独房にて
同刻、イプシロン基地ではアーチボルト准将がどうしてか司令室を離れ、一人通路を歩いていた。何もない廊下の突き当たり。彼は重々しい扉の前でギアをかざしている。
ピッと即座に認証され、扉がスライドしていく。すると中にいた女性と直ぐさま目が合った。
「准将……?」
「体調はどうだね? アイリス少尉……」
眉を顰める女性はアイリスであり、ここは彼女が謹慎を申しつけられている独房である。アーチボルトは進言した通りに、彼女を迎えに来たらしい。
「もう正午というわけではないはずだが? 私は今し方、朝ご飯を食べたところだぞ?」
アイリスとて時間は分かっていた。寝ていたわけではなかったのだ。釈放以外の話があって彼が来たことを察している。
「ここにもサイレン音が届いていたでしょう?」
アーチボルトが濁したように聞く。かといって、サイレンが響く理由は一つしかない。光皇連が攻め入ったことはアイリスも知っていたはずだ。
「なんだ、もう音を上げたのか? まだ始まったばかりだろう?」
皮肉にも似た言葉を返すアイリスは彼がここに来た理由を推し量っている。形勢不利な状況であり、自身の力を必要としているのだと。
「まだ午前八時です。厳密にいうとあと四時間、貴方はここで過ごしてもらわねばならない。しかし、被害を最小限とするため、私は君を連れ出そうと考えています」
「はは! 准将、女を誘うのなら、もっと情熱的な台詞を覚えた方がいいぞ? また悪者にされては堪らんからな。私は時間までここにいるつもりだ……」
扱い辛い性格であることはアーチボルトも熟知している。よって無策で赴いたわけではなく、ちゃんと彼女の心を動かす魔法の言葉も用意していた。
「そうですか、残念です……。時間まで貴方にはミハルさんのリアシートで射撃訓練をしてもらおうと考えていたのですが……」
アーチボルトの話にアイリスはピクリと眉を動かす。聞き捨てならない内容である。ミハルのリアシートとは複座であることを意味し、それは自身が開発に首を突っ込んだ機体に他ならないのだ。
「ほう、私に砲撃手をしろと?」
「嫌なら他を当たるだけですよ。それとも自信がありませんか? もしそうであれば、あと四時間ここで瞑想でもしていなさい……」
アイリスの表情が一変する。余裕のあった先ほどとはまるで違う。不満げな表情をしてアーチボルトを見ていた。
「准将、アレは私のだぞ……?」
顔を顰めて話すアイリスを見ると効果は十分だと思う。アーチボルトは煽るつもりで、そのような話を始めたのだから。
「いや、それは違います。あの機体は正規配備の際、ミハルさんが操縦者であると登録されました。つまり貴方のではない。少尉は乗った経験があるだけ。機体開発の一端を担っただけですね……」
「いや、私が一番上手く操れるんだぞ!? 私こそが史上最高のパイロットだろう!?」
「だったら証明してくれませんか? それともリアシートでは結果が出ないのでしょうか? ミハルさんは砲撃手としても、十分すぎる戦果を上げましたけれど?」
グヌヌと悔しがるような声を出す。アイリスにも上手く誘導されたことは分かっていたけれど、それでも彼女の負けず嫌いは否定の言葉を許さない。
「だったら見せてやろう! その目に焼き付けろ! 史上最高とはどういったものであるかを! さっさとミハルを呼び戻せ!」
ニヤリとアーチボルト。直ぐさま頷き、アイリスの手を取った。そのまま彼女の手を引いて独房を出ていく。
会話すらなくドックまで行くのかと思いきや、アーチボルトは笑顔を向け、アイリスに話しかける。
貴方はとても素直で扱いやすいですね――――と。
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