窮地
同刻、イプシロン基地だけでなくオリンポス基地もまた最優先ターゲットを捕捉し、浮遊トーチカや砲台をフル稼働させている。
「イプシロン所属の新型機がターゲットを撃破しています!」
まず届いたのは吉報である。アイザックも知る黄金の機体。無駄のように思えたあの装備が効果を発揮しているとのこと。
「第二航宙戦団の艦隊は発射直後を狙え! 加速する前に撃ち落とすのだ!」
ゲート直線上から外れた場所にいる艦隊を動かす。艦船の火力ならば十分に届くはずと。
最優先ターゲットは新型機の活躍により、既に三隻が撃沈したものの、残りはまだ二隻もあった。
「残存ターゲットによる推定目標の試算がでました!」
オペレーターが声を上げた。AIによる判定を直ぐさま口にしている。
「オ、オリンポス基地――――」
予想はしていたけれど、全艦が同じ狙いであるとは想定外だ。新造されたばかりの基地を光皇連は真っ先に撃破するつもりらしい。
一瞬、誰もが声を失うもアイザックは違った。部隊を鼓舞するように彼は声を張っている。恐れおののく場面ではなく、司令官である自分自身が指示しなければならない時だと。
「一斉照射だ! 全艦撃ちまくれ! 周囲の艦船ごと撃ち抜いてやるんだ!!」
まだ十分な角度がなかったというのにアイザックは砲撃を指示。光皇連の狙いがオリンポス基地であると知った彼は焦っていた。ここは冷静に対処すべきであったというのに。
ターゲットは四千近い艦隊に守られているのだ。正面に入り込まねば決して届かない。撃ち放ったあとでなければ、砲撃がミサイルに届くはずもなかった。
「目標からミサイルが発射されています!」
「落とせぇぇ! 絶対に撃ち落とすんだぁぁっ!」
アイザックの怒号が飛ぶ。具体的な指示をしている時間はもうなかった。程なくターゲットは消失したものの、無情にもミサイルは発射されている。
「発射されたのは二十二発です! 第一波の到達まで約十秒! 第二波の到達予測は約二十秒後!」
「航宙機隊はミサイルのみを狙え! 可能な限り撃ち続けろ!」
直ぐさま声を張り、部隊へと指示を出す。発射されてしまったのなら、撃ち落とすしかないのだと。
ゲートW側に陣取るオリンポス基地所属の航宙機は一斉にミサイルへとビーム砲を放つ。しかし、徐々に加速をし、光速ともいえるスピードに達したそれを撃ち落とすのは困難だった。
「防護壁E51に着弾! E83にも着弾しました!」
起爆さえ防げたのなら問題はない。起爆ポイントが基地であるのなら防護壁で持ち堪えられるはずだ。
思いのほか頑丈な防護壁に少しばかりアイザックは落ち着きを取り戻していた。次々と防護壁に突き刺さっていくだけのミサイル。これならば問題ないと思い始めたそのとき、
「ミサイル起爆! Eブロック及びNブロックの防護壁が消失! 尚も起爆しています!」
最悪の報告が伝えられた。最初に届いた四発は起爆しなかったというのに、続いて届いたミサイルは防護壁が配置された宙域にて起爆している。
「前後した……だけか……?」
光皇連も防護壁に気付いているのは間違いない。それは明らかであり、対策を練っていないはずはなかった。到達した順番が違っただけであって、彼らは防護壁を確実に始末するようミサイルを設定していたようだ。
既に防護壁は機能していない。オリンポス基地は第一波のミサイル群によってその姿を露わにしていた。
「ミ、ミサイル着弾します!――――」
最後に記録されたのはオペレーターの声だった。それ以降はどうなったのか知る術がない。もうオリンポス基地は何の電波も発しない。新造基地は一瞬にして宙域からその姿を消した。
十四発が起爆した爪痕。人類史において最も巨大な爆発痕が宙域に残った。何十万という人員を一瞬にして消し去っている……。
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