アイリスの視点
アイリスは柄にもなく高揚していた。
支援を放り出したジュリアのことはもう眼中にないようだ。彼が被弾しないのであれば、この任務には何の支障もないのだと。
「いいぞ! ミハル、もっと落とせ! 全ての敵機を我らの戦果としよう!」
ここまで戦闘にのめり込んだのはいつ以来だろう。
ふとアイリスはそんなことを考えていた。憧れていた人と最初に飛んだ記憶が意図せず蘇っている。目指すべきフライトの片鱗を垣間見てしまう。
「まさかあのチビッ子がな……」
おかしく思えてしょうがない。二年前の航宙機フェスティバルでの出来事から、この現状が繋がっているなんて。あの頃の自分には想像もできなかったことだろう。
「全く以て生意気な奴だ……」
自然と声掛けをやめたミハルをアイリスは快く思っていない。力量を測られたような気がして気分を害した。アイリスは銀河間戦争のトップシューターであり、これまでもずっとエースパイロットとして戦ってきたというのに。
「クソッ、視野が広い!」
気を抜けば置いて行かれそうだ。余計な雑念はミハルが前衛機では許されない。下手をすると支援が甘いと文句を言われてしまうだろう。
『戦局を動かす能力をミハルは秘めている――――』
思い出されるのは師の言葉だ。彼は広い視野や判断力を褒めたあと、そう話していた。
凄まじい操縦スキルよりも、評価すべき強い心があり、その彼女には苦境をも覆す能力があるのだと。
「グレックの奴め。このような化物を勝手に生み出すんじゃない……」
アイリスはクックと笑っている。戦闘中であったものの、おかしくて仕方なかった。
ミハルをここまで導いたのは自分自身に他ならないのだが、まさかライバルと言えるほどのパイロットになってしまうなんて。師匠も同じであれば、能力も疑うところはない。
「ぬぅ!!」
急激な方向転換。アイリスはうっかり離されてしまうところだった。
やはり気が抜けない。自身を振り切るような機動を平然と妹弟子は繰り出すのだから。
「それだけは許されん!」
ミハルに指摘されるなんて我慢ならない。学校の後輩であり、妹弟子でもあるミハルには絶対に負けられなかった。
「フハハ、この私を焦らせるとは! けしからん奴だな!」
まるでゲームであるかのよう。アイリスは笑っていた。だが、表情とは裏腹に集中している。徐々にキレ始めた妹弟子のフライトは鋭さを増すばかりだ。
ミハルが撃墜すると自身の番である。姉弟子として外せない。たとえ与えられた役割が後衛機であったとしても。
瞬く間にW側アルファ線の敵機が姿を消していく。彼女たちが担当するのは中央ブロックだけであったものの、それでも数え切れないほどの敵機が飛来していたというのに。
「私はアイリス・マックイーン! 銀河に君臨するのはこの私だっ!」
重イオン砲ではなくなったから、一機ずつしか撃墜できない。何だかもどかしく感じてしまう。眼前のミハルはというと中性粒子砲と重イオン砲の二刀流であり、次々と敵機を屠っていたのだ。時間が経過するたびに差をつけられているような気がしていた。
「ミハルの奴め。調子に乗りすぎだ……。全く以て許せん……」
今もまだニッとした笑み。アイリスは声高に叫んでいる。
「これほどまでに私を楽しませてくれるとはなっ!」
互いが意識するほど、機動に鋭さが増していく。既にジュリアは離されずにいるだけで精一杯だったことだろう。しかし、アイリスは気にしない。余計な気を遣う余裕はなかった。けれど、この何年かの間で一番の笑顔を彼女は見せている。
「グレックには感謝しかないぞ!――――」
本作はネット小説大賞に応募中です!
気に入ってもらえましたら、ブックマークと★評価いただけますと嬉しいです!
どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m




