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Solomon's Gate  作者: さかもり
第六章 新たなる局面に
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 グレックを司令室まで案内したミハル。これにて彼女はお役御免である。


 グレックが入室すると、中にはクェンティンだけがいた。アーチボルトは侵攻計画の段取りで忙しくしているらしい。


「グレック少佐、よくぞここまで戻って来た」


 握手を交わすクェンティンとグレック。両者とも感慨深げな表情をしている。


「いえ、腐っていた俺を見捨てないでいてくれたことには感謝しかありません。必ずや期待以上の成果を残してみせます」


「ああ、心配はしていない。君は佐官に昇格したけれど、大隊の職務はテレンス大佐が行う。小隊長以上の任務は課せられないので安心したまえ」


 佐官に昇格したことで、グレックには大隊規模の指揮権があった。しかし、戦闘機パイロットである彼に余計な役割は与えられていないようだ。


「俺が401小隊の隊長で構わないのでしょうか? 地球圏への配慮は……?」


「もうそれは解決した。声を荒らげる者がいなくなったというより、地球圏が戦いに勝つことを望んでいる。利権に振り回されることなく、奮闘してくれたまえ」


 事前にもらった資料によると、301小隊はアイリスが隊長であり、401小隊がグレックの部隊。木星圏というよりフロント閥のメンバーで占められている。しかしながら、グレックの嫌な予感は既に問題とはならないようだ。


「それに、パンドラ基地においては隊の役割などないも同然だ。どこまでも攻めていく。小隊同士で連携する場面はあるだろうが、厳密なエリアを儲けない方針。プロメテウスと共に突き抜けていくだけだ」


 プロメテウスとはギリシャ神話の英雄に他ならないが、クェンティンが語ったものは土星の衛星である。


 GUNSはパンドラともう一つプロメテウスという衛星を手中に収めている。防衛と侵攻の双方で有効に使用する予定であった。


「読みました。効果的なんでしょうかね?」


「プロメテウスを盾とするのだ。進行時の待避所となる。光皇連は無差別に反物質ミサイルを撃ち込んでくるはず。基地だけでなく、宙域にもセーフティポイントを儲けるというのが、我々の考えだ」


 なるほどとグレックは頷いている。

 反物質ミサイルとか想像もつかない兵器であったけれど、一瞬にしてオリンポス基地が消失したのは彼も知る通りだった。


「同じミサイルであれば、千発まで耐えられる。それ以上になると神に祈るしかない」


「なるほど、よく分かりました」


 AIの試算では千発。威力がアップデートされていなければ、それだけの耐久力があるらしい。


「君の腕前は一等航宙士であった頃から疑っていない。更には術後のデータを精査しても、何ら問題はない。しかし、司令部はどうしても疑いの目で見てしまうのだ。悪く思わないでくれ。少しばかりの確認だ……」


 ミハルのときと同じ。グレックに対しても司令部は疑念を覚えているようだ。


 やはりブランクが原因。実績はルーキーであったミハルとまるで異なっていたけれど、軍部は隻脚であった事実を気にしている。人類の未来を懸けた戦いがあるのだからと。


「不安は俺もあります。けれど、パイロットとして高みを目指す。それだけは決めています。燻り溜まった感情を反発力へと変え、俺は銀河を舞おうと考えています」


 グレックの話にクェンティンはクックと笑い声を上げた。


 彼が配備された当時を思い出している。

 賞金ランカー級と呼ばれた学生レーサーが、なぜに軍部を志望したのか。当時はまるで分からなかった。安定を求めただけかと考えたけれど、そのパイロットは貪欲に戦果を上げ続けていたのだ。


「少佐、懐かしい話をしよう。君はなぜ軍部を志望した? 当時の星系は何の問題もなかったはず。トップレーサーが約束された君が訓練所の門を叩いた理由を教えてくれ」


 既にグレックの決意を聞いたあとだ。だから、その問いは雑談の延長にすぎない。


 小首を傾げるグレックであったが、元より理由は一つしかない。彼がレーサーを選ばなかったわけは単純な意味合いしかなかった。


「木星圏の代表大会で圧勝しました。そのレースが行われたあと、俺はレース協会の会長たちと話をしたのです。まあ、それでへそを曲げただけですね」


 よく分からない返答だった。眉を上げながら、クェンティンが質問を加える。


「アイリス少尉のような話だな?」


「いやまあ、お恥ずかしい限り。アイリスのことをとやかく言えません。なぜなら俺は短気を起こして、推薦状をオルソン会長の顔面に投げつけてしまったのです」


 穏やかじゃない話にクェンティンだけでなく、ミハルも驚いていた。


 通常は学校へと送付される推薦状。わざわざ持参した協会の重鎮たちに投げつけるだなんてあり得ない。


「何を言われたんだ? 冷静な君らしくないな?」


「いやいや、俺は割と尖っていたんですよ。でも、腕前を否定されたくらいじゃ、流石の俺もそこまでしなかったと思いますけどね……」


 益々難解な話になっていく。どうやらグレックは操縦技量について指摘されたわけではないらしい。


「既に俺が一番の実力者だと言われました。当時のトップレーサーよりも……」


 続けられた理由にクェンティンは眉間のしわを増やす。どう考えても褒められていたというのに、グレックは気に触ったと語っている。


「そんなヌルい団体に入るつもりはねぇよと言ってやりました。俺は本気でこの銀河で一番のパイロットになりたかった。頭にきたんですよ……」


 想像よりも短気を起こした結果であった。志は素晴らしいと言えたのだが、人生を左右する瞬間を台無しにするなんてあり得ない。


「ま、そんなわけで、俺は行き場がなかったんです。教員にも怒られましたし、反省の意味を込めて訓練所に入りました」


 少しも公になっていない事実は未成年であったからだろう。推薦取り消しを、個人の意志としてくれたのは協会の温情に違いない。


「一つ間違えたのなら、君はレーサーをしていたのだな……」


 溜め息を吐くクェンティン。人類にとって有益ないざこざが過去にあったと知っては言葉がなかった。


「結果として、俺は充実していますよ。本当に銀河で一番を目指すのであれば、レーサーじゃなかった。競い合う相手のレベルが段違いです。あながち会長の話は間違っていなかったみたいですね」


「そうかもしれんな。しかし、現状は君が作り出したとも言えるぞ? アイリス少尉の動機は君の存在だったし、ミハル君は少佐が育てたのだから」


「どうでしょうかね? 少なからず寄与しているでしょうけど、最大の功労者はオルソン会長ですよ」


 ちょっとした冗談を二人は笑い合う。

 しかし、クェンティンとしては冗談で済まない話だ。現状はグレックがいなければ、成り立たない。彼がいなければ、アイリスはレーサーをしていただろう。更にはアイリスがレーサーであるのなら、ミハルもまたいない。


「作戦開始は二日後だ。まあ実戦ではないが、空気を掴んで欲しい」


 これにて到着早々の話し合いが終わる。

 来たるべき日に向けて、グレックは静かに牙を研ぐだけであった。

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