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Solomon's Gate  作者: さかもり
第六章 新たなる局面に
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嫌な予感

「それで大尉はいつ頃、イプシロン基地に?」


 ミハルはグレックの到着がいつになるのかを問う。できるだけ大戦のシミュレーションをこなしておきたいと。


「それも二週間後になるだろう。ジュリアと補充が来たあと。マンセル上級曹長の辞令が下りてからになる」


 聞けばセントラル基地の隊長はマンセルが後任らしい。恐らくは准尉に昇進するのだと思われる。


「早く合わせたいのですけど、仕方ないですね。既に私は後衛機の役割が軽視されているとしか思えなくなったんですよ。実力者は概ね後衛機にすべきじゃないかと思うくらいに」


 ミハルは後衛機不在で訓練する期間を憂えている。これまでの間隔であれば、三ヶ月から四ヶ月後には次戦となるのだから。


「それは信頼できる前衛機があってこそだ。ルートを見つけ出せない前衛機など邪魔にしかならん」


 即座に否定されてしまう。確かに前衛機が躊躇していたのでは後手に回ってしまうだろう。


 話し込んでいると、出撃していた三人が戻ってきた。どうやらフィオナは無事に帰還できたらしい。


 報告に戻った全員が驚いている。なぜにミハルがオペレーションルームにいるのかと。

 ところが、困惑したのも束の間、フィオナはミハルの元へと駆け寄っていく。


「ミハルさん、あたし戦果を得られました!」


 開口一番にフィオナ。仕切り直しの初陣で彼女は戦果を上げたという。


「フィオナ、爆散させたと言いなさい」

「お爺ちゃん、それでも倒したんだからさ!」


 どうやらフィオナは起動停止にできず、未認証機を爆散させてしまったようだ。しかし、何もできなかった初出撃を考えると確実に前進している。


「私も初陣は爆散させたから、気にすることないわ。ドンドン撃ち抜いてやりなさい」

「ミハル、あんまけしかけんな。こいつは直ぐに調子づくからな……」


「大尉は少しくらい褒めて伸ばす方法を模索するべきです!」


 一度に賑やかになっていた。この数ヶ月でフィオナも随分と馴染んできたようである。


「ミハルさん、どうしてセントラルに? 休暇のついででしょうか?」


 グレックには構わず、フィオナは疑問をぶつけた。ずっと追い続けている彼女が戻ってきたのだから、彼女は興味津々である。


「隊長の術後が気になってね。フィオナも頑張っているみたいだし、寄り道して良かったわ」

「不審船で来たくせによく言うな?」


「ほっといてください。あんなオンボロが軍の脅威なはずもないでしょ?」


 再び笑い声が木霊する。少人数の基地ならではの雰囲気であった。


「それで嬢ちゃんは戻ったら401小隊かの?」


 ここでバゴスが聞いた。

 それとなく噂されている話を。ようやくミハルが異動することについて。


「ええまあ。上手く馴染めるか不安ですけど、この隊長よりは馴染めると思います」

「それを言うな。俺は割と気が重いんだぞ?」


「そうじゃの。401小隊には、まだデリクがおるしなぁ」


 話題にあるデリク一等曹士は例の一件における原因。年下であるグレックの厚遇に不満を口にした張本人である。


「あの件は謝るつもりだ。デリク一等曹士は悪くない。俺が若すぎただけだからな」


 デリク一は壊滅した401小隊において、一人だけ救助されたパイロット。過去の遺恨があり、グレックとしては関わりづらい相手に他ならない。


「かといって俺は隊長だし、謝る以外は毅然と対応するつもりだ」


 既に401小隊は再編を開始していた。隊長をグレックとし、次々と編成が決まっている。W側中央を守護するに相応しい人選が成されているようだ。


「グレック隊長、私はフォローしませんので、ご自由に!」


「お前なぁ、発言力は少なからず俺よりあるはずだぞ?」


「いや、私だって異動が取りやめになって生き長らえてんですよ。白い目で見られるに決まってます。隊長の因縁に口を挟むつもりはありませんから!」


 ミハルだって仲裁したい気持ちはあったけれど、ヘイトをグレックが全て請け負ってくれたなら助かるとも考えている。


「そうじゃのぉ。嬢ちゃんの経歴だけが頼りか。銀河間戦争で二戦続けてトップシューターじゃからな。嬢ちゃんは流石に好意的に捉えられると思うぞ?」


「そうですかね? まあ私は三等曹士でしかないし、大人しくしておきます」


 ミハルとしては角が立たなければいい。

 余計な問題ごとは301小隊へ異動した折りに充分味わったのだから。


「いや、ミハルは異例の昇進だと聞いたぞ? お前は一等曹士になるらしい」

「えええっ!? そんなの聞いてませんよ!?」


 現在は三等曹士。二階級も昇進するなんて話は初耳である。


「クェンティン司令から聞いた話だ。二戦続けてのトップシューターと異動の兼ね合いで二階級昇進するらしい」


 マジすかとミハル。昇進なんて全然考えていないというのに、クェンティン司令は悪目立ちする昇進を決めてしまったようだ。


「ミハル、凄いじゃない!」

「ミハルさんなら当然の結果です!」


「まいったなぁ。まぁた、やっかまれるんじゃないの?」


 まさか問題のある人物と同格になるなんて。ミハルの不安は尽きない。


「ミハル、俺はフォローしないからな?」


「いやいや、隊内の軋轢は隊長が処理すべきでしょう!?」


 再び笑い声が飛び交っていた。


 グレックの冗談だと思いたいところだが、彼が口を挟みにくいのも事実。できる限り、コミュニケーションを取らなければならないと思い直している。


「これから戻るのに、嫌な話聞いちゃったな……」


「ミハル、もう士官になっちゃいなよ? あたしを編成してくれて構わないわよ?」


「冗談じゃないんだって……」


 一番にはなりたいけれど、昇進したくはない。相反するそれが同時に叶う未来など来るはずもなかった。


 戦闘機パイロットの花形であるトップシューターが昇進しなければ、他が昇進させられない。つまりは一番を目指す限り、上り詰めることになる。


 このあと改めて全員と挨拶を交わす。再びゲート圏へと向かうのだ。長く戻らないことが確定しているのだからと。


 ミハルは重い足取りでセントラル基地をあとにするのだった。

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