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Solomon's Gate  作者: さかもり
第五章 動き始める世界
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秘策

 司令部は第二陣の侵攻により一時騒然としていた。けれど、大軍勢の進軍は以前にも経験しており、取るべき行動は既に分かっている。今は一通りの指示を出し終えて、再び落ち着きを取り戻していた。


「やはり撃墜が目立つな……」


 クェンティンが発したのは敵軍を指してのものではない。彼はベータ線に陣取る航宙機部隊が機能していないことを口にしている。


「経験の有無は大きいです。前線配備の部隊は漏れなく補充を受けていますから。幾らシミュレーションをこなそうとも、実戦は雰囲気からして異なりますし……」


 アーチボルトもまた憂えていた。補充をしたところがピンポイントで失われている事実に。前線でなければ体感できぬ雰囲気。しかし、経験しようにも前線へ配備した者たちは押し並べて撃墜されている。これではパイロットの育成など不可能ではないかと思えるほどだ。


「今思えばミハルさんは才能がまるで異なりましたね。初陣で最前線の中央を守り切ったのですから……」


「ああ、同感だ。彼女の配備に際して反対意見が多数を占めていたなんて、今では考えられん。優秀なパイロットが推していた時点で彼女の実力は歴然としていたのだな……」


 思い出されるのは四ヶ月前の大戦である。エースを失ったGUNSはルーキーに白羽の矢を立てた。だが、その配備もすんなりとはいかず、妥協案の末に了承されている。


「司令、アイリス・マックイーンを独房から出しませんか?」


 ふとアーチボルトが言った。彼女はまだ謹慎中であり、出撃などできなかったというのに。


「貴様、本気か? まだ八時だぞ? あの者の謹慎期間は正午までだ。緊急時とはいえ、流石に言い訳できんぞ?」


「まあ、そうですよね……。けれど、参謀としては彼女を使いたい。そう思えてなりません……」


 全体的な戦況は完全なつぶし合いであった。中央こそ割と持ち堪えていたけれど、中央から離れるにつれ、離脱率が高くなっている。


 性格はともかくとして、実力は折り紙付き。そんなパイロットを使いたいと考えるのは自然なことであろう。


「しかし、我々よりもオリンポスが気になる。W側ベータ線はE側よりも被害が大きいように思う。彼らは守護できると思うか?」


「どうでしょう。折を見て通信してみます。救援が必要かどうかを……」


「そうしてくれ。E側のみ守護したとして意味はないのだ。それはアイザック司令も分かっているはず。意地やプライドなど考える時ではないと……」


 雑談的な会話をしている間にも僚機が次々と失われていく。司令部のメインモニターにある部隊一覧から生存を示す輝きが絶え間なく消えていた。


 これには嘆息するしかない。経験の浅いパイロットを配備したのはクェンティンに他ならないが、一時間もせぬうちに失われてしまうなど想定外である。


 堪らず意見したのはアーチボルトだ。彼はまたも不可能な提案を口にしていた。


「やはりアイリス少尉を戦線に配置すべきです……」


 可能であればクェンティンもそうしたかった。だが、アイリス・マックイーンの謹慎は本部の指示である。既に罰の軽減を受け入れてもらっている立場で、彼女を戦線に配備する言い訳など存在しない。


「アーチボルト、冷静になれ。我々は軍人であると同時にGUNSの一員だ。本部の決定に逆らえるはずもない」


「別に本部に迷惑をかけるつもりはありません。正午まで彼女を使わないなど愚策。上手い具合に彼女を戦線に連れ出す方法が一つだけあるのですよ……」


 クェンティンは眉根を寄せた。そんな方法があるのであれば、是非とも聞きたいと思う。アイリス・マックイーンが戦線に出るだけで、どれほど楽になるのか理解できていたから。


「聞かせてくれ。あの馬鹿者を配備できる方法があるのか?」


 クェンティンの問いには頷きを返している。アーチボルトには秘策中の秘策と言える裏技があった。


「普通に出撃させては足が付きます。けれど、たった一つ彼女を戦線に連れ出す方法があるのです……」


 聞く限りアーチボルトは一定以上の確信を持っている。長く共に指揮を執るクェンティンは彼の作戦に期待を寄せた。


「ミハルさんの機体。あれは復座機です。後部座席に少尉を乗せて戦えば良いかと考えます」


 予想もしない進言に絶句するクェンティン。確かに普通の出撃ではないし、パイロットではないそれに足は付かないだろう。かといって、効果が見込めるのかどうかは不明である。


「それで戦力になるのか?」


「確実に戦力です。先日の映像を見た司令ならば分かるはず。ゲート裏に進行した彼女たちはたった一機で殲滅してしまったのです。あと四時間を無駄に過ごすより、アイリス少尉をミハル三等曹士の後部座席に乗せましょう。彼女たちであれば絶大な効果を生み出すのは既に実証済みですし……」


 クェンティンは息を呑んでいる。突拍子もない提案であり、簡単に了承できないものであった。


「どう……誤魔化す……?」


「何も問題ありません。全ての撃墜をミハル三等曹士の手柄にすればいいだけです。アイリス少尉は正午を持って出撃。早ければ早いほどこの策は効果を発揮するでしょう」


 まるで脅迫されているようだった。まさかアーチボルトが規律に違反しようとするなど、長く共にいるクェンティンには予想できないことである。


 一瞬のあと、クェンティンは頷く。どうやら彼も心を決められたらしい。


「ミハル三等曹士を帰還させろ……」


 後手に回るのは愚策。先の大戦での苦労がクェンティンに蘇っていた。現場では結果が最優先されるべき。今後も戦争が継続するのであれば、被害は少なければ少ないほど良いはずだ。


 もみ合う展開の中、たった一機に帰還命令が出される。まだ補給が必要な時間帯ではなかったというのに……。

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