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Solomon's Gate  作者: さかもり
第五章 動き始める世界
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セントラル基地

 木星圏フロントメガユニック群。それらを見守るような外軌道にセントラル基地はあった。


 セントラル基地にも大戦が始まったとの一報は届いていたけれど、追加的な情報はなく、隊員たちは皆ヤキモキとしている。


「続報です! オ、オリンポス基地……消失!?」


 シエラが声を上げた。開戦から数時間が経過し、ようやく届いた情報は予想だにしない話であった。まさかの訃報に隊員たちは一様に言葉をなくす。新造基地がいきなり陥落したなんて受け入れ難い話である。


「シエラさん! 他に情報はないのですか!?」


 マイが詳細を急かした。ミハルがイプシロン基地に留まったことは知っていたけれど、どうにも劣勢であるとしか思えなかったから。


「生存者リストにミハルちゃんのコードがある。だけど、戦況は少しも明記されてない。もう既に前回と同じくらい撃墜されているみたい……」


 この場にグレックはいない。彼は左足の手術を受けるために入院中だった。


「それはかなりの被害ですね……」


 グレックに代わってセントラル基地の隊長代理を務めるマンセルが長い息を吐きながら言った。生存者コードを見ただけで現状が理解できたのだ。連番であるそれが繋がっていないのはそういうことであると。


「ミハルさんは絶対に太陽系を救ってくれます! あの人は特別な人だから!」


 今度はフィオナが声を張った。未だ戦線への参加を認められていない彼女は日増しにミハルを崇拝するようになっていた。同じような立場で軍部入りし、エースに成り上がったミハルを彼女は尊敬している。


「儂もそう思うぞい。嬢ちゃんは常に前を向いておった。逆境こそ真価を発揮する。厳しくあったとしても、嬢ちゃんならやってくれるじゃろう」


 バゴスが宥めるように言った。ただ、かくいう彼もミハルを信じている。積み重ねられた技術がミハルを救うはずと。彼女の努力を間近に見てきたバゴスには、この窮地も乗り越えるだろうと思えてならない。


「ミハルさんは絶対に活躍するから! あたしが挑むまで宙域に君臨してくれますよ! どんなに劣勢であっても、ミハルさんなら必ず巻き返してくれます!」


 ずっとミハルの背中を追っている。最後に見せてくれた機動が今も瞳に焼き付いたままだ。フィオナにはそれがとても目映く見えて、その輝きこそが目指すべきパイロットの姿だと確信している。


「残念だけど他に情報はないわ。アイリス少尉の謹慎は解けたはずだけど、何も触れられていないの……」


「ふむ、アイリスはまだ許されていないのかもしれん。あやつまで戦線に戻ったのなら、ここまで酷くはならなかっただろうに。まったくあの団体はGUNSの足を引っ張ってばかりじゃ……」


 嘆息するバゴス。もしもアイリスを不問にできたのなら、まともな戦力で挑めたのではないかと。予想以上の被害には首を振るしかなかった。


「お爺ちゃん、アイリスって誰なの?」


 ふとフィオナが聞く。木星圏では彼女の名を知らぬ軍人などいなかったが、地球育ちであり、軍人でもなかった彼女はアイリスの存在を知らなかったらしい。


「ああ、アイリスはの……」


 フィオナはミハルこそがエースだと思っている。先の大戦でトップシューターに輝いたのは自身を導いたあの人。ミハル以外にエースはいないはずだ。


「嬢ちゃんが目標としているパイロットじゃ……」


 思わずフィオナは息を呑む。圧倒的なフライトを見せるミハルに目標とするパイロットが存在するなんてと。どうにも理解できない。自分より下手なパイロットを尊敬するはずがないし、ミハルよりも上手なパイロットが存在するとも思えなかった。


「本当に……? ミハルさんって人類最強でしょ?」


「ふはは! まだまだフィオナの世界は狭いの! 幾ら嬢ちゃんがトップシューターになったとはいえ、儂はまだアイリスに分があると思っておるわい。二人共が超感覚的な才能を備えておるが、アイリスには経験も技術も嬢ちゃんよりある。決して年齢差は覆らん。アイリスが怠けておればその限りではないが、生憎とそういう風に育てられておらんしの。あやつが年老いていくまで逆転は難しいかもしれん……」


 首を振るフィオナ。まだ上が存在するだなんて信じられない。バゴスの話は素直に消化できなかった。


「そんなはずないって! お爺ちゃん耄碌してんじゃないの!?」


「耄碌は酷いの? まあ、そのうちに分かるじゃろう。フィオナが同じ舞台に立てたのなら、自ずと理解できるはず。儂は嬢ちゃんを応援しておるが、今の関係が続いていけばいいとも思っておる……」


 長く軍部に在籍するバゴスはある一定の未来を見ていた。現状の師弟関係やライバル関係がとても良い循環をもたらすと考えている。


「どうしてよ? あたしは絶対にミハルさん派だから!」


「フィオナはそれで良い。嬢ちゃんの背中を追い続けたら良いのじゃ。ただし、嬢ちゃんだって目標がある方が良いじゃろう? まだ十代なんじゃよ……。巨大な壁に挑む勇気があるうちに、壁の向こう側を見てはならん。その先を想像し渇望していくことこそ成長じゃと思う。世界の頂に立つのは、もっと成熟してからで良いのじゃ……」


 ようやくフィオナにも理解できたようだ。小さく頷く彼女はミハルの姿に自分を重ねている。頑張れるのは追いかけているから。まだ見ぬ自身の姿に期待しているからだと。


「じゃあ、そのアイリス少尉って人は誰を追いかけてるの? まだ若いのでしょ?」


 ふとした疑問を口にする。ミハルが目標とするパイロットは何のために努力しているのかと。


 その問いには全員が苦笑していた。解答はフィオナが常々愚痴を漏らす対象だ。間接的にその人を追いかけているだなんて、彼女には受け入れられないだろう。


「さあ誰かのう? 恐らく最も才能を無駄にしてきたパイロットじゃろうなぁ……」


 バゴスは言葉を濁した。孫娘の成長を促す意味で。反発している方がフィオナにとって正解だろうと。崇拝するよりも反発力こそが成長の鍵であると信じて。


「才能を無駄に? 何だかよく分かんない……。ずっと手術を怖がっていたグレック大尉みたいね?」


 今になって義足手術をする理由をグレックはそんな風に話していた。説明が面倒だったからか、或いは照れ隠しか。アイリスの成長に必要だったことは伏せられている。


 割と鋭い予想を返すフィオナにバゴスは益々苦々しい表情だ。教えてあげても構わなかったが、やはりバゴスは濁すという選択をしていた。


「そうかもしれんのう――――」


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