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Solomon's Gate  作者: さかもり
第六章 新たなる局面に
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決意を覚悟に

 ゲート裏の制圧という任務を終えたミハル。翌日の任務は免除されていたけれど、二日目からは普通に訓練やら警備飛行やらと忙しくしていた。


 本日も小隊の訓練が終わったあと、ミハルは一人食堂へと向かっている。


「ミハル!」


 遅い昼ご飯を考えていたミハルに声かけがあった。


「ベゼラ!?」


 意外な人物に遭遇。普通に出歩いているけれど、一応は亡命者なのだ。広いイプシロン基地の通路で出会うなんて考えもしていない。


「ミハル、どこへ行く?」


「ああ、お昼ご飯をね……」


 あれから顔を合わせていないミハルは苦笑いだ。好きだと言われてしまった彼女は任務を免除された日も会話レッスンに行っていない。


 とはいえ、昨日までベゼラはガナハの制圧部隊に参加していたので、機会がなかったのも事実である。


「ミハル、話をしよう!」


「いいけど、ご飯食べながらで良い? お腹減っちゃって……」


 二人して食堂へと向かう。

 何を話そうかと思案していたミハルは、ふと疑問を覚えていた。


「そいや、どうしてこの通路にいたの?」


 ミハルがいた通路の先はドックへと繋がるだけだ。背後から来たベゼラは間違いなくドック方面から来たと思う。


「私も操縦している。そのうちに配備されるかも」


「本当に? やったじゃん、って喜んで良いのかな?」


「もちろん。私はそれを望む」


 反応速度は随一の数値。慣れてきたのなら、更に向上していくはず。ミハルは司令部が考える結末を予想していた。


「じゃあ、カツ丼を食べようか!」

「カツ丼?」


 突拍子もない話にベゼラは眉根を寄せる。カツ丼も分からなかったし、じゃあと繋がる理由も分からない。


「私のおばあちゃんがね、レース前とか作ってくれたのよ。おばあちゃんの産まれた国の験担ぎ。カツと勝つって同じ響きなんだって。メニューにあるポークカツレツボウルがカツ丼のことよ」


「おお、カツ丼! 分かった! 私はカザインに勝つのだな?」

「そゆこと!」


 二人してカツ丼をオーダーし、席につく。混み合う時間を過ぎていたから、空席を探すことなく着席できている。


 ベゼラが興味津々に一口。直ぐさま彼の表情が変わった。


「美味!」

「いやいや、美味って! 間違ってないけど、そこは美味しいとか旨い! って言った方が自然かな」


「旨い!」

「そう、それ!」


 二人して笑う。何だか身構えていたのが嘘のように。皇子様だと聞いていたのだが、ベゼラは本当に素直で、嫌味も感じなかった。


 このあとはもくもくと食事をする。最近の話題はゲート裏への侵攻のみ。彼の故郷である光皇連の船を撃沈した話題なんて、ミハルは口にできない。


「ミハル、素晴らしい戦果」


 意外にもベゼラから、その話題があった。

 素晴らしいというベゼラだが、内心は複雑であったことだろう。ミハルは頷くだけで返事としている。


「気にするな。被害ないは無理。人類が無事だった。それは幸せだ」


 確かにGUNSの被害はゼロであった。白兵戦時に怪我を負った者が少数いただけであり、死者や機体の損傷はない。


「優しいんだ……」


「優しい? ミハル、誤解している。私は見た。カザインのせいで、出撃する同胞。爆死を承知で散った者たちを」


 ミハルは記憶を蘇らせていた。

 初めての銀河間戦争。有人機が反物質爆弾ごと向かってきた話を。


「そうね。戦争は人を壊していく。肉体だけでなく、その思考さえも……」


 罪のない人を殺めるなんてできない。しかし、敵と認識したものであれば、撃ち抜けてしまう。考えないようにしていた事実は思考としておかしかった。


「壊す?」


「だって、私は戦った結果を誇りに思っているのよ? ホント、怖くなるよ。得られた立場が大勢の命を奪った対価だなんて……」

 

「ミハル、死にたくないだろ? 立場が逆でも戦っただろ?」


 それは当たり前の話だ。

 もし仮に光皇連側に属していたのなら、ミハルは人類に対して戦っただろう。死にたくないとの思いは不変であるのだから。


「それはね……。だけど、そんなの言い訳よ。我が身可愛しで戦っているだけだもの」


 結果としてミハルはこの命の代償として、多くの命を奪っている。肯定できるほどの理由はない。


 沈んだような表情のミハルに、ベゼラは言葉がなかった。勇気づけるのも違うと感じたし、何よりミハルの話は正論だったのだから。


「ミハル、私も戦う。一人で背負うな……」


 そういうのが精一杯だった。ミハルの責任ではない。罪悪感は参加した全ての兵士たちで負うべきだと。


「終わらせなきゃいけないよ。戦争なんか続けるべきじゃない……」


 ミハルの言葉にベゼラは頷く。

 彼女が背負ったものの重みが、それ以上加算されないようにと願うしかない。


「ミハル、もう少し待て。私の覚悟を見せる」


 何のことだか分からない。ベゼラの覚悟は既に知っているつもり。敵軍に亡命してまで戦いを選んだ彼のことは理解したつもりだ。


「覚悟……?」

「親も兄弟も関係ない。私はただカザインを討つ。その覚悟を見せる」


 ベゼラはそう言った。戦争を終わらせる唯一の手段がカザイン光皇を討つことなのだと。


「ミハルの苦しみがなくなるように。私はそれを願う」


 言ってベゼラは席を立つ。

 ミハルに手を振って、トレイを返却口へと返している。


 どうやらミハルとの会話によって、ベゼラは決意を覚悟に変えられたようだ。

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