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Solomon's Gate  作者: さかもり
第五章 動き始める世界
124/226

圧倒的

 イプシロン基地を発進し、ミハルは戦闘宙域を目指す。急いでいるというのに防護壁が設置されたものだから、彼女は迂回を強いられている。


「それでミハル、戦況はどうなっている?」


 アイリスが聞いた。しかし、それはミハルも分からぬこと。小隊に被害がでているくらいしか把握していない。


「全体的には分からないです。まあでも、私の感覚として良いとは思えません。どうも補充されたパイロットが機能していない気がするんです……」


「なるほど、ベイルの奴は甘いからな。死ぬ気で訓練させていないのだろう。実際に死ぬよりも訓練で死にかける方がマシだというのに……」


 通信に混じるアイリスの溜め息。ミハルもつられて長い息を吐いた。担当エリア外はどうしようもない。彼らは自身の力量で生き延びねばならないのだ。


「まあ良い。戦局を一変させるぞ? アイリス・マックイーンを後席に乗せているのだ。つまらんフライトはするな……」


 アイリスが続けた。彼女は戦局に変化をもたらすという。もみ合うような展開をたった一機でまるで違うものにしようとしている。


 ミハルたちは迂回しつつも、ベータ線にある持ち場を目指す。ちょうどガンマ線に差し掛かったそのとき、


『ミハル君、戻って来たのか!?』


 どうしてかベイルの通信が届く。彼らのエリアはずっと先であったはずなのに。


「ベイル副隊長!? まさかもう補給なのですか!?」


 少しも理解できなかったミハルは声を張って聞く。補給でないのであれば、なぜガンマ線にいるのかと。


『ベータ線は抜かれた――――』


 端的な返答に声を詰まらせる。まだ二十分も経っていない。だというのにベータ線は抜かれてしまったという。


『とんでもない数が中央ブロックに押し寄せてきた。302小隊と401小隊が抜かれて我々は戦線を下げた格好だ……』


 両隣が抜かれたことで301小隊も戦線を下げたらしい。確かに一部隊だけ出っ張っておれば、格好の的となっただろう。かといって、下げてしまえば押し返すのは困難である。


「ベイル! ジュリアはどうした!?」


 突然、アイリスが声を上げた。そういえばジュリアの機体が見えない。真っ先に気付いたアイリスは命令を気にすることなく怒鳴るように返している。


「ちょっと、少尉!?」


『アイリス隊長!? どうして通信に!?』


 本来なら秘密にしなければならないことである。しかし、アイリスは念押しされたことすら忘れるほど焦っていた。


「ジュリアはどうなったのか答えろっ!」


 ベイルの問いには答えず自身は尚も問う。ジュリアはたった一人の弟。彼女は平常心を失うほど動揺していた。


『ジュリアは被弾しました……。平面座標γ2bです……』


「何だと!? どうして被弾する!? ベータ線はどうなっているんだ!?」


『後退中に裏を取られました。被弾をし、スラスターを損傷しています。脱出ポッドにて射出され、爆散の難を逃れておりますが、このままではとても……』


 皆まで語らぬベイルだが、即座にアイリスは理解していた。戦線を下げる際に被弾をしたというジュリアが安全な宙域にいないことを。


「ミハル、突き進め! 撃って撃って撃ちまくるんだ!」


 平面座標γ2bは目と鼻の先だ。しかし、そこには敵機が入り込んでいる。脱出ポッドがどう認識されるか不明である現状。追撃を受けぬ間に戦線を押し上げねばならなかった。


「一発必中を命じる! エイリアンは皆殺しだっ!」


 怒りを露わにするアイリスにミハルは感じ取っていた。仲が悪そうな姉弟であるけれど、やはり二人は互いを思い合っているのだと。


「いきます!」


 ミハルはスロットルを踏み込み、尚且つ照準を睨み付けるように見た。まだ距離はあったけれど、マニュアル操作でなら狙えないことはない。


「撃ちぬけぇぇっ!」


 ミハルがトリガーを引くと、どうしてか重イオン砲までもが撃ち放たれる。どうやらミハルに命令したように、アイリス自身も撃ちまくるつもりらしい。


 二つの輝きが宙域を貫く。どうやら同じ敵機を狙ったようで、二つの光は狂いなく並んだまま狙い通りに着弾する。


「ミハル、声をかけろ! 無駄撃ちになる!」

「りょ、了解しました!」


 同じ敵機を見ていた。ミハルはゴクリと息を呑む。


 視界の先に浮かぶジュリアの脱出ポッド。数ある選択の中で最も危険度が高いと判断した敵機が同じであった。それは驚くと同時に嬉しくもある。自分はアイリスと同じ世界を見ていたのだと。


「CVD259チェック!」


 いち早く照射ラグが回復したミハルは直ちに次を狙う。支援機はいなかったけれど、真っ向から突っ込んで行く。


「CVD259シュート!」


「CSE788チェックだ! その奥も同時に沈める!」


 完全に息が合っていた。先日とは逆の役割となっていたけれど、少しも違和感がない。互いの狙いを確実に察していたし、その射撃が外れないと確信していた。


「ジュリアァァ!」


 遂に二人はジュリアと合流する。こんな今も戦闘機動を続けていたのだが、アイリスは真っ先に声をかけていた。


『ミハル!? 姉貴も何で!?』


 全開機動で飛ぶミハルたちに返答があった。


 脱出ポッドには存在位置をキープする程度の推進力しかない。それもAI管理であって、即硬化ジェルに身体を覆われたジュリアには操作できなかった。彼にできることは口頭で操作可能な救難信号を発信する他は通信しかない。


「ジュリア、私は愚鈍な弟を助けに来たのだ! 感謝しろよ?」

『いやでも!?』


「でもも、クソもあるか! お前は絶対に落とさせん! この姉より先に逝くなど許さんからな!」


 アイリスは通信を終わらせる。敵機の大軍が目の前のブロックに現れていたから。集中して挑まないことには宣言した全てが嘘となってしまう。


「CBA102シュート! 続いてCMN021チェック!」


「三機を一気に吹っ飛ばすぞ! 推し量れ!」

「了解!」


 詳しく説明されずとも意図は伝わっている。ミハルは彼女と同じ世界を見ているのだ。アイリスが狙う場所は瞬時に理解できた。


「UW方向を殲滅します!」

「頼む! E方向は任せろ!」


 徐々に二人は大雑把な狙いしか告げなくなっている。それでも意思疎通が図れた二人には十分だった。お互いに撃墜する順番を決して間違えない。同じ視野を持ち、正確な射撃力を有する。確認し合った二人は互いが取りこぼすなんて仮定を思考から排除できていた。


『すげぇ……』


 通信からジュリアの声が届く。それは思わず漏れた感想に他ならない。彼は特等席で見ているのだ。回避機動を一切挟まずに攻め続ける黄金の機体。しかし、押されることなく寧ろ優位にあった。


 複座であり重イオン砲を装備していたけれど、支援機と比べて照射ラグは大きい。始めからミハルに支援機など必要ないと考えてしまうほど、彼女の機動は圧倒的だった。


 ジュリアは溜め息を吐く。

 同じ景色を見ているはず。モニターが映す情報は変わらないはず。しかし、エースパイロット二人が生み出す景色はこれまで見ていた世界が偽物のように感じさせてしまう。


 寧ろ、夢や幻想であってくれたらと願わずにはいられない。

 次元が違いすぎるフライトはジュリアを落胆させるだけであったのだから。

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