓋を開けば、逆に説教染みた話を聞かされている。


「あの子の努力は報われるべき。間違っても大戦を生き残るための努力じゃない。それはただ純粋に……」


 一拍おいたあと、テレンスが続けた。


「前へ進むためだけの努力――――」


 ミハルの目的はクェンティンも知っている。彼女は望みを問うたとして、アイリスに勝ちたいとしか言わないのだ。


 信念とも呼ぶべき心の向きを無理矢理に変えるなんてできそうにない。何しろクェンティンはミハルが望むことを何も叶えていないのだから。


「安心してください。彼女たちなら下手なことにはなりません。それどころか、最前線で多くを撃墜してくれるのです。現状で被害は殆ど出ておりません。作戦の一部として容認していただきたい」


 もう何も言えない。

 アーチボルトもまた頷いている。ならば、司令部は彼女の奮闘に期待するだけであり、水を差すような真似はできなかった。


「元より、命令違反でもない。照射範囲内にいることを分かっているのなら構わん。もしも、ミハル君から通信があれば、是非ともあの偏屈に勝ってくれと伝えてくれ」


 人類の命運を懸けた一戦だったはず。ところが、クェンティンはミハルの背中を押した。


 ようやく訪れたライバルとの一戦を奪い取るなんて不可能だ。それこそミハルが軍部での目的を失ってしまうのではないかと。


「ありがとうございます。適度に確認を取るように致しますので、現状のままということで願います」


「承知した。ミハル君に全てを託そう。あの偏屈は当てにならんしな。加えて私はどのような望みも叶えられると彼女に伝えたのだから」


 これにて緊急的な話し合いは終わる。

 目的こそ遂げられなかったけれど、クェンティンは再びミハルの強さを知った。


 少しの揺らぎすらなく、真っ直ぐに伸びたミハルの信念について。

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