予期せぬ共闘
ミハルは命令通り、第八ドックへと戻っていた。
詳しくはドックで聞けと言われていたのだが、整備士であるダンカンは何も聞いていないらしい。
「一体、どういうことよ?」
再び罰を受けるというのなら、直ぐさま捕らえられるはず。しかし、ミハルは捕まることも帰還の理由を聞かされることもなく、ダンカンに勧められるがままに補給を受けていた。
「何の意味があるっての……?」
自分だけが補給を受けたところで支援機がエネルギー切れとなっては同じである。
しばし考え込むミハル。ふと声をかけられ、彼女の疑問は益々難解なものとなってしまう。
「ミハルさん、お待たせしました……」
どうしてか現れたのはアーチボルト准将である。また彼は頬被りをした人間を連れていた。
「准将、私は罰を受けるのでしょうか?」
「ああいや、そんな事実はないよ。貴方にはこれから出撃してもらいます。適当な砲撃手を見繕いましたので……」
ようやく疑問は解消した。しかし、分からぬこともある。上層部が用意した砲撃手はなぜ顔を隠しているのかと。
「誰なのです?」
眉根を寄せて聞く。得体の知れない人間と出撃するのは流石に不安である。どうしても隠すのであれば、拒否したいところだ。
「いやなに、ミハルさんに迷惑はかけませんよ。腕前は保証します。寧ろ最高の砲撃手であって、仕事はキチンと果たしてくれますから……」
砲撃手については詳しくなかったけれど、名を語るどころか素顔も見せないなど怪しすぎる。やはりミハルは納得できなかった。
「ミハルさん、本当に問題ありませんから。敢えて説明させてもらうと、彼女は人類史において最も負けん気が強く、この銀河で最も無鉄砲な方ですね……」
「えっ!?」
それは解答を口にしたようなものであった。同時に顔を隠す理由も推し量れている。それはミハルが知る限り一人しかいない。
ミハルは思った。あの人なのだと。表だって動けぬ人間はあの人しかいないはずと。
「了解しました。乗ってください……」
簡易的な補充も終わり、ミハルは昇降エレベーターを操作する。正体不明の彼女を確認することなく先に搭乗していく。
程なくリアシートとのリンクが完了。と同時にリアシートから声が届いた。
「おいミハル、私が乗っているのだ。撃墜されるんじゃないぞ?」
やはり予想通りの人であった。ミハルは長い息を吐きつつも笑みを浮かべている。
「誰に言ってんです? 私はトップシューターですよ?」
「ほざけ! 女王の不在に玉座を奪っただけだろ?」
何だかおかしかった。コックピットは隔たっており通信を介しているけれど、後ろにアイリス・マックイーンが乗るだなんて事態は考えもしないことだ。
少しばかり緊張したのだが、これは良い機会でもあった。ミハルは今の実力を彼女に見せつけてやろうと思う。
「まあ見ててください。私の機動が鋭すぎるからといって、シュートミスばかりでは困りますからね?」
「言うじゃないか? ならば見せてみろ。貴様がどれほど成長したのかを……」
ニヤリとするアイリス。今だ直接対決はない。共に飛ぶこともなく、実際にミハルを見たのは罰を受ける原因となったあのフライトだけ。しかもそれは射撃能力を確認しただけである。
「あと私は通信をオフにしなければならん。コックピット間の通話だけしか認められていない。余計な事は口にするんじゃないぞ? ようやく独房を出られるというのに、またあの部屋に籠もらねばならなくなるからな……」
「アハハ! お勤めおご苦労さまでした!」
「笑い事ではない! どれだけ暇を持て余したと思っているんだ!? 筋トレしかすることがないんだぞ!?」
今から再出撃だというのに二人は冗談を交わす。余裕なのか、或いは二人共が信頼しているからか。悲愴感は少しもなかった。
「じゃあ、発進しますよ? 私のことは気にしなくて良いので、気兼ねなく吹っ飛ばしてください」
「無論だ。貴様の戦果になるのは癪だが、砲撃は私も優れていると准将に分からせてやらねばならん。全方位の敵機を殲滅してくれよう……」
劣っているように言われるのは堪らなく嫌だった。従ってアイリスは本気である。
『セラフィム・ワン、発進を許可します……』
管制からの応答を受け、ミハルは大きく頷いている。
いち早く戻らねばならない。過信するつもりもなかったけれど、自分のいないエリアがどれほど押し込まれているのか気になってしまう。だからこそ、最初から全力を出すつもりだ。
「セラフィム・ワン、発進します!!」
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