新型機の実力
ミハルたちは持ち場に到着していたが、この度は無人機部隊がかなり機能しており、まだベータ線には一機たりとも飛来していない。
「無人機のアップデートは有効だったみたいね?」
「ああ、そうだな。正直なところ予想外だけど……」
雑談をする余裕まであった。ベータ線に接近する機体すらない現状は宙域に浮かんでいるだけのよう。
『ベータ線配備部隊全機に告ぐ。これよりアルファ線上3ラインまで進攻せよ。敵航宙機を殲滅されたし』
司令部からの通達にミハルは唖然としている。未だかつて戦線を押し上げる命令なんてなかったのだ。
「ミハル!?」
「落ち着いて。スリーラインにまで入っても敵機の数はしれてる。戦えるわ……」
困惑するジュリアに対してミハルは冷静に答えている。命令とあらば兵士は従うしかない。指示のままにスロットルを踏み込んでいた。
「CAB185チェック!」
早速と交戦を開始する。ミハルは出会い頭に重イオン砲を撃ち放った。
「おい、ミハル!?」
「へーきだって! 直線上に僚機はいなかったわ!」
豪快な重イオン砲の一撃は減衰することなくゲートまで届いていた。恐らくはゲート裏に突き抜けていったはず。
「さあ、始めようか!」
重イオン砲を号令とし、ミハルは射程範囲内にある敵機を撃ち抜いていく。進攻指示は待つよりも有り難かった。余計なことを考えずに済むし、集中を維持するためにも戦っていたいと思う。
「いっけぇぇっ!」
指定宙域に敵機がいなくなれば重イオン砲を放つ。ミハルは艦隊を撃ち抜き始めていた。
ジュリアはそんな彼女に圧倒されている。飛来する敵機の数はまだしれていたけれど、それでも機動中に重イオン砲まで自在に操るなんて考えられない。彼女に追いつこうと必死で頑張ったジュリアであるが、正直にミハルの操縦は理解を超えていた。
「何て……奴だよ……」
重イオン砲はゲートまで間違いなく届いている。新手の艦船であってもミハルは撃ち抜いていたのだ。出撃前に語っていたプロトタイプ機が有能だという話。ジュリアはまざまざと見せつけられている。
「これは本当に使える機体なのかもな……。扱える者が乗っているなら……」
同じようなことが自分にできるとは思わなかった。けれど、扱いきれるパイロットであれば確実に戦力となると思う。何しろミハルは光皇連の戦闘機を撃ち落としながら、敵艦を沈めていたのだから。
『管制より全機に。ゲートより新たに三千の艦船出現。ベータ線配備の部隊については所定位置まで後退されたし。繰り返す……』
指示に従いアルファ線に入ったはずが、ろくに戦うこともなく後退が命じられてしまう。しかし、最前線に陣取るミハルたちにはその理由を推し量っている。艦隊が射出した航宙機によって、アルファ線上が敵機で埋め尽くされていたからだ。
「ミハル!?」
「仕方ないわ。この編隊じゃね……」
ジュリアは意外に思う。ミハルであれば、後退を愚図ると考えていたのに。素直に機体を回頭する彼女が不思議でしょうがなかった。
もしかすると精神的にミハルは成長しているのかもしれない。彼女の機動をジュリアはそんな風に解釈していた。
ところが、それは買いかぶりすぎだった。後退していく最中にジュリアは目撃する。前を飛ぶミハルの機体。上部にある砲身がゲート方向へと回転する様を……。
「マジかよ!?」
驚いた瞬間に蒼白色をした重イオン砲が自機の脇を突き抜けていく。また後方には幾つもの爆発が連鎖的に起きていた。
「おいミハル、危ねぇって!?」
「へーきよ! ちゃんと狙ってるから!」
「ホントか!? 味方機を巻き込んでんじゃないだろうな!?」
「もう一丁いくわよ!」
咎めようとしたものの、更なる攻撃をミハルは繰り出す。素直に後退していたのは重イオン砲という攻撃手段を残していたからだろう。やはり彼女はジュリアが知るままであった。
「どっせぇぇいっ!」
再び宙域を裂く重イオン砲。本当に狙っているのかジュリアには分からなかったが、後方には確かに爆発痕が残されている。
呆れてものが言えない。後退時に攻撃を仕掛けるだなんて。加えて的確に撃墜してしまうなんてと。
「基地に戻ったらその機体の安全機構について上申させてもらうよ……」
「ちょっとやめてよ! これ気に入ってんだから!」
何だか笑ってしまう。本当に姉とそっくりだ。腕前だけでなく好みまで同じ。
まあしかし、ミハルが操縦するのなら、ジュリアは信頼できた。後方を狙ったとして彼女なら下手なことにはならないだろうと。
「気を引き締めていくぞ。もうアルファ線ワンラインは敵軍で埋め尽くされている。直ぐにベータ線まで抜けてくるはず」
「そんなの分かってる。軽く準備運動ができてラッキーだったわ!」
相変わらず強気なミハルにジュリアは笑みを浮かべていた。本来なら今頃はアイリスが前を飛んでいたのだ。ミハルはゲートW側に配備され、E側配備であるジュリアは彼女と共に飛ぶなんてできなかったはず。
「たまには姉貴も役に立つな……」
「ん? 何か言った?」
「ああいやミハル、敵機が抜けて来たぞ!」
流石に五万近い大軍は無人機などではどうしようもなかった。瞬く間に敵機はベータ線へとタッチしていく。だが、ミハルは少しも動じていない。出撃前の不安が嘘のように自信が漲っている。指定されたエリアは以前よりも狭かったし、ウォーミングアップ的な機動も済ませていたから。
「ジュリア、全機撃墜するからそのつもりで!――――」
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