惨状
イプシロン基地ではターゲットである艦船の撃沈を確認していた。また掃討までに発射されたミサイルは合計二十五発であることも。
イプシロン基地方面に発射された三発は既に撃ち落とされている。だが、オリンポス基地へと向かった二十二発という過剰なまでのミサイルは、E側に配備された部隊には撃ち落とせなかった。
「四発が防護壁に着弾した模様です!」
防護壁の性能に安堵するも、立ち所に司令部の空気は一変する。彼らにとって予想外の結果が待ち受けていた。
「ミサイル起爆しました! 次々と起爆しています!」
オペレーターが告げたのは光皇連が意味もなくミサイルを撃ち放ったわけではないこと。基地の破壊を目的とした攻撃であったことだ。
「第二波がオリンポス基地を直撃します! ミサイル起爆!!」
矢継ぎ早に伝えられていく戦況。次なる指揮が必要であったというのに、司令室にはオペレーターの声だけが木霊している。
まるでイプシロン基地の未来を客観的に見せつけられたかのよう。映像を見守る全員が呆然とするだけだった。
「オリンポス基地……消滅…………」
遂には望むはずもない結末を迎えてしまう。あっという間の出来事。ターゲットが出現してから数分とかからず、オリンポス基地は宙域から姿を消してしまった。
「し、指揮系統がイプシロン基地に移譲されました……」
W側に配備された全ての部隊はオリンポス基地の所属であった。どちらかの基地に問題が発生した場合は自動的に指揮系統が移譲されることになっている。既に確認済みの事象ではあったけれど、無情にも移された指揮権限はオリンポス基地の現状を明確にしていた。
「司令……?」
呆気にとられていたクェンティンにアーチボルトが声をかける。流石にクェンティンも我に返った。今は呆然と立ち尽くす場合ではないのだと。
「Wライン配備の全機に! これよりイプシロン基地が全権を担う。補給等は精査が終わり次第指示するので現状維持に努めろ。ゲート裏の残存勢力は僅かだ! 従って今以上の増援はない! 今こそ力を振り絞れ! エイリアンを追い払うんだ!」
力強い指示が飛んだ。基地の消失はパイロットたちに過度な不安を与えただろうが、クェンティンはそれを払拭するかのように鼓舞し続けた。彼らが憂えることなく戦えるようにと。
「ドックの整備を急げ! 割り当ては以前と同じだ! 動ける人員はW側ブロックへと向かえ! 受け入れ態勢を整えろ!」
元々は全てがイプシロン基地であったため、受け入れ場所は十分である。しかし、人員の配置や各機能を停止していたドックもあり、早急に可動できる状態とせねばならない。
「アーチボルト、E側中央の補給はどうなっている?」
「まだ問題ないでしょう。しかし、早めに動くべきかもしれません。ドックは空いておりますが、整備士が圧倒的に足りませんから。多くがオリンポス基地へと異動しましたので」
溜め息を吐くのはクエンティンだ。基地を分けたからこそ噴出した問題。パイロットも足りなければ、整備士まで足りなくなってしまった。
「まあ良いように考えよう。幸いにもイプシロン基地は無傷だ。彼らの犠牲を無駄にしてはならん。予備のAIを稼働させろ。補給くらいは何とかなるだろう」
「ではそのように手配致します。あと、このリストが現状から考えられるE側中央の補給予想です。戦線に影響がでない範囲で実行してください」
言ってアーチボルトはドックの手配をすると駆け出している。どうにも慌ただしくなってきたけれど、戦場には絶対など存在しない。優勢であるという状況など脆く危ういものだ。過信しておれば即座に足を掬われてしまう。互いが相手を殲滅し、命を賭してまで勝利を目的としているのだ。総力戦が簡単に終わるはずもなかった。
一通りの指示を終えたクェンティンだが、今一度気を引き締めている。オリンポス基地の消失により、再び彼は人類の期待を一身に背負うこととなった。
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