真価
ミハルは少しばかり緊張していた。それもそのはず、先ほどは引き返す羽目になったからだ。
戦況は膠着状態である。アルファ線とベータ線の境目。両軍の有人機部隊は撃っては戻るを繰り返すだけで、互いに進攻しようとしなかった。
「無人機がかなり減ってます。一気に突き抜けますよ!」
「了解した! 支援は任せたまえ!」
力強い返答にミハルは操縦桿を握り直す。緊張したなどと言っていられないと。
「UW方向よりCFV702チェック!」
「DAB654フォロー!」「DAB654フォローだっ!」
支援が重なってしまったのはご愛敬。けれど、それはミハルが望んだ通りだ。厄介な敵機を二人して牽制してくれた。
「次CAM128! CZW989!」
「CSD655フォロー!」「私はCQT258だっ!」
もう不安はなくなっていた。後方確認から解き放たれたジュリアは望むような支援を始めてくれたのだ。初弾を被らせたアイリスもジュリアの判断を予想し、先を見た支援を繰り出す。彼女らしく正確な支援は牽制するだけでなく、敵機を完璧に撃ち抜いている。
「いけるっ!」
確信を持ったミハルは右手で操縦桿を握り、左手には重イオン砲の操作桿を掴む。敵機ひしめくアルファ線へと飛び出しているというのに、中性粒子砲の他に重イオン砲まで撃ち放つつもりのよう。
「撃ち抜けぇぇっ!!」
目映い光が宙域を裂いた。それはW方向に突き抜けていく。軌跡には三つの爆発痕が残り、加えて彼女の進行方向にも爆発痕が生まれた。
「すげぇ……」
またもジュリアは面食らっている。適切な支援があるだけでミハルは戦えた。中性粒子砲だけでなく、重イオン砲まで操れたのだ。
「やっぱ……俺のせいか……?」
こうなってくると自身が果たす役割に疑問を覚えてしまう。アイリスが言ったようにミハルの足を引っ張っているのは自分なのかと。
唇を噛み、ジュリアは考えた。
今後の身の振り方について。自身の願望を押し通すことの意味。葛藤があるようで、その実は単純明快な悩みでしかない。先の大戦前での実績がジュリアを急かしているだけ。ジュリアは自身の成長をミハルに委ねているだけだった。フライトの自由をミハルから奪ってまで……。
「俺って奴は本当に情けないな……」
ようやく踏ん切りがついた。もしも大戦を生き残れたのなら異動を願おうと。前線に留まる限りアイリスが付きまとうし、ミハルも嫌だと口にしない。ならば取るべき行動は一つだ。ミハルの真価を見せつけられたジュリアは決断に至る。
セントラル基地からやり直そう――――と。
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