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Solomon's Gate  作者: さかもり
第五章 動き始める世界
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休暇の予定

「ただいまっ!」


 ミハルは自室の扉を開くや声を張った。もう直ぐ午後の一時だ。かなり待たせてしまったミハルは息を切らせながらも呼びかけている。


「ミハルぅ、あたしはお腹ペコペコなんだけど?」


「ゴメンゴメン! 奢るから許して!」


 司令部に呼び出されたのはキャロルも知っていた。けれど、不満そうな顔を浮かべて、彼女はミハルを見つめている。


「どうしよっかなぁ。もう超高級店に行くしかないね。士官級にしか払えないようなお店で高級ランチするっきゃないわぁ」


「ふっ、私がどれだけ貯め込んでいるのか知らないようね? キャロル、お店にあるメニューを全て頼んだって構わないわよ!」


 冗談だと分かって、ミハルは冗談で返す。ただし、何を頼んでも構わないというのは本心である。ミハルのためを思って影で動いてくれたキャロル。たとえ実現しなくとも、ミハルは行動してくれたことがただ嬉しかった。


「ちょっと三等曹士に昇格したからって自慢はそこまでよ! ミハルが泣いちゃうくらいまで食べるんだからね!」


 不満を精一杯にぶつけるキャロルにミハルは笑みを零す。何を言われようが可愛らしく思えて仕方がない。その裏ではミハルを応援していると知ったあとでは……。


「キャロルってば素直じゃないんだから……」


「はぁ? 何それ!? どうして、あたしが素直じゃないってのよ!?」


 キャロルの反応にミハルはプッと噴き出している。いつだって彼女はミハルの味方だ。401小隊へ異動希望を直訴するなんて、なかなかできる事ではない。


「キャロルは可愛いなぁ!」

「さっきから何!? ミハル、どうしちゃったの!?」


 まるで意味が分からないキャロルは顔を赤らめながら声を大きくした。ニタニタとするミハルが何を考えているのかさっぱりだ。


「それで休暇はどこに行くか決めた?」


 たった三日という短い休暇。とりあえず実家に顔を出したあと、ミハルたちは遊びに行く約束をしていた。


「ああ、うん。ちょっと旅程的にしんどいかもしれないんだけど、ガニメデに地球を再現したテーマパークができたんだって。そこに行ってみたいのだけど」


 旅行好きのキャロルは三日しかなかったというのに、ガッツリとした予定を立てていた。


 ガニメデは太陽系の中で最大の衛星である。地球の半分ほどの大きさしかなかったけれど、ガニメデは主に観光地として開発されていた。


「おお、ガニメデって旅行先として熱いって聞いた! それでいこう! 流石は有能ツアコンだね!」


 ミハルは賛成のよう。目的もなく買い物したりして過ごすのも悪くはない。しかし、買い物はイプシロン基地でもできるし、せっかくの休暇なのだ。小旅行ではあるけれど、精神的にリフレッシュできるに違いない。


「じゃあ予約するよ? ホテルはアルティメットスウィートでいい? すっごく高いけど……」


「いっちゃえ! どうせなら最高の旅行にしようよ!」


 ガニメデアルティメットスウィートは超高級ホテルだ。要人も多く利用するホテルで、キャロルは一度でいいから宿泊してみたかったらしい。


「ミハルが何も考えない子で良かった! 普通なら盛大に引くところよ?」


 またもキャロルはミハルを落としにかかる。いつものことではあったけれど、ミハルは普段よりも笑みを大きくした。


「もうキャロルに何を言われてもノーダメージだわ。可愛い子犬が吠えてるとしか思えなくなっちゃった!」


「ミハル、今から病院に行く? 本当に変よ?」


 一拍置いてから二人は笑い合った。知り合ってから八年目になろうとする彼女たち。本当に気心知れた仲となっている。


 互いの成長を間近に見て過ごした。友情は深まるばかりであり、嫌だと思ったことは一度だってない。


「キャロル、ずっと友達でいようね? あんたがいないと面白くないよ……」


 ミハルは一緒にいてくれる感謝を言葉にした。少しばかり気恥ずかしい。けれど、自然と口をついた本心である。


 キョトンとするキャロルだが、元より彼女も同じ気持ちだった。


「あたしはミハルの保護者だからね? お嬢様だったミハルが最低限の生活ができるまでに成長したのは、ひとえにあたしのおかげ。偉大なる成果なのだと、あたしは自負しているの! それこそが太陽系の守護に強い影響を与えたはず。つまりはあたしも人類の役に立っているのよ!」


 セントラル航宙士学校での六年。確かにミハルはお嬢様であって、簡単なパンケーキすら作れなかった。それを一般レベルにまで引き上げたのは自分だとキャロルは胸を張る。


「まーた、キャロルの天の邪鬼……」


 冗談であり、事実でもある。ミハルは満面の笑みでそう返している。


 戦闘機パイロットたちの休息。それは生きていることを実感するための時間だ。笑うという当たり前のことであっても、それは人として重要な感情に違いない。


 一方で照れ隠しを見抜かれたキャロルは頬を赤らめた。焦るように誤魔化すように。一際大きな声を上げるのだった。


 天の邪鬼じゃない!――――――と。

本話で第二部が完結となります。

第三部を書き終えましたら、また更新いたしますので今しばらくお待ちくださいませ!


執筆の励みになりますので、気に入ってもらえましたらブックマークと★評価いただけますと嬉しいです!


どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m

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