責任
最も密度の高い戦闘宙域であったミハルたちだが、現在も何とか戦線を維持している。
しかしながら、今はどうしても戦闘に集中できないでいた。
「ミハル、オリンポス基地のことは考えるな。戦闘機動だけを意識しろ!」
「でも……」
ミハルは大量破壊兵器によって失われたオリンポス基地が気になっていた。生存者がいる可能性を否定されてしまった今となっては無駄なことであるけれど、彼女は本来ならそこにいた一人である。どうしても罪悪感に苛まれてしまう。
「私たちがイプシロン基地方面のミサイルを撃ち落としたのは間違いじゃない。寧ろ先にあのミサイルを撃ち落としていなければ、被害は大きくなった。エイリアンの狙いがオリンポス基地であったのなら、私たちにはどうすることもできない。どう足掻いても発射までに全艦を撃墜するなど不可能なのだ。オリンポス基地の陥落は決定事項だよ……」
ターゲットは五隻であった。狙い撃ちするには重イオン砲しかなく、一発につき四秒という照射ラグがある。一発も発射させないだなんて話は考えるだけ無駄だった。
「彼らを救う術はなかったのでしょうか……?」
ミハルは問う。失われた者たちの殆どが面識などない。けれど、親しくなったかもしれない者たちが一瞬にして消失してしまった事実は彼女を落胆させた。自分が最善の行動を取れていたのなら、どうにかなったのではないかと。
「ないな……。あるとしてもWラインに陣取った航宙機隊がミハルと同じような射撃を繰り出せた場合だけだ。現に彼らは光速巡航ミサイルを一発も迎撃できずに基地まで到達させてしまった。E側にいる私たちにはどうしようもなかったんだ……」
アイリスはミハルに罪がないと言う。ミハルがどう動こうと結果は変わらないと話す。最善の結果が現状であるのだと。
「それより貴様が集中できないようでは失われた大勢に示しがつかん。戦えないのなら基地へと戻れ。不甲斐ない妹弟子の代わりに私が戦ってやる……」
続けられた言葉はミハルを思い直させている。悩んだとして現状に変化が起きないのは分かっていたことだ。
今できること。それは思い悩むことではないし、祈りを捧げることでもなかった。戦闘機パイロットにできることは一つ。ミハルは亡くなった者たちの死を無駄にしないこと。操縦桿を操り、敵機を撃ち落とすだけだ。
「すみません。ちゃんと戦います。アイザック大将が期待されたような姿を私はこれから見せたいと思う。彼らの死に報いるよう……」
唇を噛むミハルは無力さを痛感していた。自分にできることを過信していたと思う。
けれど、今はミハルも気付いている。この広大な銀河にあって、たった一人のパイロットが成せること。それは小さなことかもしれないけれど、間違いなく前へと進む一歩であり、全体を少しでも牽引できるはずなのだと。
「フハハ、じゃあ見せてみろ! 間抜けなフライトは許さんぞ! 今の貴様はアイリス・マックイーンというプリンセスを運ぶ操縦士なのだ! ならば、この機体は全宇宙で最も美しく輝かねばならん! 私を乗せるに相応しいフライトを見せよ!」
どうしてこうも煽るのが上手なのか。ミハルは苦々しい笑みを浮かべながらアイリスの話を聞いていた。だが、彼女も理解している。アイリスが自身を鼓舞するのは今の機動が不甲斐ないからであると。
「言っておきますが、私の本気はこんなものじゃありません。勢い余って姫君が振り落とされても知りませんからね?」
「では振り落としてみせろ! 小蠅が休憩するようなフライトで私が落ちるはずもない!」
ミハルは笑みを大きくした。じゃあ本気を見せてやろうと。煽っただけの代償を払わせてやるのだと。
「なら覚悟してください! 特別にミハル・エアハルトの全力機動を体感させてあげます!」
沈み込んでいた心に光が差していた。かつて導かれたときのように、アイリス・マックイーンの言葉はミハルを誘う。真っ直ぐに心の軌道を修正し、彼女をあるべき姿に戻していた。
「私は誰にも負けたくない!」
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