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Solomon's Gate  作者: さかもり
第六章 新たなる局面に
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飛行レッスン

 ミハルとベゼラは第八ドックへと来ていた。

 現状は休憩時間らしく、隊のメンバーも811小隊の姿もない。整備士のダンカンが二人を迎えてくれただけだ。


「おうミハル、イケメンを連れて来たじゃないか? 宙間デートか?」

「やめてくださいよ。軽く飛べたらいいので整備してください……」


「ミハルの機体は完璧な状態だ。イケメンの機体ならX型しかねぇな……」


 ドックには黄金の機体がもう一台あったけれど、どうやらそれはアイリス専用機らしい。


「イケメン?」

「気にしないで。この整備士は口が悪いの」

「酷いな、ミハル!」


 ダンカンもベゼラがどういった人物なのか知っているようだ。イケメンというジョークは彼なりの歓迎なのだろう。


「機体番号は3SP00で登録しといた。イケメンは3SP26だ。データは司令部に命じられているから取らせてもらうな?」


「ありがとうございます。問題ありません」


 正式な辞令はまだであったから、今もミハルはセラフィム隊として扱われるとのこと。

 早速と搭乗し、システムを起動。以前と変わらぬ速度で認識を終えていた。


「ベゼラさん、準備できたら言って」

『ベゼラで良い。敬称いらない』


 呼称について返答があった。皇子様だと聞いていたミハルとしては不敬に当たらないか不安である。


 とりあえず、ミハルは会話でもしようかと思う。何しろ、初回の脳波認証には割と時間がかかるからだ。


「操縦は分かるのよね?」

『大丈夫。ほぼ同じだ』


「そうなんだ。簡単に許可が出たからそんな気もしてたよ」

『ミハルの全開を見せて。それが見たい』


 ベゼラはミハルの本気が見たいという。エースパイロットだと知ってた彼は興味があるのかもしれない。


「いやいや、私はこれでも操縦桿を握ると豹変するのよ?」

『豹変?』


 疑問を返すベゼラ。どうも難しい語彙だったようだ。ならばと、ミハルは分かりやすい言葉を探してみる。


「性格変わる。驚くな。いい?」


 適切な単語が分からなかったミハルは片言で返している。

 事前に伝えていないと怖がられる可能性もあるのだし、説明しておくべきであろう。


『準備終わった。いける』


 何だかミハルは面白くなっていた。

 会話レッスンから、どうしてか航宙機に乗っている。最も得意とする分野でミハルは実力を見てもらいたい思う。


「管制、3SP00ミハル・エアハルトです。発進許可願います!」

『管制了解。3SP26の発進も聞いております』


 どうやら事前に話が通っていたらしい。何の問題もなく、二機は発進デッキへと運ばれていく。


「3SP00発進します!」


 まずはミハル。ちょうど訓練の空き時間らしく、直ぐさまベゼラも発進となった。


 ただ宙域を飛ぶだけ。しかしながら、司令部はデータ取りを命じている。

 これには疑念が思い浮かんでしまう。管制へと話を通していたこともそうだし、ミハルの機体は出撃可能状態であった。ダンカンが難色を見せることなく引き受けたことからも、司令部の思惑だろうと考えられる。


 恐らくはベゼラの腕前を見極めるため。戦力になるかどうかを精査するため、ミハルはダシに使われた模様だ。


「W方向に行くから!」

『了解』


 ゲートから離れた場所を目指す。今のところベゼラは何の問題もなくミハルを追尾している。


「ベゼラ、徐々に上げていくわよ?」


 要請通りに、ミハルは敬称を付けずベゼラを呼ぶ。本人の希望なのだから問題はないだろうと。


『気にするな。全開でいけ』

「泣いても知らないからね?」


 言ってミハルはスロットルを踏み込んだ。

 もちろん全開ではなかったけれど、素人であれば瞬く間に視界から消えていくような速度。しかし、どうしてかベゼラの機体は普通にミハルを追いかけていた。


「ちょ、聞いてない……」


 やはりミハルは謀られていたのかもしれない。

 準備の良さから飛行許可が直ぐに下りたこと。会話レッスンから飛行レッスンに移行することまで計算されていたように思う。


「私をバカにしてんの?」

『ミハルはバカ?』


 独り言に返されてしまう。けれど、司令部の思惑をベゼラが知るはずもない。よって、ミハルは機動にてその実力を誇示するのだと決めた。


「SD方向、行くわよ!!」


 鋭い機動。スロットルは一杯まで踏み込まれている。機体は急激に向きを変え、言葉の通りに旋回していく。


「まだ問題ない?」

『問題ない』


「じゃあ、覚悟して! UWのあとS方向。更にはNDに急旋回!」


 ミハルは全開機動。集中力を高め、目一杯の連続旋回を見せる。


 ところが、この度もベゼラの機体はまだ視界にあった。少しばかり遅れていたけれど、それは機体性能の差であるとしか思えないものだ。


「これは……?」


 機動は事前に全て伝えている。けれども、ミハルはベゼラの能力を見ていた。


 ジュリアよりも数段上。アイリスには及ばないかもしれないが、トップパイロットとして遜色のない反応を見せられていた。


「指示なしでも大丈夫?」

『流石にキツい。ミハルすごい』


 駄目だと言われても、ミハルは旋回を実行。彼の力を見極めようとして。


 旋回に継ぐ旋回。全力機動の結果はベゼラが語った通りであった。今やベゼラの機体は遠く霞んでいる。


「これは流石に駄目か……」


 しかしながら、ミハルはベゼラの能力に疑いを抱けない。セットアップもままならない状態で、ある程度ついて来たのだ。


 現状は敵機が存在しない宙域。ミハルの機動を予測するものが何もない状態であり、ベゼラは反射神経だけで今の機動を成していた。だからこそ、賛辞に値する機動であったと思う。


「いや、ベゼラは凄いね? とても上手だよ!」

『ありがとう。私は楽しめた。久しぶり』


 このまま飛び続けても良かったが、データ取りならば、もう充分だろう。

 続きはセットアップ後が望ましいはず。今の段階で飛び続けても、数値が好転するはずもない。


 二人して、ゆっくりと帰還していく。

 ダンカンが語ったように、宙域デートを楽しむかのように。

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