失態
イプシロン基地にある司令室は騒然としていた。W側に陣取る401小隊が全滅し、その余波でE側のブロックも戦線を下げざるを得なかったからだ。
アイリスを独房から連れ出したアーチボルトも持ち場に戻っている。しかし、彼は戦況を眺めては浮かない表情をしていた。
「らしくない判断ミスだったな……」
戻ったばかりのアーチボルトにクェンティンが言う。正直にアーチボルトとしては予想外だったはず。ほんの数十分の間に戦局が大きく動いてしまうなんて。
「申し訳ございません。目の前にぶら下がるリンゴを取ろうとし、崖下に転落したような気分です……」
アーチボルトは頭を下げた。良かれと思って行動したことが、最悪の結果に繋がるなんてと。
「まあ良い。中央ブロックは戦線を下げることになったが、まだベータ線は完全に抜かれたわけじゃない。こちらはオリンポス基地の要請に応じて戦線を下げただけだ」
クェンティンが話すようにオリンポス基地は中央ブロックの401小隊が全滅してから戦線を下げるよう要請していた。W側のみ後退していたのでは今以上の猛攻に遭う。イプシロン基地所属のパイロットも同じように戦線を下げて欲しいと。
「やはりミハルさんの存在は考えていたよりも、大きかったみたいですね……」
「まったくだ。彼女がいないだけで、こうも簡単に押し込まれてしまうなんてな。私もこのような事態になるとは、まるで考えていなかったよ……」
クェンティンもアーチボルトの提案に同意していたから強くは意見できない。四時間という無駄を省くための行動が裏目にでてしまったことは……。
「まあでも、ミハルさんが前線に戻りました。あのパイロットも砲撃手として乗り込んでいます。ここから彼女たちが巻き返すことを期待しましょう」
「それこそ結果がでなかったら、貴様は参謀として失格だぞ?」
「はは、それは厳しい話ですね? ですがご安心ください。私が立てた作戦の真価はここからです。如何に押し込まれていようとも必ずや盛り返しますから……」
アーチボルトは信じていた。エースと呼ばれる二人の活躍を。だからこそ自ら足を運んだのであり、主力であるミハルを呼び戻したのだ。ここから必ず戦線を押し返すだろうと考えている。
「いわゆる倍返しというやつです……」
「そう願いたいものだ。面倒事ばかり起こす彼女には仕事をしてもらわんとな。あらゆる言動を不問としている私の期待に応えてもらう時だ。アーチボルトと同じく結果を出せないようでは彼女も失格だ……」
「それは手厳しい……」
二人は笑っていた。アイリスの実力は誰よりも買っている。長くフロント閥にいる彼らはアイリスが在籍するデメリットよりもメリットが大きいことを分かっていた。
ミハルの機体が戦線へと戻ったことを確認し、二人は笑みを浮かべる。どのような戦いが繰り広げられるのかと楽しみにも感じるほどだ。
クェンティンはこのタイミングで部隊を鼓舞する。一時的に押し込まれただけであり、何の問題もないと。
「全機に告ぐ! さあ戦線を押し返すんだ!――――」
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