熾天使降臨
アイリスとベゼラは小隊の担当エリアから大きく外れていた。
というのも、予定が変更となり、最初から縦に長い編隊を命じられたため、右隣であった102小隊が戦線を下げていたからだ。
現在はフリースペースとも言えるエリア。グレックの班が飛行するエリアの直ぐ側だった。
「プリンス、支援が甘いぞ!」
「アイリス、指示くれ!」
どうしてかベゼラはプリンス呼ばわりされている。アイリスの機動にも随分と慣れていたけれど、指示なしで好き勝手に飛ばれると流石に追尾するので精一杯だった。
「貴様、そんな体たらくで、母国が救えるとでも考えるのか!?」
「アイリス、鬼だ……」
事あるごとに文句を言われているけれど、ベゼラは感謝していた。
皇子であった彼は何をしても褒められるばかり。悪い点を指摘する者など、彼の人生で初めてのことであったからだ。
「おい、W方向を見てみろ! 愛しの姫君の機体があるぞ?」
アイリスが笑いながら言った。元より、彼女はそれが目的でW方向まで進んでいる。イケメンの皇子殿下をからかってやろうと。
「アイリス、交信だめか!?」
「諦めろ。任務中はよほどのことがない限り、通信してはならん! プリンス、貴様は指をくわえて眺めるだけなのだよ!」
「アイリス、鬼……」
ベゼラはとてもからかい甲斐があった。今では完全にアイリスのおもちゃと化している。
さりとて、アイリスはこの編成を悪く思っていない。考えていたよりも、ずっとベゼラは支援をこなしていたからだ。
「プリンス、貴様は幸運だよ。二つの銀河で一番の輝きを放つアイリス・マックイーンの支援機なのだ。私をもっと輝かせろ。貴様の使命は敵味方の全てを私が放つ光の陰に追いやることだ」
ベゼラには冗談に聞こえない。
ミハルも凄いと感じた彼だが、アイリスはまるで違っている。操縦技術は言うに及ばず、嗅覚的な資質が圧倒的だった。
「アイリス、一番。疑いはない」
「素直でいいな! 太陽系にアイリス・マックイーンありと、知らしめてやるぞ!」
アイリスは自信も段違いだ。自分を一番だと疑っていない。確信を持って引っ張っていく前衛機には安堵感すら覚えてしまう。
「ミハル、見ていろ! 完全復活した私の実力をその目に焼き付けろ!」
言ってアイリスは重イオン砲を撃ち放つ。シミュレーションなので、まるで迫力には欠けていたけれど、それを補う大きな声がコックピットに木霊していた。
約三時間の大規模演習。大した混乱もなく、侵攻軍は予定の敵機を殲滅している。
総撃墜数1058。アイリスは参加したパイロットで唯一の四桁撃墜を達成している。
これによりアイリスはエースパイロットとしての完全復活を星系に知らしめることになった。
星系を守護する熾天使が再び銀河に舞い降りたのだと。




