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Solomon's Gate  作者: さかもり
第五章 動き始める世界
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謎の砲撃手

 イプシロン基地に帰還したミハル。突如として戻ってきた黄金の機体にドックはざわめいていた。


「ダンカンさん、補給をお願いします!」


「おう、そりゃ構わんが、まだ残量はあるだろう?」


 予定にない補給にダンカンは眉根を寄せる。サブシートから降りてくる頬被りをした砲撃手も疑問に思うところだ。


「ミハル、あれは何者だ?」

「さあ……」


 明かすわけにはならない。変装せず降りてきたらどうしようかと考えていたけれど、一応はアイリスも立場を分かっているようだ。


 しかし、彼女がドック裏へと続くハッチを抜けたあと、


「ダンカン! 私の機体はどうなっている!?」


 アイリスは怒鳴り声を上げながら戻ってきた。流石に気付かぬ者はいない。通路に出て頬被りを取っただけなのだ。同じパイロットスーツを着た同じ背丈の彼女。砲撃手の正体を全員が理解していた。


 ただドックにいた整備士たちは理由を推し量っている。彼女が極秘裏に出撃していたこと。ミハルの砲撃手を買って出ていたことを。


「おお、アイリス少尉。お久しぶりですな? もう謹慎は解けたのですか?」

「本当に疲れたぞ! 鬱憤晴らしに行きたい! 早く準備しろ!」


 既にアイリスの出撃予定は聞いていた。謹慎が解ける正午前には補給も整備も終わっている。だからこそダンカンは笑顔で答えた。


「ミハルの補給をしています。少し待ってください」


「じれったい奴だな!? ちょっとは痩せたらどうなんだ? その鈍間も治るんじゃないか?」


 ミハルは薄い目をしてアイリスを眺めている。早くジュリアのところに戻りたい気持ちは分からなくないけれど、見て見ぬ振りをしてくれるダンカンに罵声を浴びせるだなんてと。


 半時間あればフル充填できる。ミハルも焦れったくあったが、アイリスを見ていると逆に落ち着いていた。


「ミハル!」


 ダンカンとアイリスの遣り取りを眺めていると、不意にミハルは呼びかけられていた。


 それはよく知る声であり、数年前は毎日聞いていたものだ。けれど、なぜ声の主が第八ドックにいるのか、理由はまるで分からない。


「キャロル? どうしてあんたがここにいるのよ?」


 声をかけたのはキャロルであった。パイロットスーツに身を包んだ彼女がどうしてか第八ドックにいる。


「補給なんだけど、ドックが混み合っているからってここに誘導されたの。まさか301小隊のドックに回されるとは思わなかったわ」


 オリンポス基地の消失によってドックの再編が実行されていた。キャロルの部隊はその煽りを食ったようで、301小隊の専用ドックである第八ドックに割り当てられたらしい。


「でも、戦線外の部隊はS側のドックでしょ? あの決まりはなくなったの?」


 デルタ線以降に配備された防衛戦外の部隊は基本的にゲートから裏側にあるドックを利用する。どうしてキャロルが第八ドックで補給しているのか、ミハルは理解できないでいた。


「実は出撃中に配置換えがあってさ、あたしガンマ線配備になっちゃったの……」

「ええ!? デルタ線でもなくて!?」


 キャロルの部隊は基地防衛という役割であったのだが、戦闘員不足のため、ガンマ線の補充部隊に選ばれてしまったらしい。いきなりラインを二つも上げられてしまったようだ。


「まあ何とか戦えたよ。ミハルに聞いたように後方視野をかなり意識してる……」


 動揺しているかと思えばキャロルは意外に落ち着いていた。どちらかというとミハルの方が困惑しているほどに。


 まあしかし、親友が落胆していないのなら、発破をかけるだけだ。いつものようにからかう感じで、彼女の緊張を解きほぐしてあげたいと思う。


「流石はマッシュルームキラーね?」

「その二つ名はホントやめてよ! 恥ずかしいったらありゃしないわ!」


 キャロルは前回の大戦でマッシュルームと呼ばれる特攻機を一番最後に撃墜したことから、仲間内でそう呼ばれている。本人的には揶揄されているように聞こえていたけれど、ルーキーであった彼女は嫌だと言えないまま本日に至っていた。よって今もことある毎にマッシュルームキラーと呼ばれてしまう。


