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Solomon's Gate  作者: さかもり
第五章 動き始める世界
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任務失敗

 ミハルたちはアルファ線内へと進攻していた。ジュリアもまた彼女の機体に張り付いている。


「無人機が邪魔っ!」


 補給が始まってから増援として送られた無人機部隊。皮肉にもアルファ線上に彼らがいるせいで、ミハルの機動は制限されていた。恐らく撃ち落としたとして怒られはしないだろうが、照射ラグを考えれば下手に撃ち落とすのは悪手である。


「やはり少尉はジュリアを意識してる――」


 支援が足りないようにミハルは感じていた。先ほどまでは自由に飛べたのが、今はどうにも不自由を覚えて仕方がない。支援機が与えられたことで十分な間合いが取れるかと思えば、逆に動きにくくなっている。アイリスの支援は過度に側面を意識したものとなっており、前方への支援は限られていた。


「少尉、少しは前方も支援してください!」

「前方はジュリアが担当しているだろうが!」


 ミハルが訴えるも直ぐさま否定的な回答。やはりアイリスはジュリアの安全を考えているようだ。ミハルが前衛機を外れて間もなく被弾したジュリアは信頼されておらず、アイリスが強引に支援機とした理由はどうも彼を守るためらしい。代替部隊に任せるよりも連れ出した方が安全だからと判断したようだ。


「ああもう、上手くいかない!」


 ミハルは焦れていた。ただでさえ敵機の密度は上がっている。加えて無人機の数が想像よりも多い。中央ブロックアルファ線は敵味方が入り乱れていた。


「このままじゃ……」


 無人機の動きまで想定しなければならず、どうにも頭が混乱する。ミハルは的確な機動を見失いつつあった。許容内であったジュリアの支援も、敵味方が混在する状態とあっては的外れなものとなっている。


「ミハル! 貴様、後ろを取られすぎだ!」


「仕方ないですよ! 全方位から敵機が来るんですから!」


 苛立ちが募っていく。こんな今も両サイドから敵機が飛来する。避けられていたのが嘘のように、寄ってたかってミハルの機体へと群がっていた。


「賞金でもかかってんの!?」


 恐らくは最小編成であるからだろう。黄金の機体を撃墜すれば戦果として十分だ。如何に手練れであろうと戦線から飛び出したミハルは格好のターゲットとなっていた。


「群がるな小蠅共がっ!!」


 こうなってくると重イオン砲の照射ラグは長すぎた。W側まで依頼されたけれど、とてもじゃないがカバーできそうにない。


「ジュリア、あんた一人でベータ線に戻れる!?」


 どうしようもなくなり、ミハルはそんなことを口にする。的確な支援がないままでは戦えない。原因となっているのは明らかにジュリアの存在だった。


『えっ!?』


「馬鹿言うな、ミハル! 戻るにしてもどうにもならんだろう!?」


 困惑するジュリアに代わって、アイリスが即座に反対する。支援機として機能していないことを分かっていたというのに、彼女は今も姉であるままだった。


 ミハルは決断を迫られていた。このまま戦うのか、或いはポリシーに反するべきかと。


「少尉、一旦ベータ線まで戻ります……」


 それは苦肉の策である。もう反対されようが決めた。このままではジリ貧であり、いずれ被弾するだろう。敵機に抜かれることを良しとしないミハルだが、信念を曲げるこの選択が正しいと思った。


「本気か!? ジュリアがいるのだぞ!?」


「もう決めました。そのつもりで支援してください。UW方向へ急旋回します!」


 敵機の群れを裂くような鋭い機動を繰り出す。ジュリアがついてこれるのか分からなかったけれど、いち早く混戦から抜け出すことを優先する。取り返しのつかない事態となる前に機動を開始した。


「ジュリアはD側を回れ! 敵機は気にするな!」


 どうやらアイリスも腹を括ったらしい。操縦桿を握るのはミハルだ。彼女が決めたというのなら、口出ししようと覆らない。ミハルをよく知る彼女は決定に従うだけだ。アイリスであっても、頑固で一途なミハルを説得する術はなかった。


