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Solomon's Gate  作者: さかもり
第六章 新たなる局面に
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休暇のあと

 束の間の休息を木星圏で過ごしたミハルとキャロルはセントグラードターミナルステーションへと来ていた。


「次のシャトルは四時間後かぁ……」


「ミハルのせいよ? グズグズしてんだから」


 どうやら彼女たちは予定していたシャトルに乗り遅れたらしい。このままでは四時間もステーションで過ごさねばならない。


「久しぶりに学校に寄ってみる?」


 既にお互いの実家には顔を見せている。よって地元で時間を潰す用事はもうなかった。


「ああ、それならハイヤーをレンタルして行きたいところがあるの」


 キャロルの提案に首を振るミハル。彼女にはまだ地元で目的があったようだ。


「ハイヤー? どこに行くつもりよ?」


 眉根を寄せるキャロルにミハルが言った。


「少し気になる人がいてね。時間があるなら会っておきたいの」


 何とも微妙な返答に小首を傾げる。セントラルで会っておきたい人だなんて想像もできなかった。


「あたしまでついて行って大丈夫?」


「へーき、へーき! 問題ないよ!」


 言ってミハルは歩き出す。駅構内にあるレンタルシップのお店へと飛び込んでいた。


 キャロルは承諾したわけでもなかったけれど、時間を持て余していたのも事実。ミハルが問題ないというのには不安を覚えるけれど、彼女は付き合うことにしている。


 二人は直ぐさま発着場へと案内され、航宙機の起動キーを受け取っていた。


「とんでもなく年代物だね……」


「しょうがないでしょ? 最新機とか高いし……」


 一番安いシップを借りたものだから、作業用としか思えない。間違っても観光に行くような船ではなかった。


 まあしかし、中へ入るとそこまで汚いこともなく、整備も問題なさそうだ。


「あたしが操縦するよ!」


「いや、私がするわ。少し問題ありそうだし」


「あんた、さっき問題ないって言ったじゃん!? どこへ行くつもりよ?」


 キャロルは眉間にしわを寄せている。シップをレンタルしたものの、目的地を聞いていなかったのだ。


「ああ、セントラル基地よ……」


「ええ!? 任務中に乗り込むつもり!?」


 キャロルは頭を抱えた。非常識なのは今に始まったことではないけれど、任務中の基地にアポイントもなく行くだなんて考えもしていない。


「たぶん問題ないよ。うるさいのは一人だけだし!」


「それってグレック隊長のことでしょ!?」


 キャロルは絶対に阻止しようとするけれど、ミハルはシップを発進させてしまう。

 こうなると穏便に済ますしかない。通信して事前に許可を取りなさいよと忠告している。


 セントラル基地まで十分とかからぬ距離であったけれど、サブシートに座るキャロルは無言を嫌ったのか会話を始めていた。


「今朝、戦死者名簿が更新されていたのよ……」


 セントラル基地へと向かう道中。彼女は戦闘機パイロットであったことを思い出したかのように言った。


「ニコル君が落ちたみたい……」


 思わぬ話にミハルは息を呑む。


 ニコルはセントグラード航宙士学校の同窓生であり、万年二位だったパイロットである。


「ニコルが? 本当なの?」


 流石にミハルは驚きを隠せない。ニコルはそれなりに完成したパイロットだという認識。最前線でもなければ簡単に落ちないと考えていた。


「間違いないよ。ほら、オリンポス基地に反物質ミサイルが飛んできたでしょ? あれに巻き込まれたみたい……」


 ニコルは先の戦いでオリンポス基地のパイロットに抜擢されていたようだ。運悪く補給時に攻撃を受けたらしい。


 ミハルは声も出さずに頷くだけ。これまでも知った人が何人も亡くなっていたけれど、やはり同窓生の死は意味合いが異なっていた。


「そっか……」


 それ以上の言葉は絞り出せなかった。事あるごとに絡まれた記憶しかなかったが、それでも六年という期間を共に学んだ一人。悲しくないはずがないのだと。


「戻ったら合同葬儀場に花を供えようよ? ニコル君はミハルのこと好きだったんだから」


「え?」


 思わぬ話にミハルの目が点になる。

 記憶を掘り返してみても、そのような態度は一つとしてなかったからだ。


「私は因縁ばかり吹っ掛けられていたけど?」


「まあそれは感情の裏返しよ? ミハルは鈍感だから気付かないだけ」


「マジすか……。全然タイプじゃないんだけど……」


「そういうこと言わない! ちゃんとご冥福を祈ってあげるのよ?」


 今となってはである。ミハルとしても故人を悪く言うつもりもなかった。


 少しばかり重い雰囲気になったところで、シップに通信が入る。それは明らかにセントラル基地からの応答要請だった。


「やばっ! すっかり連絡するの忘れてた!」


「ミハル、どうするのよ!?」


 こうなると通信者がシエラであることを祈るだけだ。


「こちらUBI9978。ミハル・エアハルトです!」


 真っ先に名前を口にする。それだけで厄介な問題を解決できるかもしれないと。


 しかしながら、ミハルの期待は脆くも崩れ去る。応答に出た人は考えられる中で最悪の人であったからだ。


「ああん? ミハル、何をしている!?」


 ミハルは覚悟した。


 四時間という暇つぶしにセントラル基地へと向かったのだが、間違いなく小言でその時間は潰えるだろうと。


 嘆息しつつも、グレックの応答に返すのだった。


「愛弟子が戻って来たのですけれど――」

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