「それでミハルの機体は聞いていたよりもの凄いね? まあ派手すぎるからこそ、ミハルが帰って来たのが分かったんだけどさ……」


「アハハ! アイリス少尉のセンスなのよ。でも割と気に入ってるかな」


 黄金に輝く機体を眺めてはそんな感想を口にする。しかし、キャロルは同意出来ないのか、いやいやと首を振った。


「キャロルの担当ブロックはどこ? まさか中央ブロックじゃないんでしょ?」


「Hブロックだよ。それでも敵機は沢山進攻してくる。前線の苦労が分かったよ……」


 ブロックは中央線を中心にして割り振られている。E側もW側もは上段の中央側からABCDとなり、戦線の中央は双方ともEブロックとなった。キャロルは中段ではあったけれど、一番外側であり敵機の密度が一番低いブロックである。


「そっか、キャロルまで戦闘ライン内に入ってるなら、私は今まで以上に頑張らなきゃね。少しでも負担を減らせるように……」


「ありがと! でも心配ご無用なのよ。あたしはずっと厳しい自主訓練をしてたからね。あたしでも戦えると思えてきた……」


 ミハルの心配を余所にキャロルは笑みを浮かべた。前線で体験したことは不安を煽るよりも自信に繋がったようだ。戦争を怖がっていたかつての姿はもうなかった。


「おいミハル! 70%もあれば十分だろう? 出撃するぞ!」


 二人が雑談していると、不意にアイリスが声をかけた。焦れる彼女は一刻も早く戦線に戻りたいらしい。


「ア、アイリス少尉!?」


 即座に敬礼するキャロル。直ぐそこにGUNSのエースがいるなんて、キャロルには考えもしないことであった。しかしながら、ここは301小隊の詰め所である。彼女がいたとして何の疑問もない。


「んん? 誰だ貴様は?」


「少尉、その威圧的な話し方は何とかならないのですか? 彼女はキャロル・ウォーレン一等航宙士。私の同級生で親友です!」


 恐れ多くも自己紹介の代弁をしてもらったキャロルは敬礼したまま頭を何度も上下させた。聞くところによると少尉は部下に滅法厳しい。一等航宙士など罵声を浴びるだけで、何の口答えも許されないのだと。


「ほう、ということは私の後輩か? しかし、キャロル・ウォーレンという名はどこかで聞いたな……」


 意外にもアイリスはキャロルを知っているという。学校の後輩であるだけでなく、聞き覚えがあるらしい。


「ああ、そうだ! 確かマッシュルームキラーだな?」


 思わぬ返答にミハルはプッと噴き出していた。キャロルが嫌がっていた通り名をここで聞くとは思わなかったのだ。


 顔面蒼白であるキャロル。ここでも彼女は否定することができず、顔を引きつらせながらも頷きを返している。


「は、はい……。マッシュルーム……キラーです……」


「セントラル航宙士学校はとても優秀な教員を採用したとみえる! 私も鼻が高いぞ! これからも精進したまえ!」


 硬直したままキャロルが了解しましたと返事をする。この様子にミハルは声を出して爆笑していた。アイリスの噂話が方々に行き届いているのは知っていたけれど、こうも恐れを成すキャロルがどんな話を聞いたのか気になってしまう。


 アイリスが怖いのは物言いだけだ。実際はミスに関して執拗に怒ったり、無闇矢鱈と怒鳴り散らすことはない。それを知るミハルは二人の温度差がおかしく思えて仕方なかった。


「じゃあ、マッシュルームキラーさんも頑張って! 私たちは前線に戻るよ!」


「ミハルも頑張って! あああ、アイリス少尉も頑張ってください!」


 言って三人は別れる。緊張していたキャロルもようやく笑顔を見せた。

 各々がリラックスできた感じ。再び戦うのだと決意を新たにできた。


 ミハルとアイリスの機体が第八ドックをあとにしていく。二人は戦線の押し上げを依頼されているのだ。雑談している暇はない。GUNSの勝利と人類の安寧を求めて二人は戦線へと戻って行った……。

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