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Solomon's Gate  作者: さかもり
第六章 新たなる局面に
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ベストセラー

 ミハルはギアの呼び出し音で目を覚ましていた。

 どうやら侵攻が始まったらしい。仮眠をとってから二時間が経過したところであった。


「私は悩まない性格なのかもね……」


 絶対に眠れないと考えていたものの、実際には熟睡している。胆力が備わっているのか、或いは脳天気なのか。何だか笑ってしまう。


「さてと、戦いに行きますか……」


 たった二時間の休憩であったが、なぜかリラックスできた。戦闘についてばかり考えるよりも、ミハルにとっては良かったのかもしれない。


 ドックへ駆け込むと、部隊は整列していた。全員が戦闘開始を待っていたらしく、ミハルは最後の一人である。


「全員揃ったな。俺たちはやるべきことをやった。あとは結果だけだ。各員の健闘を祈る」


 グレックの号令により、隊員たちは搭乗していく。

 防衛のシミュレーションをこなしたことなどなかったけれど、それは元より以前と同じなのだ。


 変化と言えば宙域に浮かぶプロメテウス前線基地のみ。ここから飛び立つ以外は何も変わらなかった。


 コックピットへと入ったミハルに、直ぐさまグレックから通信がある。


「ミハル、一番を取れ……」


 どうにも落ち着いていたミハルを昂ぶらせる言葉があった。


 その通りだと思う。何のために頑張ってきたのか。どういった経緯で軍部に入ったのか。

 ミハルはこれまでの期間を思い出していた。


「任せてください!」


 支援機を請け負ってくれたグレックに報いること。自分自身を誇れること。それらはこの一戦にかかっている。過去二戦とは意気込む理由がまるで異なっていた。


 ミハルの機体が宙域に飛び出していく。あらゆる準備を終えた彼女は静かに戦闘開始を待つだけであった。



 ◇ ◇ ◇



 101小隊が宙域に飛び立ってから数分。アイリスたち201小隊も出撃準備となっていた。


「それでは諸君、戦闘後にまた会おう!」


 アイリスの号令により、隊員たちが搭乗していく。

 そんな中、ベゼラがアイリスに近付いていった。


「アイリス、ありがとう」


 眉根を寄せるアイリス。また意味不明な言葉を口にしているのかと思う。


「プリンス、感謝は伝えるべき場面を考えろ。今から戦いに行くのだぞ? 負抜けたフライトをしていたら、重イオン砲が後方を狙うと考えておけ」


 もうベゼラはアイリスの言動に慣れている。酷い言葉のチョイスも彼女なりの冗談であることを。


「私は戦う。駄目なら撃ち落とせ。やる気は充分だ」


「それなら良い。短い期間だったが、貴様は良くやった。曲がりなりにも、全宇宙で一番のパイロットについてこれるようになったのだ。胸を張っていいぞ」


 ベゼラは笑みを浮かべた。本当に褒めることのないアイリスが、胸を張れというのだ。これ以上に誇らしいことはない。


「ミハルだけじゃない。アイリスもいる。連軍が気の毒だ。中央突破など考えられない」


「言っておくが、グレックはかなりやるぞ? この世界で私が唯一師事している人だからな」


「グレック、優しい。アイリスは鬼だ」


 思わぬ返しにアイリスはククッと笑う。

 まさに鬼だっただろう。準備期間は全てベゼラのスキルアップに消費したのだ。徐々に小言は減っていたけれど、それでも面と向かって褒めたのは初めてなのだから。


「アイリスのため、私は連軍を墜とす。見てくれ。努力の成果を」


「及第点を与えられるくらいには飛んで見せろ。貴様が背負うものは途轍もなく重い。けれど、その重みに負けるな。アイリス・マックイーンの弟子として、戦場デビューを飾れ」


 どうしても心に響いてしまう。厳しすぎた訓練の結果をアイリスは疑っていないのだ。弟子とまで言われたベゼラは彼女の期待に応えねばならない。


「アイリス、私は勝利する。光皇連を立て直したあと、貴方を招待しよう」


「ほう、私を妃にするつもりか?」

「妃違う! 誤解するな!」


 これまた冗談であったものの、ミハルに妙な話をしたあとだ。流石に取り繕うしかなかった。


「師として招待する。皇王となった姿を見て欲しい」


「遂にキングとなるのだな? 面白い。ならば私は貴様が歩んだ道程を執筆してみようじゃないか。プリンスがキングに登り詰める話。きっとベストセラーに違いない。私は文才まであることを世に知らしめるのだ!」


 アイリスはベゼラがどうやって光皇になったのかを本にしようと話す。

 これまた彼女のジョークに違いないが、ベゼラは小首を傾げている。


「ベストセラーは何だ?」


 よくあることであった。

 もうアイリスはベゼラの質問には慣れた様子。得意げに嘘の説明を口にするのだった。


「銀河最強って意味だ――――」

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