魔法使いに望んだこと
『ハンターワン、何をしている!? そこは照射範囲内だぞ!?』
テレンス大佐からの通信に、グレックは小さく笑い声を上げた。
既に照射範囲内に入って何分も経過している。しかし、危ない場面一つない。だからこそ、グレックは嫌味を含めて返していた。
「何か問題でも?」
『問題大ありだろうが! 司令部から間違いなく咎められるぞ!?』
テレンスは二人の機動が間違っているという。このままでは司令部から直々にお叱りをうけることになるだろうと。
「アイリスも抜けてますけど?」
『あの馬鹿は通信に出よらんのだ! お前から言ってやってくれ!』
「いやいや、大佐。戻れというのは野暮ですよ……」
落ち着き払ったグレック。こんな今もミハルの支援をしつつ、テレンスに返している。重イオン砲をミハルに任せた彼はまだまだ余裕があるらしい。
「ミハルはずっとアイリスとの対戦を望んでいました。またアイリスは必ず勝負を受けるパイロットだ。銀河間戦争中ですがね、二人は戦い始めてしまったんですよ……」
『いや少佐、人類の未来がかかっているんだぞ!?』
流石にテレンスは受け入れられない。勝負ならシミュレーションで良いだろうと思う。何も大戦時に行うものではないと。
「俺も大戦は初めてですけどね。こんなにも落ち着いて飛べるとは考えもしませんでした。我が教え子ながら、ミハルはこんなにも成長している。こっぴどく視野について言ってきましたけど、数多の敵機を迎え撃ち、星の数ほどある無人機の攻撃ラインを回避しているんですよ。これは誰にでもできることじゃない。俺は今、猛烈に彼女の進歩……、いや進化に感動を覚えているのです。俺の弟子はひょっとして銀河一じゃないかと……」
『いや、しかし少佐……』
「ミハルが最初にトップシューターとなったとき、司令部はミハルに望むものを与えると話したそうです。欲しいものがなかったミハルはアイリスと戦う場を求めたといいます」
語られる昔話にテレンスは声を失う。
ミハルの望みは彼もまた知っていることだ。
「今こそ、そのときでしょう? 司令部は彼女たちを止められますか? 軍部にいる理由の全てをミハルから取り上げますか? 俺にはできませんよ。貴方が想像もできないほど、ミハルは努力してきた。俺の理不尽な要求にミハルは応えてきたんだ。あいつが望む今や未来を、俺は彼女から奪うなんてできない」
理路整然と告げるグレックにテレンスは思わず頷いていた。
ミハル・エアハルトの訓練記録は司令部にて確認していたのだ。そこには血も滲む努力が確かにあった。腐された人間を見返したいという理由だけで努力した彼女の記録が。
『分かった。好きにしろ。司令部には私から上手く言っておく』
テレンスはミハルに任せることにした。
ここまで持ち堪えられたのは、ひとえにアイリスの不在を穴埋めしてくれた彼女のおかげだ。利己的な理由であったとして、彼女が戦う理由がこの機動にあるのならば認めようと思う。
加えて、期待もしていた。
ミハル・エアハルトというパイロットが大きく羽ばたくこと。乗り越えるべき壁を越えて、新たな次元へと到達することを。




