戦女神
イプシロン基地司令部では作戦の全貌を見届けている。
開始から僅か二十分。ほぼ全ての艦隊が機能を停止していた。予定していた一時間という作戦時間の半分も経過していないというのに。
「アーチボルト、これは予想外だな……」
「ええ、誰に予想できましょうか……」
クェンティンとアーチボルトは唖然とモニターを眺めている。
既に次なるフェーズへと進むべき頃合いであったというのに、蹂躙され続ける巨大戦艦を見ているだけだ。
「A997-DUO戦闘機にこれだけのポテンシャルがあるのか、或いは機体性能以上をパイロットが引き出しているのか……」
「エアーダス社には感謝状でも贈っておきましょうかね? かといって操縦者が神がかっていることは否定できませんけれど」
圧倒的戦果に加え、被害はゼロ。それは当初の目論見通りであったものの、その過程は予定からすると、まるで違う何かだ。大規模偵察の方が、よほど戦争らしいとさえ感じる。
「どうします? もう少し破壊した方が白兵戦も有利に運ぶかと考えますが?」
「そうだな。せっかく調子づいているのだ。気が済むまで撃ち放ってもらわねば、戦女神たちに文句を言われそうだ」
確かにとアーチボルト。一度目の侵攻では罰を受けた二人なのだ。せめて二度目の侵攻は好きにしてもらおうかと。
「それでアーチボルト、ベゼラ君が話していた皇子殿下はいると思うか?」
「可能性として高いかと考えますけれど、大戦のあと帰還した場合も考えられるかと」
これだけの船を用意した背景に皇族がいることは想像に容易い。ただ敗戦に終わった結果を受けて帰還したとも考えられた。
「どちらにせよ司令官級の人材は必ずいるでしょう。もっとも、ミハルさんたちの攻撃で運悪く失われているかもしれませんが……」
「まあ、そうだな。別にいてもいなくても構わん。悪に与する側の捕虜など、処理に困るだけだ」
クェンティンは生死問わずと考えているらしい。ベゼラがいるだけで大義名分を得られるのだ。懸念すべきは彼の命であって、カザイン皇家の血など必要なかった。
「司令! アイリス少尉から伝達です!」
ここでようやく戦女神からの連絡。流石の彼女もいつまで攻撃すれば良いのか分からなかったようだ。
伝達文はかなり短かったらしく、オペレーターはアイリスのメッセージをそのままに伝えている。
「いつまで寝ぼけている?――だそうです……」




