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Solomon's Gate  作者: さかもり
第六章 新たなる局面に
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三度目の正直

 連軍の侵攻が始まって五日後、ミハルたちは緊急的な大規模演習を行うことになっていた。既に指定宙域へと到着しており、どうしてかモニターには巨大な黒い物体が表示されている。


「何ですか? あの黒い星は……?」


「あれは連軍の防護壁らしい。どうやら狙い撃たれることを想定して、人工太陽と共に進軍しているようだ」


 グレックの説明にミハルは目を白黒とさせる。

 人工太陽と聞いてもピンとこなかったのだ。


「要は近付くまでの壁ですか? 何もしてこないのですかね?」

「それは判明していない。砲身のようなものを確認したそうだ。よってシミュレーションに加えてられている」


 どうにも穏やかではない。砲身と聞けば強力なビーム砲を撃ち出すとしか考えられなかった。オリンポス基地が消失した出来事をミハルは思い出している。


「あの人工太陽を引き連れての進軍なんだ。到着予定は三週間後であるらしい。その頃にはプロメテウス前線基地も配備されているし、俺たちは航宙機の殲滅が任務。普段通りに戦えば良い」


 グレックは気にしないようにと話す。やることは何も変わらないのだと。

 対処法としてシミュレーションがあるのだし、本番で狼狽えないように取り組むだけであった。


「行くぞ、ミハル!」

「了解!」


 シミュレーションが始まる。やはりミハルとしてはアイリスが気になっていた。

 このところ、ずっと根を詰めて頑張っている。このシミュレーションにて少しくらいは近付いておきたいと思う。


「SM155から突っ込みます!」


 負けたくない。負けられない。

 大戦を憂えるよりも、ミハルはワンブロック離れた場所を飛ぶ者を意識している。


「いけぇぇっ!!」


 照準に収まるや撃ち放つ。飛来する敵機の動きを予測し、最短でそれを繋いでいく。

 集中力が上がったと自分でも感じる。加えて軍部に入った頃よりも、ずっと視野は広がっていた。


「私は一番になりたい!」


 鬼気迫る機動にグレックは笑みを浮かべた。

 ミハルの思いは入軍した折りから知っている。彼女自身がアイリス・マックイーンに勝ちたいと口にしていたことを。


 冗談にしか聞こえなかったその願望は、今や手の届く場所にまで近付いている。

 彼女自身が努力を積み重ね、少しずつ成長した結果。一心に手を伸ばし続けた成果が現状のミハルであった。


「ミハル、もっと攻めていけ! シミュレーションなんだ。撃墜数を稼ぐのであれば、俺に構うな。必ずや俺はお前に付いていく。好きに飛んでいいぞ!」


 アイリスとの差は内に秘める自信の差だとグレックは考えていた。

 単に実力勝負であれば、短時間で百機もの差は生まれないはずだと。


「指示もするな。この一ヶ月でお前の機動には慣れた。お前が何を考え、どう飛びたいのか俺は分かっている」


 ずっと指示をくれていたのは不本意ながら配慮されていたからだ。グレックは彼女の枷を外していこうと考える。ミハルがその実力を遺憾なく発揮できるように。


「分かりました!」


 シミュレーションであるのだから、失敗は問題ない。勝ちにこだわっているのは確かだが、試行する場でもあるのだからと。


 ミハルは機影の濃いエリアへと突入。中性粒子砲だけでなく、重イオン砲をも撃ち放つ。

 たった一度の接触でミハルは四機もの敵機を撃ち抜いていた。


「こりゃ気合い入れねぇとなぁ……」


 グレックは不敵な笑み。明確に照準から外れた敵機こそ自分が任せられた一団だと思う。しかしながら、機体にあるのは中性粒子砲が一門だけ。照射ラグが明らかに邪魔であった。


「クソッ、もうSF-X型は潮時なのかよ!?」


 懸命に撃ち続けるも、グレックは多くを逃してしまった。照射ラグを考えるとミハルの機動に合わせられないでいる。


 それでもミハルは気にすることなく飛び続けた。限界機動の中、二つの砲門を器用に操り、敵機を撃墜していく。


「良いシミュレーションになりそうだ。もうリハビリじゃねぇ……」


 グレックはスロットルを踏み込んでいた。次もミハルは撃墜数を求める。ならば支援すべき敵機は明らかなのだと。


「撃ち抜けぇぇえええ!」


 大声を張る。支援機であるのだが、機体はミハルと横並びのような位置。しかし、それがベストだった。照射ラグを先読みすれば、少しでも速く撃墜しなければならないのだ。


「もう一機!」


 グレックもまたかつてないほど集中している。まるで前衛機に戻ったかのように。水を得た魚の如く敵機を撃墜していく。


「教練官が足を引っ張るなんてあり得ん!!」


 息つく暇もなくグレックは撃ち続けた。照射ラグの三秒をこれ以上なく有意義に使う。ミハルが思うように飛べるように、彼は支援機という枠を明らかに超えていた。


「少佐、人工太陽が!?」


 近付いていた人工太陽に熱源が帯びる。ただ邪魔なだけでなく、それはビーム砲を照射するようにプログラムされていた。


 何十とある砲身から一斉に撃ち出されていく。それは僚機を狙い撃ったものではなかったものの、多くの味方が撃ち抜かれてしまう。


「ミハル、砲身を狙え! 重イオン砲で撃ち抜くんだ!」


 グレックは方針を変えている。ミハルのためを思って、撃墜数を稼ごうとしていたけれど、この場は大戦のシミュレーションなのだ。本番を想定した機動を行っておくべきである。


「了解しました!」


「ミハル、このシミュレーションはもう勝ち負けにこだわるな。残念だが、ちゃんと訓練しておくべきだ。乱戦の中、仲間を守る機動を」


 それはミハルも承知している。

 本番でも求められる射撃なのだ。シミュレーションで試しておかねば、本番で戸惑うかもしれない。


「やってみます!」


 敵機を撃ち抜きながら、砲身を操作。ミハルは重イオン砲を撃ち放つ。

 しかし、判定はハズレ。幾ばくもせず、人工太陽は二射目を撃ち放っていた。


『ミハル、下手くそか! よく見ていろ!』


 ここで通信が割り込んだ。上から目線で言い放つそれはアイリスに他ならない。

 彼女の機体はかなり距離があったけれど、重イオン砲の輝きはハッキリと見て取れた。


「うそ!?」


 ミハルは面食らっていた。確実にミハルよりも距離がある中で、アイリスは砲身を一つ撃ち抜いていたのだ。


「少佐、態勢を立て直してもう一度トライします!」

「了解した!」


 このあともミハルは狙撃の訓練であるかの如く、砲身を狙い続けていた。けれど、航宙機を撃墜しながらという条件が難しく、命中率は三割に満たないほど。


 しかしながら、本番に向けての課題ができた。ミハルはこの経験を糧にして、今一度頑張ってみようと思う。


「私はまだまだだな……」


 シミュレーションの結果はあまり変わらなかった。

 アイリスとミハルの撃墜数は60機差。少しばかり差を縮められたことには、ミハルも納得できたことだろう。


 三戦連続の二番手であったけれど、彼女は前を向いていた。

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