永遠の罰を
「ベイルはE側の掃討! 私とミハルはW側に突っ込んで行く!」
『了解しました!』
何とかゲートを通過した301小隊。
ここまでは予定通り。あとは二手に別れて殲滅するだけだ。
「いくぞ、ミハル!」
「分かってます!」
ミハルを先頭にして縦列編隊を組む。しかしながら、金色に輝く二機の機体は各々が巨大な砲身を操っていた。
「撃てぇぇっ!!」
二つの重イオン砲が宙域を裂く。どこまでも伸びていくのは以前と変わらない。やがて巨大な爆発が起きることまでも。
「撃ちまくるぞ!」
「了解!!」
もうミハルの緊張は解れていた。ここまで来たのなら戦うだけ。幸いにもアイリスが支援機であるし、全力で挑むだけだ。
二人はものの数分で四隻を機動停止に追い込み、二隻を爆散させている。
かといって、敵艦は航宙機を射出しており、乱戦は避けられない。
「腕が鳴るなぁ、ミハル!」
「しっかり支援してくださいよ!?」
「誰に言っている!?」
人類に平穏をもたらせるというSOA作戦。プロローグとも言える戦いが始まっていた。
◇ ◇ ◇
旗艦ガナハの司令室。大戦後ということもあり、人員の数は限られていた。
しかし、突如として警報が鳴り響く。大きな椅子で居眠りしていたグリダルは飛び起きている。
「何事だ!?」
大戦から一週間と経っていない。太陽人の偵察は全て撃ち落としていると聞いていたし、司令部を預かるグリダルには状況が飲み込めない模様だ。
「侵攻です! 太陽人が攻め入って来ました!」
「詳細を話せ! 何も分からん!」
怒鳴るようにいうと、オペレーターがグリダルに返す。
「小隊規模です! 既に六隻の艦隊が爆散ないし、足止めされています!」
「何だと!? 航宙機を射出しろ! 小隊規模など蹂躙してやれ!」
「いや、それが……」
苛立つグリダル。ガナハにはハニエム総統だけでなく、エザルバイワ皇子まで搭乗しているのだ。失態は自身の首など一瞬にして斬り落とすことになるだろう。
「黄金の機体が出現しています……」
オペレーターの話には嘆息する。何度も耳にした機体が侵攻部隊に混じっているなんて。
「また、あの機体か。航宙機で取り囲んで潰せ。動ける艦隊も同様だ」
「いえ、それが……」
煮え切らないオペレーターにグリダルは苛立つ。けれど、理由を聞かされた彼は呆然とすることになった。
「黄金の機体は二機なのです……」
光皇を思わせる黄金の機体。それは今まで一機しか現れたことがなく、絶対的エースであったはずだ。
「カモフラージュじゃないのか? 我らを惑わせるためのもの。AIにて判別してみろ」
「いやそれが、どちらも圧倒的数値を叩きだしており、どちらが真のエースなのか分からないのです」
データを転送しろとグリダル。手持ちの端末にて彼は確認を始めている。
「こ、これは……?」
確かに、現れた金色の機体は二機共がエースと言える数値を出していた。オペレーターが困惑するほどに、超高レベルで似通ったデータに他ならない。
「グリダル司令! 残存艦隊、あと三隻です!」
言い争っている間にも脅威が迫り来る。
呆然とするグリダル。たった一機でも持て余していたというのに、それが二機も現れたとなっては……。
「エザルバイワ皇子の脱出シップは用意できるか?」
「はっ! 直ちに用意します!」
グリダルはもう一定の結末を予感している。ゲート裏に残った戦力ではどう足掻いたとして無駄なのだと。
「ガナハ、被弾しました! 右舷推進機損傷! 続いて……」
圧倒的すぎた。強大な艦船に群がるのは小蠅の如く小さな機体。しかし、それは致命傷を与えようと攻撃し続ける。
この激しい揺れが収まるはずもないとグリダルは思った。黄金の機体は確実に自軍を凌駕する。しかも、二機同時に現れているのだから。
「ハニエム総統を呼び出してくれ……」
正直にもう打つ手がない。旗艦ガナハは移動要塞である。従って光速域で逃げるなんて不可能だ。今となってはその巨大な構造が徒となっていた。
「牙を剥く者が光皇の如き機体であるのなら、我らはそれを受け入れるだけだな……」
激しい揺れは延々と続く罰であるかのよう。一矢報いるどころか、やりたい放題にされている。ともすれば、爆散するまで撃ち続けるのかもしれないとグリダルは覚悟した。
長い溜め息と共に、グリダルは悔恨の言葉を口にする。
「どうやら乗り込む船を間違ったようだな――」




