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Solomon's Gate  作者: さかもり
第六章 新たなる局面に
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ブランク

 ミハルたちはゲートを越え、再び太陽系側へと戻っていた。


 全隊訓練とのことで、大戦を思わせる大量の機体が宙域を行く。見守るイプシロン基地の人員にとっては圧巻の光景であったことだろう。


『作戦開始まであと三十分。各部隊はマーカーのある所定位置まで急いでください。定刻になり次第、作戦開始です』


 オペレーターの声が全機に伝わっていた。ミハルたちは最前列であったから、特に混乱もなく指定位置に到達している。


「ミハル、全開でいけ。俺はお前の全力を見ておきたい」


 ここまで大した訓練はしていない。だからこそ、グレックはミハルに全開機動を求めた。


「良いのですか? 徐々に合わせるということもできますけど?」


「全開で行けと言っている。俺は俺なりに準備してきた」


 グレックはアイリスと違って、汎用機のSF-X型だ。ミハルはA-DUOプロトタイプを高い次元で操れており、正直にリハビリ明けのグレックが追尾できるのか不安であった。


「それに訓練だぞ? 問題点を洗い出す必要がある。それに今さら落胆なんかしねぇよ。俺はもう充分に腐っていたからな」


 続けられた話にミハルは頷いていた。

 確かにその通りだと。問題点があるのなら、少しでも早く見つけておかねばならない。Xデーは確実に迫っていたし、改良する時間はあまり残されていないのだ。


「分かりました。全力で飛びます」


 グレックにとって、小隊全体の指示よりも、此度は自分のために使いたいと考えていた。エースパイロットの支援機という役割は戦況を左右しかねないのだと。


『シミュレーションスタート』


 何の前触れもなく、シミュレーションが始まる。

 侵攻を想定した本訓練は待機ではなく、全機が前方へと進んで行く。


「とりま、様子見かな……」


 グレックの支援を受けるのは久しぶり。よって初っ端から全開にするのは間違っていると思う。


「PC678チェック……」


 ジュリアが後衛機であった頃と同じように。背後を意識しながら、ミハルのシミュレーションは始まっていく。


 ミハルとしては普段通りに戦っていただけである。シミュレーションなので、冷静に淡々とこなしていただけだ。


「ミハル、腑抜けたフライトをしてるんじゃないぞ!」

「は、はい!」


 即座に怒られてしまう。

 気を遣って飛んでいたというのに、それを指摘されてしまった。


「W方向から突っ込んで行け」

「了解!」


 更には侵攻ルートの指定まで。そこは敵機が密集している地点。敢えてミハルが避けていた方角だった。


 命じられては突っ込んで行くだけ。ミハルはスロットルを踏み込んでいく。


「どうなっても知らないから!」


 シミュレーションとはいえ、銀河間戦争を想定している。従って、慣れぬパイロットには厳しい宙域となるだろう。


「PF998より順番に!」

「了解。PR058、055チェック……」


 スイッチが入ったミハルは戦闘に集中していく。程なくグレックのことなど気にならなくなり、本気の機動を見せていた。徐々に声かけもなくなり、彼女は思うがままに戦い続けている。


 シミュレーション開始から三十分が経過し、今もまだミハルは息つく暇もなくトリガーを引いていた。

 いつの間にか完全に没入していたと気付く。中性粒子砲だけでなく、重イオン砲まで操作して向かい来る敵機に対抗していたのだ。


「あれ……?」


 ふと疑問を覚える。どうしてここまで戦えているのかと。

 不安を覚えていたのが嘘のように違和感なく飛んでいたのだ。


「ミハル、集中を切らすな!」

「はは、はい!」


 疑問を解消する間もなく怒鳴り声が届く。少しの変化でさえ、許してもらえないようだ。


「そっか……」


 ようやくと理解できた。グレックには何の問題もないことを。

 思うように飛べたミハルはストレスを感じていない。適切な支援があったからこそだ。


「QS748から順に! あとは成り行きで!」

「SE方向にも意識を向けておけ!」


 何だか懐かしい。セントラル基地に配備された頃を意図せず思い出してしまう。

 ずっと怒られていたのだ。集中しろと。視野を広く持てと。


「分かってますよ、少佐……」


 どうやら杞憂に終わったらしい。ブランクといえども、棒切れが最新の義足へと変わっただけ。それによって能力が低下するはずもなく、寧ろミハルが知っている彼よりも向上しているに違いない。


「ブツクサ言うな! ここも必ずトップを取れ!」


 今もまだグレックはミハルの心境を慮っているのかもしれない。命令にも似た話に、ミハルはそんなことを思う。


「はいはい、エースパイロットの支援機を務めて、戦果が落ちたら立場がありませんものね?」


「さっさと態勢を立て直せ。W方向へ戻るぞ! このエリアにはアイリスの機体が見えるだろ!?」


 不意にアイリスの話となる。そういえば1SP01がモニターに映っている。どうやらアイリスは割と広いエリアの端まで来てしまったらしい。


「ベゼラも頑張ってるんだ……」


 アイリスの機体に張り付くような機体。猛特訓を続ける彼はアイリスの支援を請け負っている。次戦では出撃するとの話を聞いていた。


「負けらんないわ!」


 ミハルは負けん気を出す。過去二度の大戦と同じようにトップを取るのだと。

 支援機を引き受けてくれたグレックのためにも……。

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