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Solomon's Gate  作者: さかもり
第六章 新たなる局面に
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波乱の始動

 作戦実行の前日、ようやく401小隊は始動することになった。

 かつては地球圏を代表するパイロットたちの部隊であったものの、今や各エリアの寄せ集めである。


「みんな、よく集まってくれた。俺が隊長を務めるグレック・アーロンだ。事情により401小隊は今後101小隊となる」


 それは聞かされていない話であった。隊員たちは401小隊への異動辞令をもらっていたのだから。


「早い話が、パンドラ基地の無人機部隊は後衛となるらしい。艦隊は同じく最前線に入るけれど、実質俺たちが戦線の矢面に立つことになる。侵攻するに当たって無人機は邪魔だという判断のようだ」


 グレックから理由が語られている。


 防衛に際して無人機はかなり役に立っていたものの、大戦の進軍においてAIは熟練しておらず、右往左往されるくらいなら外してしまおうという話であった。


「本日の任務はパンドラ基地の護衛。間違っても戦闘はない。気楽に挑んで欲しい」


 どうやら隊員たちの紹介はないみたいだ。一応は優秀な人材が寄せ集められている。名前くらいは聞いたことがあるはずだと。

 ただし、401小隊の生き残りである一人を除いて。


 解散となり、グレックは各隊員たちから挨拶を受けていた。ミハルを加えた23名。全員がパイロットスーツへと着替えに行ったあと、最後の一人がグレックの元へと向かう。


「よう少佐、随分と出世したみたいだな?」


 現れたのはデリク一等曹士。彼は101小隊で最年長である。しかし、階級は高いと言えなかった。地球圏の寄せ集め部隊であった頃の名残ともいえるパイロットに他ならない。


「デリク一等曹士、お久しぶり。もう六年になりますか。あの頃は苦労させられましたね?」

「ふはは、俺もまだまだ若かった。あの小僧が再び前線に戻ってくるなんて考えもしなかったぜ」


 ミハルは何も言わず、二人を見ていた。

 事前に話していたように、仲裁などできそうにもなかったから。


「あの件については謝ります。しかし、俺の立場も考えて欲しかった。僚機すら信用できなかった俺は独断で飛ぶしかありませんでしたし」


 言ってグレックは頭を下げている。謝罪はするといった意志を証明するかのように。


「下士官に頭を下げんな。正直に和解が成立するとは思えん。お前の独断で何人が死んだと思っている?」


「俺が死ねば良かったんですか? 生憎と俺は信用ならないパイロットを守るつもりはない」


 謝罪に徹していたら良かったというのに、グレックは強い口調で返した。

 ミハルはいち早く着替えに向かわなかったことを後悔している。


「それは此度も変わらない。一等曹士が協力しないのなら、俺は貴方を無視するだろう。命が大事なら、隊を出て行ってくれ」


 更には最後通告とも取れる話をした。

 クェンティン曰く、生き残りであったために外せなかったという。自ら退いてくれることを望むしかなかった。


「明言させてもらう。貴方の技量は誰よりも劣っている。数値的にも明らか。あんたは邪魔なんだよ」


 二十五番機という序列よりも、グレックが考える立場は低い。戦場でミスをするだけでなく、邪魔立てするというのなら彼は必要なかった。


「悪いが俺はやめない。実力は分かっているさ。あれから、お前は佐官にまでなっているというのに、俺は尉官にもなれていない。だがな、俺は一応、地球圏を代表しているつもりだ。先の大戦で俺だけが生き残った。下手くそな俺だけが生き残ったんだ」


 デリクは語った。なぜにやめられないのか。

 憎んでさえいる男の部隊にしがみつく理由を。


「俺も戦場で死にたい。あいつらの無念を晴らすなんてできねぇが、活躍もしていない俺だけが生き残るのは違うんだよ。せめて最前線にて華麗に逝きたいと願っている」


 グレックは溜め息を吐く。

 生き残ることを前提としていないパイロットなど、本当に邪魔でしかないのだ。


 此度は侵攻軍である。早々に空き番が出てしまっては作戦に支障を来してしまうだろう。


「辞めないのなら、クェンティン司令と話をするだけだ。お前はイプシロン基地に残れ。死ぬことで報いる? 本当に地球人はバカしかいないな?」


「何だと貴様!!」


 言ってデリクはグレックを殴りつける。考え抜いた結論を否定された彼は感情的になっていた。

 対するグレックは頬に手を当てながら、負けじとデリクを睨み付けている。


「お前の思考は更なる犠牲を生む。そんなことも分からないのか? 俺たちは敵陣に進攻するんだぞ? これまでのように補充は簡単じゃないってことくらい分からんのか!?」


 グレックも声を張っていた。

 間違ってもデリクの思考を肯定できない。彼一人が死ぬのは自由だが、残された隊員たちの安全に影響を及ぼすのだから。


 流石にデリクは言い淀む。正論を口にするグレックに弁明などできない感じだ。


「デリク一等曹士、貴方は生きて彼らに報いて欲しい。俺は今回の編成に口を出さなかったけれど、本心を聞いてしまえば貴方を受け入れられない。任務には参加しないで良い。次なる配備の通達があるはずだ」


 グレックはそういうと詰め所をあとにしていく。もう話し合うことはないのだと。


 ミハルも慌てて彼の後を追った。一人取り残されては堪ったものではないのだから。

 波乱の始動となった101小隊。彼らは一人を除いて任務へと就いていく。

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