予定にない演習
翌朝、ミハルはキャロルと共に第八ドックへと来ていた。
予想とは異なり、301小隊のメンバーがそこにいる。しかし、ミハルは811小隊の訓練に参加するつもりだ。
「ミハル、何の用だ?」
早速とアイリスに絡まれてしまう。一応はまだセラフィム隊の所属であったが、既に301小隊は補充が完了しており、ミハルの機体番号はなくなっていたというのに。
「ああいや、811小隊の訓練に参加しようと思いまして……」
「何だと? へっぽこ部隊の訓練に参加してどうなると言うんだ?」
大きな声で悪びれることなく悪口を言うアイリス。流石にミハルは誤魔化すように笑うだけだ。
「友達がいるからですよ……」
「ああ、マッシュルームキラーだったな。よし、私も参加しよう!」
「やめてください! 少尉が参加したら滅茶苦茶になる……」
「うるさい! 警備飛行だけでは物足りん。私が稽古してやろうというのだ。全員が諸手を叩いて喜ぶことだろう!」
「どこにそんな自信が……」
絶対に怖がられるだけだと思う。更には断り切れずに引き受けてしまうことも。
「ダンカン、私の機体をシミュレーションモードにしておけ。これより広域シミュレーションを始める!」
「ちょっと、勝手に!」
猛烈に頭痛を覚えている。この大声なので811小隊の面々には筒抜けであった。アイリスの予想とは異なり、戦々恐々といった感じだ。
「ミハル……」
キャロルが不安そうな表情で近寄ってくる。流石にアイリス・マックイーンまで参加するなんてキャロルは小隊長に伝えていないことだろう。
「諦めてくれる? この人、言い出したら聞かないから」
「みんな、青ざめてるよ。何とかミハルから……」
「おいマッシュルームキラー、私が稽古を付けてやるのだ。全員が期待に胸を膨らませているのだろう? それにミハルが加わるのなら、一人溢れてしまうはず。貴様のパートナーの支援は私がしてやろう!」
どうにもアイリスは本気だった。
ミハルが参加するというのなら、姉弟子として義務だとでも考えているのかもしれない。
「ダンカン、シミュレーションエリアはE側Eブロックに設定しろ! このへっぽこ部隊に最前線の密度を教え込んでやろう!」
ミハルは薄い目をして見ている。
もうどうにもならないと。残念ながら、811小隊では何度被弾するか分からない。
「少尉、流石にEブロックは厳しいと思います。811小隊は初めて戦線配備された部隊ですよ?」
ミハルの進言に小隊の面々は壊れた水飲み鳥のように頭を上下させている。ミハルが説き伏せてくれることを切に願っていた。
「だからこそだ! ヌルい訓練など意味はない。被弾したとして痛くも痒くもないのだぞ? 訓練で被弾するのは大いに結構だ。実戦では体験できないのだからな」
言われると正しいように思う。最悪の環境を経験しているのなら、持ち場の環境においては戦いやすくなるかもしれない。
「キャロル、諦めなさい。Eブロックでシミュレーションをしましょう」
「えええ!? ミハルって、そんなにドSだったの!?」
ミハルが同意するや、アイリスが手を叩いた。小隊長に編成を命じてから、守護エリアを通達。まるで自身の部隊であるかのように扱ってしまう。
「ささ、キャロルも搭乗して。どうせシミュレーションよ。敵機の数に驚くのは最初だけ。慣れたら一緒だから」
「本当ぉ?」
渋々とキャロルは自機へと乗り込む。
それを見届けたミハルもまた黄金の機体へと乗り込んでいく。
ミハルは少しばかり楽しくなっていた。未知なる経験が小隊にどのような影響を与えるのか。
親友がどのような支援をしてくれるのかと。