『マジかよ!?』

「死ぬ覚悟があるのだろう!? せっかくの機会だ! 後方視野を拡げてみろ!」


 ジュリアは指示された通りにミハルのD側へと入っている。正しいのかどうか判然としないが、ここはエースである姉を信じるだけだ。


『もう一丁くらえ! そこだぁぁっ!』


 アイリスの重イオン砲が火を噴いた。彼女は照射ラグが回復したあと、一拍おいてトリガーを引く。


 蒼白色の強烈な光をジュリアは見ていた。撃ち放たれたその方角には敵機などいなかったはずなのに、軌跡には三つの爆発痕が残されている。


『マジかよ……?』


 神がかった一撃にジュリアは呆然としてしまう。全ての機体が一直線に並ぶタイミングをアイリスは狙っていた。よく感覚者なる言葉を聞かされていたジュリア。その当時、意味はよく分からなかったけれど、たった今その言葉を理解している。


 四秒おきに複数の機体が消えていく。ミハルの機動を追いつつも、ジュリアはアイリスの射撃に見とれていた。


『すげぇよ……。凄すぎる……』


 前方は心から信頼するミハル。後方には尊敬する姉の砲撃。絶体絶命の窮地かと思いきや、ジュリアはなぜだか安心できた。呆れたような笑みを浮かべてしまうほどに。


 程なくミハルたちはベータ線上へと戻っていた。

 司令部が期待した時間を全うできずに。不本意にも任務失敗に終わっている。


「ジュリアは代替部隊と合流して! 私はもう一度アルファ線に戻る!」


「ミハル、このまま基地に戻れ! 私も出撃する! どうせ司令部の目論見は失敗に終わったんだ! 司令部に直接文句を言ってやればいい! コネクトパスは……」


 アイリスは怒り心頭といった様子。どういった試算に基づいた指令であったのか問い質せとミハルに言う。


 確かにとミハルは思い直した。宙域を代替部隊に任せ、進路を変えずに通信を始める。


『こちらセラフィム・ワン。司令部応答してください』


 管制を通さず、ミハルはアイリスに教わった接続パスを入力。その応答を待つ。

 しばらくして通話が許可されるや、聞き慣れた男性の声がする。


『ミハルさん、どうしました? 機体の故障でしょうか?』


 応答にでたのはアーチボルトだった。士官級にしか知られていないパスについては不問といった感じである。


「実は一度基地に戻りたいのです。あの方が出撃するというので……」


 ミハルは端的に答えた。説明するなら敵機の密度や支援状況であったけれど、手っ取り早く許可を得ようとして。


『分かりました。許可しましょう。既にあの者の機体は整備が完了しています。機体のエネルギー残量はまだ十分でしょうか?』


「問題ありません。まだ25%残ってます……」


 意外にも即座に許可が下りた。どうやらアーチボルトは推し量ってくれたらしい。AIの試算が間違っていたことを理解したようだ。


『八番ドックへ向かってください。準備の間に少しばかり補給をしておきましょう』


「構わないのですか? 私は直ぐに戻れますけど!?」


 持ち場を放棄したミハルはアーチボルトの話に納得できない。パイロットとしての責任を全うしたかった。


『それこそ無駄になります。まだ戦局は半分にも差し掛かっていません。せめて数時間は戦える程度に補給しましょう。戦線のことは気にしなくて結構です。全員が星系を守護しようと戦っていますし、彼らの戦意は落ちていませんから……』


 ミハルは小さく頷いて無理矢理に納得する。確かにエネルギー切れが迫っていては十分に戦えない。無駄な時間を省くためにも、戻る機会に補給しておくべきだろう。


 スロットルを踏み込んでいる。いち早くドックへ戻ろうと。こんな今も仲間が戦っている。持ち場を離れたミハルは再び罪悪感に苛まれていた。


 一秒でも早く戻るのだと彼女は心に決めている。

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