勝利する未来に
司令部では作戦開始のカウントダウンが始まっていた。
直前になって101小隊から問題ごとを通知されていたけれど、今回の作戦に危険度は極めて低い。後に対処することで決定していた。
「やはりデリク一等曹士は問題を起こしましたか……」
「まあ、現場から要請がでた今となっては後方で我慢してもらうしかないな」
グレックの言い分は全て了承されている。
上層部としても扱いに困っていた現状では拒否する理由がなかった。
「カウント51……」
オペレーターが作戦のカウントダウンを始める。
全員がモニターを見つめていた。かといって、ゲート裏一掃という作戦時のような緊張感はない。
「本日は人類の歴史的一歩です。光皇連の人民に、我々の姿を見せつけてやりましょう」
アーチボルトが言った。
式典にも似たこの計画。301小隊による一掃がなければ、戦闘を含んでいたけれど、今やゲート裏まで人類の支配宙域なのだ。お披露目以上の意味合いを含んでいない。
「ああ、思えば長かった。貴様もよく生き残ってくれたな。運が良いのか悪いのか分からんが……」
「ええ、お互いに。人類が進むべき道を辿る。光皇連だけでなく、内部にも敵といえる者が多すぎましたね。当たり前のことに時間がかかりすぎました……」
感慨深げな二人。パンドラ基地こそが新たな旗印となる。稼働するや司令部は移され、太陽系外にて指揮を執るのだ。
「カウントゼロ! 推進機点火します!」
遂に作戦が実行されていた。
護衛の部隊が取り囲む中、パンドラ基地の巨大な推進機が火を灯す。ゆっくりとゲートへと進入していくのだった。
◇ ◇ ◇
ミハルたち最前線の部隊はゲート裏での護衛を任務としている。
既にカウントはゼロを示していた。聞いた限りによると、衛星パンドラがゲートを潜り抜けてくるらしい。
「本当に……越えて来た……」
圧巻の光景であった。
お世辞にも移動速度は速いと言えないが、巨大な衛星が突如として宙域に現れている。
その姿は光皇連でも確認できていただろう。攻勢を強めるGUNSの動きを彼らは注視しているはずだ。
『全機、警戒を怠るな。ボウッとしているじゃないぞ?』
グレックからの通信。かといって、無理な話である。
もうどこにも光皇連の部隊はいない。遥か先の宙域で超光速ミサイルを撃ち放ったとして、ゲートに辿り着くのは十日以上も経過したあとなのだ。
「私たちは勝てるのかな?」
カザイン光皇連の本拠地は遥か先であり、モニターにはマーカーが見えるだけ。そこに密集するユニックなんて確認できない。
「いや、戦争に勝つしかないんだ……」
ミハルは決意を新たにしていた。
どこまでも拡がる宇宙空間。敵となるものが存在するなんて数年前には想像もしていない。けれども、彼女は戦闘機パイロットとなり、星系の守護者となっている。
誰よりもミハルは勝利することを望んでいた。




