司令部にて
司令室はパイロットの手配に追われていた。
中央ブロックの補給が始まり、現状の仕事は代替パイロットを手配するだけだ。かといって多くの部隊が補充を要求しており、更には交代要員が不足していたことから難航している。
「今回も散々な結果となってしまったな……」
ポツリとクェンティン。完璧な準備を済ませたと考えていたけれど、蓋を開けば同じような結果である。溜め息を溢さずにはいられなかった。
「前回の大戦と比較し、AIはパイロットの練度不足を原因として挙げています。光皇連も同じような状況でありますから、ここまで食い下がれているのだと。向こうも前回と比べて練度が劣ると判定されていますし……」
アーチボルトが答えた。此度の大戦は双方の熟練度が足りなかったのだと。無駄な削り合いをしただけであるとの結論が出ている。
「戦争は早期に終わらせる必要があります。このままでは泥沼です。次の会議では侵攻も視野に入れるよう話をしてください」
アーチボルトも大戦の終結を望んでいる。攻めないのでは終わるはずがない。いつまでも付き合う必要はないと考えていた。
クェンティンは頷いている。このまま戦闘状態が永遠に続くなんて、司令官である彼には到底受け入れられないことだ。
「アーチボルト、ゲートに二つも基地が必要だと考えるか?」
質問が返されていた。オリンポス基地が建造されたことは彼の負担軽減であったはず。しかし、オリンポス基地が失われた今になって、彼は存在意義に疑問を覚えているようだ。
「今回の結果を見る限りは必要ないでしょうね……」
即座にアーチボルトが返答する。二つの基地がゲートにあることは戦略的に有効であると考えられていたのに。消失した結果を経て、アーチボルトは否定的な意見を口にした。
「一カ所に集中的な防護壁を敷くべきです。次戦にはアイギスの盾も配備されるでしょうし。結果論ですが基地を分けたのは愚策でした。守り切れないのであれば、一カ所に集約すべき。恐らくイプシロン基地だけであれば、あの猛攻も凌ぎ切れたことでしょう」
二つに分けたことが被害の拡大に繋がったとアーチボルトは話す。パイロットだけでなく、従事する人員まで失われたことは単なる被害では済まされない。
「次の会議ではそう提案する。もうアースリング派閥も強くは出て来ないだろう。アイザック大将が失われたのだから……」
本当に大勢が失われた。大多数が地球圏の人員である。この事実は地球圏の認識を一変させるだろう。一瞬にして同胞を消し去る力がカザイン光皇連にはある。決して対岸の火事などではないこと。此度の大戦により彼らも痛感したはずだ。
「それでアーチボルト、ミハル君は要請に応じてくれたのか?」
長い息を吐いたあと、クェンティンは話題を変えた。苦肉の策としてアルファ線内での戦闘を求めたこと。彼女がそれを引き受けたのかどうかと。
「ええまあ。彼女から返答は頂いておりませんけれど、あの方がしゃしゃり出てきましたから。まず間違いなく要請通りに戦ってくれるかと思います」
「ああ、アレが割り込んだのか。こういう場合だけは頼りになるな。何事にも屈しない。どのような事態であっても臆さない。久しぶりに有り難みを感じたよ」
まったくですとアーチボルトは返し、小さく笑っている。戦時であるときだけ評価が高まるといった風に。
「無茶をして欲しくはないが、無理をしてもらいたくもあるな……」
「AIの試算によると彼女たちなら問題ありません。現状における敵機の練度であれば、単機でも十分に戦えます。戦闘機動や撃墜パーセンテージは敵機の平均を遥かに凌ぎますので。また現状と比較し、アルファ線内で戦うことによる生存確率は大差がありません。宙域に同格の敵機が現れない限りという条件付きですけれど……」
宙域を精査した結果、そのような機体は存在しなかった。それが今回の求めに繋がっている。アルファ線内に入ることの有用性が確認されたのだ。
「一応はW側にも通達しておけ。万が一にも誤射なんて事態は避けねばならん」
「既に通達しております。また3SP01は特殊マーカーで表示するように手配致しました」
助かるとクェンティン。言わずとも先んじて行動できる参謀の存在は大きかった。今もイプシロン基地が健在なのは彼あってこそだと改めて思う。
「あとはエースパイロットに託すだけか……」
「ええ、彼女なら困難をも乗り越えてくれるでしょう……」
中央ブロックの補給が終わるまで、ミハルたちは戦い続けなければならない。司令部の期待に応えねばならなかった。
司令部は全幅の信頼を寄せている模様。今回の要請が唯一の正解であると疑っていない。
光皇連は今も六万機ほどを残している。その全てを撃墜するまで此度の大戦に終わりはなかった。
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