告白
急な通信から二日が経過していた。
ようやくと侵攻を再開した連軍は、その位置を変え交戦可能宙域へと進んでいる。
旗艦サマルが爆散したことで、出撃が遅れたのかもしれない。
一応は宙域にマーカーを投影し、降伏を促している。しかし、実際に降伏したのは航宙機ばかりであり、それも五千機に満たない数であった。
GUNSの準備は万端である。配備が遅れていたプロメテウス前線基地の移設も間に合っており、その周囲には数多の無人機が陣取っていた。
「まぁた引っ越しとか落ち着く暇もないね……」
「そういうな。俺たちは最前線を預かっている。一々パンドラ基地まで帰還しなくて済むのは有り難いだろう?」
嘆息するミハルに答えたのはグレックだった。
既に戦闘配備態勢である。連軍が動き出せば、瞬く間に出撃。仮眠を繰り返す状況となっており、あまり休まった気はしない。
「少し休んできます……」
「ああ、しっかり休んでおけ……」
ドックをあとにして、ミハルは休憩室へと向かう。前線基地にはろくな施設がない。隊専用の詰め所はなく、ドックごとに休憩所があるだけだ。
休憩所に入ったミハルは奥にあるベッドへと腰掛けた。
誰もいない休憩室。ブランケットを羽織って、壁に背を預ける。
「ミハル!」
そんなときベゼラが現れていた。彼は同じドックであるのだから、休憩に来たとしても不思議ではない。
「ベゼラも休み? ホント、嫌んなるわね。さっさと始まってくれたらいいのに」
「すまん。父上……、指揮官が旗艦ごと爆散したせい。迷惑かける……」
その話はミハルも聞いている。ベゼラの父テグルが星院家の使命を全うしたことを。
「私こそごめん……」
迂闊な話だったとミハルは謝っている。家族を失った者に対する言葉ではなかったのだと。
「なぁ、ミハル。少し聞いてくれ。戦争後のこと」
ベゼラが言った。休憩に来た彼であったが、ミハルに話があるという。これから戦闘が始まろうかというのに、戦争後の話があると。
「戦争後?」
「私は皇王になる。光皇連を導いていく」
それはミハルも聞いている話だ。
彼は皇子殿下であり、カザイン政権を打破したあと皇座につく。語られたのはGUNSが思い描いている未来そのままであった。
「ミハルもついてきて欲しい」
思わぬ話を聞かされるミハル。常々好きだと言われ続けてきた彼女はここで決定的な話を聞かされてしまう。
「私と一緒になってくれ……」
真っ直ぐに見つめられ、ミハルは視線を泳がす。意味合いは理解できたけれど、真意を問い返している。
「どうして私なの……?」
「君の生き様が好きだ。強い女性。私は光皇連を立て直す。側にいて欲しい」
感情を刺激する。これまで恋愛に関して縁がなかったミハルだが、こういった求められ方を望んでもいた。夢見がちな少女のような願望を今もまだ持っていたから。
「私は異星人だし、チビだし……」
「そんなことは関係ない。私がどう想っているか。それだけだ」
まさか異星系の皇子様から告白を受けるなんて。
夢想していたままのファンタジー世界。皇子様に言い寄られる主人公になったかのよう。
「えっと……」
頭が回らなかった。即答するには重大な内容すぎる。
今は戦闘について考えるべきであり、それ以外は雑念にも等しい。
「返事は今度で良い。私もミハルも生き残る。そのあとだ……」
どうやらベゼラも現状ですべき思考ではないと分かっているらしい。ミハルに返答を求めることなく、休憩室を出て行った。
恐らく一人で休憩所へと向かうミハルを見て追いかけて来ただけ。燻る感情を伝えたくて来ただけのよう。
一方でミハルは呆然としていた。正直に仮眠どころではなくなっている。
異星系の皇子様から告白を受けるなんて。好意的に感じると同時に、懸念も覚えている。
間違っても、この場で決断できる話ではなかった。
長い息を吐きながらミハルは眠りにつく。重大な宿題を脳裏に思い描きながら。




