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Solomon's Gate  作者: さかもり
第六章 新たなる局面に
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トップシューター

 司令部では大戦シミュレーションの結果を精査していた。


 いち早く届いたのはトップシューターがアイリス・マックイーンという結果である。

 当然のこと、司令部の人間は彼女に期待していたけれど、二戦目は負傷にて参加しておらず、三戦目は支援機をしていた彼女がここまでの活躍を見せるとは考えていなかった。


「アーチボルト、あの問題児は依然としてトップパイロットなのか?」


 クェンティンが聞く。

 僅差ならばともかく、彼らが推していたミハルよりも百機近く多く撃墜しているのだ。


「彼女の真骨頂というべきでしょうか。支援機がベゼラ君であったというのに、この結果とは畏れ入ります」


「色々と問題を起こさなければ、良いパイロットなんだがな……」

「まったくです……」


 二人して笑う。

 看過できないほどの言動を不問にしているわけ。二人は思い出していた。


「これは良い誤算としておこうか?」


「ですね。ミハルさんとグレック少佐のコンビも問題ない感じですし、戦力的には401小隊が万全であった頃よりも整っているかと思われます」


「そのようだな。グレック少佐には感謝しかない。本来いなかったはずの戦力が前線にいるのだ。弱くなるはずもないな」


 本来なら。

 それはグレックが手術しなかった過程の未来だ。彼が手術を躊躇していたのなら、ミハルの後衛機に再びアイリスを据えねばならなくなる。圧倒的なアタッカーの能力を出し切れなくなってしまうのだ。


「充分に戦えますよ。最前線の部隊で被弾したのは三機のみ。前線は確実に練度を増しています。攻めるにせよ、守るにせよ期待感しかありません」


「そうなることを願っている。早く戦争を終わらせないとな……」


 司令部としては前向きに考えられるシミュレーション結果であった。

 現場を預かる二人は来たるべき日を想定して動いていくだけ。人類が勝利を収める瞬間しか望んでいなかった。



 ◇ ◇ ◇



 シミュレーションを終えたミハルはドックへと戻っていた。


 既にトップシューターがアイリスであったことは彼女も知っている。しかし、自分との差が何機であったのかまでは情報として流れていない。


「ダンカンさん、私って千機に満たない撃墜だったのですか!?」


 機体を降りるやダンカンに詰め寄る。担当整備士の彼であれば知っているだろうと。


「ミハルは985だったな。少尉とは73機差だぞ? 胸を張れい」


 ミハルは長い息を吐いていた。

 一番になれとグレックに言われていたのだ。だからこそ、この結果には落胆しかない。


「私の調子は良かったのに……」


「運不運もある。敵機の偏りはシミュレーションでもよくあることだ。気にするな」


 気にするなと言われても、気になってしまう。

 そもそもアイリスに勝とうとして、ミハルは軍部の門を叩いたのだ。ようやく訪れた勝負の機会に完敗だなんてあり得ないと思う。


 呆然と頭を振るミハルの元へ、グレックがやって来た。


「アイリスの奴、千機以上も落としたのか……」


 モニターを見上げながら、グレックが言った。

 誰の目にも明らか。四桁と三桁の違いは実際の差よりも大きく見えていた。


「ミハル、俺は精一杯に支援したつもりだが、飛びにくかったか?」


 グレックの問いには首を振る。

 まるで気にならなかったのだ。ストレスなく飛ぶことを許してくれた支援の悪口など言えるはずもない。


「少佐、私は悔しいです……」


 ポツリと口にする。それは素直な感情をそのまま表現したもの。悔しい以外の気持ちなどミハルにはなかった。


「ずっと頑張って来た。アイリス少尉に勝つために。だけど、結果はこの通りです。私は自分が不甲斐ない」


 ミハルは唇を噛む。こんな気持ちは久しぶりに味わう。

 ただのシミュレーションに違いなかったけれど、二番であったという事実をミハルは肯定できない。


「私はどうしようもないな。二戦続けてトップシューターになっただけで、勝ったような気がしていたんです。だけど、全然駄目だ。私はアイリス少尉がいない戦場で繰り上げられただけ。偽りのトップシューターでした……」


 アイリスの支援を受けた感想は凄いの一言。もしもアイリスが前衛機に戻ったのなら、更なる機動を見せるのは明らかだったというのに、ミハルはそこまで考えていなかった。


「もっと努力しなければなりません。私は私自身を誇るために、軍部へと入った。喉元を過ぎて忘れていたのかもしれませんね……」


 終わることのない溜め息は吐ききれなくなるまで続いた。

 ミハルは小さく頷いたあと、グレックに視線を合わせる。


「本番では必ず勝ちます――――」


 揺るぎない視線がグレックを捕らえていた。


 ミハルは思い出してしまった。アイリスに認められたことで忘れていた感情を。一番以外に価値がないことを記憶から掘り起こしている。


「結果は残念だったが、悪くないな。ミハルが前を向けたのだから」


 グレックは笑っている。

 妙な感情に囚われていたミハルがそれを吹っ切れるのなら、アイリスに負けたことは間違いじゃなかったのだと感じる。


「必ずトップシューターに輝け。俺に見せてみろ。お前の真骨頂とやらを……」


 グレックは焚き付けている。再び炎を纏ったミハルの心をより燃え上がらせるために。


 ミハルは頷きを返した。全てはアイリスに勝つために努力してきたことだ。負けたままで引き下がるわけにはならない。


 だからこそ、ミハルは決意を告げる。揺るぎない本心をそのままに。


「次戦も私がトップシューターですから……」

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