疑問を覚えて
中性子砲による狙撃のあと、延期となっていた訓練が始まっていた。
ミハルは今も呆けている。後衛機であるグレックに文句を言われるほどに。
「ミハル、何を気の抜けたフライトをしている!?」
シミュレーションでもなければ、単なる連携飛行。ミハルはどうしても集中できないでいた。なぜなら、無差別に破壊するような攻撃を目の当たりにし、ミハルは戦うことに疑問を覚えていたからだ。
「少佐、一番の戦闘機パイロットって何ですか?」
思わず質問してしまう。ずっと目指している一番のパイロット。戦闘機パイロットがこの銀河で一番になるには、どういった要素が必要なのかと。
「強いパイロットだ……」
端的な返答がある。
怒鳴られるのかと考えたけれど、グレックは普通に回答を終えていた。
「強いパイロット?」
「感情に呑まれては駄目だ。そういう意味において、今のミハルは弱い。戦闘機パイロットには立場的正義さえあれば充分。どれほど光皇連の人間が人類と酷似していたとしても、敵として現れたのなら撃ち抜くだけだ」
ミハルは見透かされていた。
守勢にいた頃には感じなかったもの。攻め入ることになり、芽生えた感情について。
「戦闘機パイロットなら、躊躇いなくトリガーを引け。お前にできることはそれだけだ」
言われずとも分かっている。けれど、ミハルはどうしても整理できなくなっていた。
「戦わずに済む方法はないのですよね……?」
「お前は友人を失ったことがないのか?」
愚痴のような問いに質問返しがある。
これまでは隊のメンバーが墜ちたことしかなかった。しかし、先の大戦では同窓生であるニコルが失われたという。
「いいえ、同窓生が墜ちました……」
「ならば、お前はトリガーを引け。気高く自信を持って敵を撃ち抜け……」
グレックは続ける。残されたミハルにできることを。彼女に託されたものが何であるのかを。
「宙域に花開く輝きを友人への手向けとしろ」
分かっていた。理解していたつもり。戦闘機パイロットは戦うことでしか弔えないのだと。
知ってもいた。ちゃんと整理できていたはず。戦闘機パイロットに感情など無意味なのだと。
「迷うことはない。お前は胸を張ればいい。お前の戦果は奪ったもの以上を救っているのだから……」
どこまでも立場に依存する正義であった。
人類の一員であるミハルは光皇連を見逃してはならない。敵として認識し、照準に収まるや撃ち抜くしかなかった。
「やはり戦うしかないのですよね?」
「このしがらみから逃れるには戦争が終結するしかない。お前が見逃したせいで、戦争が長引けば互いに被害が大きくなる。早く終わらせるためには戦うべきだ」
当たり前の話を説教染みて聞かされている。
ミハルだって、それくらいは分かっているのだ。戦えるパイロットは率先して前に出るべきだと。
「そうですよね……」
どうにも煮え切らないミハルの返答に、グレックは長い息を吐く。まさか部隊配備をして一年が経過しようという状況で、新人パイロットのように人を殺める罪悪感に苛まれてしまうなんてと。
「ミハル、俺は戦えとしか言えない。お前の気持ちが軽くなるならば、俺は罪悪感の半分を背負ってやる。気休めでしかないかもしれんがな……」
言って、グレックは告げた。ミハルの罪を背負うべく言葉を。
「ミハル、命令だ。誰よりも撃墜してみせろ――――」
通信から届く声にミハルは驚いていた。
てっきり宥めるような話が続くと考えていたというのに、グレックは尚も戦えとミハルの背中を押す。
ところが、何だか胸のつかえが下りた気がする。
命令に従うだけ。納得したわけではなかったが、グレックが話したように罪悪感が分担されたようにも感じた。
「ま、戦うしかないですね。少佐はしっかりと支援してくださいね?」
「ほざけ。さっさと合わせるぞ。全開で飛べ!」
納得するしかない。ミハルは戦闘機パイロットなのだから。
民間人を無差別に撃ち抜くわけでもないし、自身もまた命を狙われる立場だ。心の持ちようによっては心労になりかねないけれど、ミハルには守るべき人たちがいたし、後方に陣取るのは鬼の教練官である。
ミハルは戦争を終わらせるために、ベストを尽くすのだと改めて思うのだった。




