銀河間戦争第三幕
司令部は慌てふためいていた。
早朝の大規模な偵察のあと、交代で休憩を与えていたものだから、指揮官は不在であるしオペレーターも不足している。
アーチボルトが代理で指示を出しているのだが、オリンポス基地所属の第二航宙戦団に遅れを取ったのは明らかだ。
「すまん、アーチボルト……」
第一航宙戦団が出撃して五分ばかりでクェンティン司令が到着。戦況はまだ何の問題もない。一応はアルファ線上で無人機が食い止めていた。
「思いのほか早かったな……」
「はい、立て続けの出撃となりますから心配です……」
まさか偵察のあと間髪入れず侵攻してくるとは予想外だ。ベゼラに聞いたところでは近いうちとの話だった。数日の余裕があると考えていたのに、数時間の猶予しかないなど誰も想定していない。
「またも有人機ばかりだな? これも偵察の延長ではないのか?」
「分かりませんが、既に艦船が百隻から侵攻しています。恐らくは大規模な偵察によって、我々が疲弊していると察知したのでしょう」
航宙機は一万と艦船が百隻。第一陣としては随分と少なかったのだが、まだ序盤である。今以上の侵攻がある可能性は高い。
「しかし、浮遊トーチカと重イオン砲の制御スラスターを大型化したのは成功だったな?」
「まあ偵察すら許していませんから、効果の程は判然としません。恐らく以前と同じ座標を狙ったのでしょう」
先の大戦で狙い撃ちされた重イオン砲であったが、この度は姿勢制御用のスラスターを大型化し、ゲートの周囲を周回する設定としている。更には迎撃用の浮遊トーチカを増やし、着弾を許さなかった。
「何にせよ十分戦えます。此度の侵攻に時間がかかったのは我々にとって幸運でした。ゲート裏の艦隊を一掃したことも結果的に戦局を変えましたね。たとえ、それが軍規違反であったとしても……」
アーチボルトは軍規に抵触した彼女たちに感謝していた。組織としては褒められたものではなかったが、戦いの場に身を置くものとしては否定などできないと。
「そもそも軍規がおかしいのだ。どうして侵略者まで擁護する必要がある?」
「確かに。彼らにはゼクスへ赴いて対話していただきたいと考えてしまいますね。どれだけ的外れな主張であるのか分かってもらえるはず。生きて帰ってこれたらの話ですけれど」
戦局はまだアルファ線上である。百隻の艦船もほぼ足を止めていた。前回とは明らかに異なっている。上手く運びすぎて逆に不安を覚えるほどであった。
「問題は光速ミサイルだな。アーチボルト、お前はどういった場面を想定する?」
クェンティンはロケット状をしたミサイルについて聞く。これもミハルたちが裏側へと抜けた成果である。事前に対策できたのは彼女たちのおかげだ。
「既に防護壁が見つかっているでしょうから、タイミングは難しいですね。あるとすれば最終局面ではないかと……」
ゲートから基地への直線上には幾つもブロック状の防護壁が浮かんでいる。ゲートから二つの基地は見えない状態であり、スピードで押し切ろうとしていた光速航行ミサイルは目的を果たせない。しかしながら、アーチボルトはこの交戦が終わる間際に撃ち放つと予想していた。
「撃たせないのが一番だな。搭載艦を変更した可能性はあると思うか?」
「それはあり得ないでしょう。あのタイプの艦船を注視しておけば、未然に防ぐことが可能だと思われます」
偵察によって得られた情報では光速航行ミサイルは特別な艦船に搭載されていた。ほぼ直線しか進まぬミサイルは特殊な艦船でしか運用できなかったらしい。
「AIでの監視を強化しろ。あの艦船を第一目標とする。撃ち放つよりも前に沈めるのだ」
「承知しました。そのように指示いたします……」
目標が判明している現状はかなり優位にあった。戦況を操れるといっても過言ではない。得られた情報は全て精査され、適切な対応が成されている。準備期間が長かったこともGUNSにとって追い風であった。
「新手が出現! 航宙機群約四万! 続いて艦隊が侵入してきます!」
戦局が動き始めている。未だアルファ線上で踏み留まっていたけれど、増援はそれが前哨戦でしかないことを明らかにしている。
「撃ち落とせ! ベータ線配備部隊はアルファ線へと入れ! ここは打って出ろ! 殲滅してやるのだ!」
クェンティンの号令が飛ぶ。大軍が押し寄せて来たのだが、待つのではなく攻めるようだ。最前線を押し上げることで無駄な待機時間を軽減するつもりらしい。
「不満か?」
クェンティンが聞く。参謀の意見を伺うことなく実行してしまった彼はチラリと一瞥したあと、アーチボルトに問いを投げた。
「いえ、私も戦線の押し上げには賛成です。ベータ線だけであるのなら効果的かと。序盤でありますし、適切な時期に戻すのであれば、これ以上ない判断だと思われます」
どうやらアーチボルトも同じ意見らしい。戦線を押し上げるなんて初めての戦法だが、彼もここは攻め時であると考えているようだ。
侵攻されたはずのGUNSが攻勢に転じるという意外な展開を見せる。銀河間戦争第三幕は波乱の予感を覚えずにはいられなかった……。
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