二人の女神
出撃した301小隊はゲート脇に陣取る艦隊に囲まれている。
ここからは作戦のカウントダウン。部隊がゲートへと突入するまでの事前準備があった。
「ま、今回は一機じゃない……」
実をいうとミハルも緊張していた。前回は光皇連も予期せぬものであったけれど、今回は偵察機も即座に撃墜されているという。よって、ゲートを潜る際のタイムラグが心配であった。
『59……58』
ようやくとカウントダウンが始まる。
小隊を取り囲む防護壁の推進機が起動。それらは隊列を成したままゆっくりとゲートへと向かっていく。
ミハルたちの突入はゼロタイミングとなったとき。カウントがゼロを示した瞬間に全速力で突っ込んで行くだけだ。
『18……17……』
徐々に緊張感が高まっていた。一分前からのカウントダウンは流石に長すぎると感じてしまう。
『10……』
「全機、出力全開! 突っ込めぇぇっ!!」
ここでアイリスの号令。計算されたこの位置から真っ直ぐに飛べば、防護壁に守られながら、全機がゲートを潜り抜けられるはずだ。
「全機、照射!!」
周囲は防護壁に守られていたものの、正面に敵機がいないとは限らない。
ゲートへと進入する直前にビーム砲の照射が命じられている。
「いけぇぇっっ!!」
ミハルは声を張った。緊張を紛らわそうとして。
スコットほどではなかったけれど、ミハルも少なからず任務に対する重圧を覚えている。
◇ ◇ ◇
司令室では作戦の完遂まで総員配置にて挑む。少しの隙すら連軍に与えはしないのだと。
「全機、ゲートに取り憑きました!」
作戦が始まってしまえば、司令部は見守るだけだ。
不測の事態に備えるだけであった。
「防護壁が攻撃を受けています! 被弾数32!」
「誘導弾、撃ち放て!!」
進入したのはただの防護壁ではない。トーチカや航宙機を撃ち落とす誘導弾が搭載されている。ゲートを抜けるや、クェンティンは応戦を命じていた。
「砲門の30%が損傷! 残りをフル稼働します!」
間違っても事前段階でエース部隊を失ってはならない。熟考を重ねられた作戦は多少のイレギュラーも織り込み済みだ。
「通信ラグ補正! センサーを航宙機へと切り替えます!」
戦況は防護壁と航宙機に組み込まれたセンサー頼りであった。
ゲートの内側に送受信機を多数設置して、できる限りリアルタイムの状況を確認している。
「全機、ゲートを通過! 交戦始まります!」
「モニターを切り替えろ!」
命令を終えたあと、クェンティンは長い息を吐く。
パイロットには失敗ありきの計画だと伝えたものの、軍部主導で立案した今回の作戦は政治的に失敗など許されない。無駄な人命が失われるなどあってはならなかった。
「アーチボルト、彼女たちならやってくれるはずだな?」
柄にもなく同意を求めている。少数精鋭を選んだことが間違いではないのだと。
「もちろんです。乱戦になっては被害が少なからず生まれます。無傷での制圧は301小隊以外に達成できません」
信用するだけですとアーチボルト。これまで幾多の難局を乗り越えてきた部隊はここでも信頼に足るのだと。
「SOA作戦なくして人類に平穏は訪れませんよ……」
「ああ、我らは間違っていない。しかし、神にでも祈りたくなる……」
二人して笑う。だが、それは本心であった。
失敗が許されない作戦なのだ。未来に光を手繰り寄せるこの戦いは、神に祈る価値が充分にあった。
アーチボルトはモニターに視線を向けたまま、クェンティンに返答を終えている。
「きっと二人の女神が微笑んでくれますよ――――」




