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Solomon's Gate  作者: さかもり
第六章 新たなる局面に
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悩ましい問題

 司令部ではクェンティンとアーチボルトに加えて、テレンス大佐までもがフライトデータを確認していた。


 そもそも今回の企ては全てベゼラが最前線を希望していたからだ。後衛機として、どの程度やれるのかを見定めようとしている。


 第八ドックから送られてきたデータ。三人共が難しい顔をしたのは、予想が外れていたからだろう。


「亡命した部下の二人に聞いた話からも、そこそこやるのだと考えいてました。まあしかし、ミハルさんが本気を出すほどでしたか……」


 アーチボルトは苦笑いだ。比較対象として据えたエースパイロットが本気を出してしまうほどだと知って。


「ああ、確かに。AIの判定も最優と出ている。特に反射神経が優れているみたいだな?」


 二人は得られたデータに満足しているようだ。ところが、テレンス大佐は否定するような話を始める。


「しかし、データだけで判断して良いものでしょうか?」


 実戦ではなく、ただのデータ。テレンスは数値こそ評価していたけれど、実力は未知数だと言いたげである。


「テレンス大佐、我々はこの銀河間戦争において、最大の過ちを犯す寸前だったのだぞ?」


 疑問を投げたテレンスにクェンティンが返す。データを信頼する理由について。


「あのときも大いに揉めた。若すぎる。経験がない。数値だけだと。だが、蓋を開いてみるや、どうだ? エース不在の大戦においてトップシューターに輝いてくれた。彼女がいなければ、この今はなかったかもしれない。彼女を切り捨てなかったこと。この大戦における最大にして最高の判断だったと考えている」


 クェンティンの語る内容はテレンスにも分かった。

 元より自分が預かる部隊員だ。空いた大穴をそのまま埋めてしまった彼女には感謝しきれない。


「ミハル君ですか……」

「司令が話される通りです。先入観は害悪ですから。まして我々は存亡の機に立たされています。あらゆる選択肢を試すべきであり、試すよりも先に切り捨てるのは愚策です」


 頷きを返すテレンス。あの大戦はまさしくミハル・エアハルトなくして成立しなかった。中央が抜かれてしまったのなら、後手後手に回っていただろう。


「その彼女が本気を出したのです。恐らく軽い気持ちで請け負ったはず。けれど、思わぬ追尾機動を見てしまった。それこそ負けず嫌いな彼女が本気を出す場面です」


 テレンスにもよく理解できた。アイリスにも対抗心を燃やす彼女が異星系の人間に軽く追いつかれるなんて我慢ならなかっただろうと。


「確かに。ミハル君の才能はある意味においてアイリス少尉を越えているように感じます。彼女が本気を出して振りきってしまうほどの才能は私の部隊におりません」


 順位付けするならば、401小隊で三番目の実力者。テレンスは付け加えていた。


「気が早いかもしれませんが、彼を我が部隊に配備してもらえるのでしょうか?」


 議論は次なる段階に。登用の可否を越えた話し合いとなる。


「それは本人の意思確認後になる。何しろ彼は戦後処理に必要な人材だしな」


「配備するなら適切な人選が必要ですね。後衛機を守れる者は限られておりますけれど……」


 アーチボルトが返答する。

 絶対に安全が保証される場所。戦闘機パイロットであれば、そんなサンクチュアリは存在しないのだが、GUNSには二つばかり存在もしていた。


「あの二人か……」


 言ってクェンティンは溜め息を吐く。その理由は二人のうち一人が適切という言葉に合致しないからで、もう一方は既にコンビが決定していたからだ。


「アーチボルト、貴様ならどちらを選ぶ? 当然のこと本人が最前線を望んだ場合だが……」


「難しい問題ですね。熟練度でいうならアイリス少尉かと思いますが、彼女は何をしでかすか分かりませんし。一方でミハルさんは後衛機に左右されるというデータがはっきりと出ています。些か不安を覚えますね。もう一つの選択肢についてはブランクがネックです。最適と思えるパイロットなのですがね……」


「ああ、グレック大尉もいたな……」


 どれも一長一短であった。本来であれば、グレックの一択になったのだが、やはり手術後ということで前衛機を任せるのは荷が重いと感じる。


「しかし、このデータはある程度自力で凌げるパイロットの数値ですが?」


 ここでテレンス大佐が意見する。守護することを第一と考える司令部とは異なる意見。データ上の話であったけれど、反応速度は所属パイロットと比較しても充分に上位と言えるものであった。


「それは分かっている。国賓とも言える立場がややこしくしているのだ」


「そうですね。やはり前線に送り込むのはリスクが高すぎるかと……」


 テレンスとて戦力だと考えていたけれど、万が一の場合を考えると無理強いはできない。消極的な案を口にするしかなかった。


「まあしかし、彼は逃げないだろう。何しろ国のためを思って、異星人に亡命してしまうほどだ。我々に助力を願うだけで彼が納得するはずはない」


「そうですね。私も何度か話をしましたが、実直な青年です。言語もかなり習得していますし、いち早く戦線に加わりたいと考えていることでしょう」


 新たな局面を迎えた銀河間戦争。ようやく前進しつつあったのだが、現場を預かる者たちの苦悩は絶えない。


 しかしながら、それは喜ばしい悩みであり、攻め込まれる時を待つだけだった頃とは明らかに異なっていた。

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