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Solomon's Gate  作者: さかもり
第六章 新たなる局面に
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811小隊の特訓

 811小隊の面々が指定宙域へと到達。早速とアイリスの説明があった。


『愚鈍な貴様らに言っておく。最前線は撃墜してこそ生き残れる。逃げ回る隙などない。セフティエリアは自ら生み出さねばならん。当然のこと敵機を撃墜することでだ』


 ミハルは頷いている。

 何も間違っていない。宙域を先読みしていく要素の中に、自身の撃墜が含まれているのだから。


『被弾してもいい。とにかく生き残るために撃て。一機でも多く撃墜しろ。あらゆる方向に敵機が蠢いているが、自身のエリア以外は気にするな』


『アアア、アイリス少尉、一つよろしいでしょうか?』


 ここで意外な展開となる。小隊長であるデービスが質問を始めていた。


『何だ? 言ってみろ?』


『恐縮です。担当エリアを意識するだけで生き残れるのでしょうか?』


 それは素朴な疑問であった。これまで戦線外の配備であった彼らには防衛ライン上での戦い方が分からないらしい。


『駄目だ。求めるものは宙域の動きを大まかに把握することだが、そこまでは要求しない。自身の担当エリア以外にも機首を向けている機体は確認しなければならん』


『他のエリアにいても撃墜するのですか?』


『無論のこと危険度の順位付けが必要だ。向かってくる機体は最優先。これが鉄則だ。なぜなら、敵機には我らのエリアなど関係ない。攻めやすいように攻めているだけなのだ。従って、味方を誤射しないのであれば、そこまでエリアは重要視しなくていい』


『了解しました!』


 ミハルは割と感動している。

 アイリスの指示が予想よりもずっとまともであったからだ。加えて内容は適切。アイリスはすべきことを明確に伝えている。


『それでは開始する! 諸君らの健闘を祈る!』


 遂にシミュレーションが始まる。

 ミハルはキャロルの前へと機体を出し、敵機が飛来するときを待つ。


「ミハル、どうすればいいの?」

「落ち着いて。私に着いてこれるのなら、被弾はしないから」


 キャロルは思い出していた。

 そういえばジュリアが語っていたことを。ミハルは後衛機の安全まで考えたフライトをするのだと。


「じゃあ、とりあえず着いていく。頑張ってみる!」

「ジュリアでもできるんだから、気楽にしていいよ!」


 瞬時にホログラムが映し出されていた。


 キャロルは息を呑んでいる。レーダーに映し出される機影の数。数えきらないほどの敵機には戸惑うしかない。


「行くよ! W方向に旋回しつつ、裏を取る!」


 キャロルを余所に、戦闘が始まる。

 焦るキャロルだが、聞いていたようにミハルの機動を追う。指示がなければ、絶対に置いて行かれたことだろう。


「速いっっ!!」


 ミハルは別人だった。キャロルが知っているのは訓練所までだ。あれから一年程度しか経過していないというのに、目で追うのも困難な機動をミハルは繰り出してる。


「SM199チェック、そこから順番に!」

「じゅじゅ、順番!?」


 まるで思考が追いつかない。これまで戦線に現れる敵機は多くても十程度。数百機が蠢く中から順番なんて決められなかった。


「SM119シュート! SM322チェック!」


 淡々と撃墜していくミハル。

 キャロルは支援すらできずに、彼女を追いかけるだけだ。


「そっか……。順番はミハルの進行方向に現れる順……」


 何となく意図は理解できた。

 SM199は明確に向き合っていた。それを撃墜した頃になって、SM322が進行方向へと入っていたのだ。


「ミハルは敵機の動きを分かってる……」


 あり得ないことだったが、現にミハルは順番に撃墜している。機動を変えることなく淡々と。


「キャロル、落ち着いて。ターゲットマークの向き。十秒後にどうなるのか。それを想像してみて!」


 どうやら支援は必要ないらしい。

 ミハルは実際にこの猛攻を凌いで生き残っている。シミュレーションでもあるのだから、彼女は気にしていないようだ。


「分かった。よく見てみる……」


 キャロルは集中していた。ミハルが指示をしたあと、どういった機動を取るのかと。あわよくば、支援したいと考えている。


「SO099チェック、UE方向旋回のあとS旋回!」


 いきなり応用編のような指示。しかし、キャロルはモニターを注視する。蠢く敵機の中から正解を見つけ出そうと。


「バカじゃないの、ミハル……。あたしを誤解してるって!」


 SO099を撃墜したあと、指示通りにミハルは機首を上げUE方向へと旋回。そのあとは姿勢を立て直すようにS方向へと向き直るはず。


「SM783フォロー!」

「惜しい! それじゃない!」


 反応してみるも、即座に間違いだと返されている。キャロルがチェックした機体はもう既にミハルが撃墜したあとだ。


「SM783は私に任せていいの。前衛機を信頼しないと前線ではどうにもならない。怖いだろうけど、最優先の次の敵機をマークして欲しい」


「そっか。ミハルが見逃すはずないもんね……」


 明らかにSM783は脅威だった。今にも撃ってきそうな感じ。だからこそ、キャロルは進路を押さえたつもり。


「トップパイロットは点じゃなく線で飛ぶ。照射ラグの三秒を有効に使うの。常に撃ち続けられるよう、優先順位に基づき機体を動かす」


 言わんとすることは理解できた。

 確かにミハルは常に撃ち続けている。三秒以上の間隔は一度も空いていない。


「次の三秒までに敵がどう動くのかを考えれば良い?」


「それができれば一人前。ただ急に優先順位が変わる場面もあるから、慣れてきたなら視野を広くすると良いよ」


 ミハルが見ている世界。気後れしそうなほど遠く霞んでいたけれど、キャロルはやってやろうと思う。


 いつかはミハルの支援機を務めたい。だからこそ、やる気に満ちていた。

 世界を救うなんて大仰な目標は立てられないけれど、ミハルと共にあるくらいは自分にもできるはずと。


「ミハル、もっと教えて!」

「了解。次はTA324から順番に……」


「なら、SU557をフォローよ!」

「ハズレ。機首をよく見ないと……」


 まるで正解が分からなかったけれど、このあともキャロルは問答を続けた。

 ミハルが見ている世界に少しでも近付くために。


 第811小隊はエース二人の指導を時間一杯まで受けるのだった。

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