オリンポス基地
同刻、オリンポス基地にある司令室は慌ただしかった。
初めての大戦であったし、二段構えの進攻に全員が戸惑っている感じだ。シミュレーションにはない緊張感や想定外の事象に対応しきれていない。
アイザック司令もその一人であった。指示すべきことが多すぎる。あれもこれもと考えている間に、次の問題が噴出してしまう。
「ダリル、机上の空論とはよく言ったものだな?」
「本当にそう思います。実際に指揮するのと想像は違いますね。クェンティン司令は見た目通りにタフなお方です……」
「まったくだ。若い頃から精力的に働く士官であったが、人類の未来を一人で担っていたなんて考えられん。我らはまだマシだろうな……」
戦争という恐怖よりも責任が重すぎた。イプシロンラインを抜かれては人類に勝ち目はない。一つのミスが取り返しの付かない事態に発展してしまう。地球で考えていたものと現状はまるで異なっていた。
「肝が据わっているのだろう。我々はイプシロン基地を当てにしているけれど、彼には今まで何もなかった。開き直る強さがなければ、二戦も続けて大戦を指揮できなかったはずだ……」
同じ立場になって初めて味わう重圧に、アイザックはクェンティンの強さを見ていた。今思えば大戦のエースを引き抜かれようとしていた事実は途轍もない不安を彼に与えていたことだろう。
「此度の戦いが無事に終われば、私はクェンティン司令に謝罪しようと思う……」
「それが良いかもしれませんね。地球圏の問題に色々と巻き込みすぎましたし……」
ダリルも同じ意見であるようだ。強引な引き抜きは仕方ないで済まされないものであった。頼れるエースがいない今になって、それは実感できている。
二人して長い息を吐いていると、
「司令! 最優先ターゲットがゲートを抜けて来ました! 大軍の最後尾です!」
オペレーターの声が司令室に響く。それはイプシロン基地からの伝達にあったこと。大量破壊兵器を搭載した艦船がゲートを潜ったとの話であった。
一瞬たじろぐアイザックだが、直ぐさま声を張る。
「光速ミサイルは優先的に撃ち落とせ! 直線的にしか進めないのだ! 浮遊トーチカは全てゲート方向に! 航宙機隊も大量破壊兵器を最優先とするっ!」
平穏無事には終わらなかった。最後まで出し渋るはずがない。大詰めという局面となって、光皇連は切り札を出している。
準備は滞りなく済ませた。防護壁から撃墜用の浮遊トーチカまで。しかし、不安は拭えない。全てを撃ち落とすまで彼らに安息の時間はなかった。
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