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Solomon's Gate  作者: さかもり
第六章 新たなる局面に
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通信

 二十日が経過していた。

 光皇連の部隊はかなり接近している。しかしながら、一定の距離を置いて進軍を停止していた。全軍出撃の準備なのかもしれない。


「ベゼラ君、それは本当なのか?」


 あと半日という距離。パンドラ基地の司令部は緊張感に包まれている。

 張り詰めた空気の中、ベゼラは司令部に呼び出されていた。


「間違いない。あの旗艦はリグルナム星院家の艦。やはり父は戦線に招集された」


 クェンティンの質問にベゼラが答えた。

 連軍の内情を聞くために呼び出されていたのだが、思わぬ話を聞かされてしまう。


「オープン回線に繋いで。私は話がしたい」


 ベゼラは連軍の部隊に通信を望んでいる。

 目的は交戦前の降伏。連軍が使用するオープン回線に割り込むという話であった。


 アーチボルトと視線を合わせたクェンティンであったが、意見を聞くことなく了承。直ぐさまオペレーターに回線の指定を告げている。


 メインモニターにあるレンズがベゼラを捕らえ、フォーカスがあった瞬間にベゼラは大きく頷いていた。


「連軍の全機に告ぐ。私はベゼラ・リグルナム。次なる光皇となる者だ。逆賊カザインの命に背き、指定宙域に移動して欲しい。戦闘を望まぬ者を罰するつもりはない。手厚く保護することを明言しよう」


 翻訳機を介して聞くクェンティンは何度も頭を上下させていた。

 無益な戦いが避けられるのであれば、それに越したことなどないのだと。


「戦線に私は参加する。よって交戦が始まるのなら容赦はしない。同胞であったとして、躊躇わずに撃ち抜くつもりだ」


 ベゼラは覚悟を語る。敵対する者には慈悲など与えないのだと。


「旗艦サマルに乗艦するテグル・リブ・リグルナム皇爵。貴官が出撃した理由は領民のためであろう。私には分かる。ただ、ここは潔い死を選んで欲しい。父殺しという二つ名など私は望んでいないのだ。最後は正しき道を選ぶ。それが星院家の務めだと考えている」


 旗艦サマルは星院家の船だ。そこにいるだろう父にもベゼラはメッセージを送る。


 少しばかり言葉に詰まっていると、

「司令、敵艦から応答要請です!」

 オペレーターは通信が入った事実を告げた。


 まず間違いなくベゼラの話を受けてのものだろう。

 クェンティンは言葉を発することなく、頷くだけで了承としている。


 直ぐさまメインモニターに通信が転送。ベゼラの父テグル・リブ・リグルナム皇爵の姿が現れていた。


「父上……」


『久しいな、ベゼラ。立派になった姿を最後に見ることができて嬉しく思う』


 どうやら降伏の通信ではなかったらしい。

 最後にと口にするテグルもまた覚悟を決めているのかもしれない。


「父上、私は生半可な覚悟で太陽系に亡命したわけではございません。どうか部隊を引いていただけませんか?」


 ベゼラの要請には直ぐさま首が振られた。ここまで進軍した理由がテグルにもあるのだと。


『それはならん。レブナには数億という領民が匿われている。私は形だけでも従わねばならない。ベゼラよ、彼らを救い出してくれ』


 やはり人質が問題となって、ここまで来てしまったらしい。

 テグルはベゼラの要請を拒否し、己の要望を口にしていた。


『降伏する兵の無事は約束して欲しい。それ以外に私は何も望まん』


 父の話にベゼラは唇を噛んだ。

 数年前には想像もできない未来。適切な超新星爆発があったなら、こんな今は存在しなかっただろう。


「父上、無事に光皇の下へと旅立たれますよう願っております」


『泣くな、ベゼラ。我らは気高きリグルナム星院家の一員。最後まで誇りを失わぬようにな……』


 ベゼラはこの会話が親子最後の語らいであることを知る。

 父テグルの表情は晴れやかであり、戦争前とは思えぬ安らかなものであったのだから。


『兵よ、我らの新たな皇に敬礼! 光皇連は永遠に続く! ベゼラ・リブ・リグルナム陛下が安寧に導かれるであろう!』


 モニターに映る全員が敬礼をした。


 それは別れの合図。通信を始めた瞬間から、彼らは決意していたのかもしれない。

 一瞬のあと、旗艦サマルは爆発を起こす。まるで推進機を撃ち抜かれたかのように、巨大な炎を上げ、爆散していた。


「父上……」


 ベゼラの声にならない声が小さく響いた。

 とめどなく流れる涙。このような別れが訪れるなんて想定していない。しかし、覚悟していた現実でもある。皇都レブナに家族が幽閉されていると知ったときから、この現実は起こり得る未来であったはずだ。


「クェンティン司令、ありがとう。もう何の憂いもない」


 言ってベゼラは司令部をあとにしていく。


 光皇連のためにだけ戦う。父の激励を覚悟に変え、彼は戦場へと旅立つだろう。

 憎むべき一人の施政者に対してのみ怒りを覚えたまま。

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