新造戦艦ガナハ
光皇路には艦隊が集結していた。規模は前回とほぼ同じである。けれど、前線基地として建造された旗艦ガナハの存在が艦隊に威圧感を与えてもいた。
ガナハの司令室にはハニエム皇連軍総統の姿。彼はカザイン光皇に命令された通り、ガナハに乗船し、初めて光皇路へと来ていた。
「偵察はまたも全滅です……」
「ちゃんと訓練しているのか? 光皇路の裏側がどのような状態であるのか分からなければどうにもならんぞ?」
「申し訳ありません。ですが、付け焼き刃的な技量を与える時間しかなかったのは事実であります。基本操作くらいしか兵は学んでおりませんので……」
現状の戦力は数だけを用意したといえるほど貧弱なものであった。貴族に当たる星院家の私兵であれば練度も十分であるが、一般登用した兵たちを数ヶ月訓練したからといって、まともに戦えるはずがない。
「まあしかし、侵攻は光皇の命令だ。艦隊の八割を出撃させろ……」
「了解しました。それで光皇の槍はどういった局面で?」
光皇の槍とは新たに開発した破壊兵器である。光速に迫るスピードで飛来し、基地に近付くや起爆するよう設計されていた。
「向こう側の情報がない。真っ先に撃ち放つのは無駄になる。基地の位置を確認してからだ」
「しかし、それであれば敵軍もかなりの戦闘機を出してくるでしょう。十分な効果が期待できないのでは?」
参謀のグリダルは新兵器の運用に関して意見を口にする。二人共が最大の効果を求めていたのだが、どちらの運用も問題があって決定には至らない。
「そうかもしれんが、太陽人の基地が以前のまま位置を変えていないとは言い切れない。弾数には限りがある。初っぱなに無駄弾とするのは容認できん」
用意した弾数は五十発だ。生産された数は百発であったけれど、光速航行スラスターが戦闘機よりも大きく結果として搭載場所を選んでいる。加えて直線しか飛行できない性質上、特別な船が必要となった。新兵器の生産よりもそちらの準備に時間を要している。
「だとすれば、やはり後半となりますか。敵機の密度が薄くなった頃合いしか……」
「当然そうなる。敗戦しても構わん。だが、最低限の仕事は果たさねばならんのだ。何の成果もないでは陛下への報告ができぬ……」
人員を失うことは厭わない。それはカザイン光皇の指示であり、敗戦も想定内の事象である。しかし、光皇はエザルバイワ皇子に戦果を与えたいと考えているのだ。せめて敵軍の基地を壊滅状態にしておかないことには、どのような罰を受けるか分からない。謀反を模索するハニエムであるが、それが成されるまでは光皇に忠実な家臣を演じるしかなかった。
「出撃準備に入れ。あとは任せた……」
「私は出撃しなくてもよろしいでしょうか?」
「好きにしろ。ただし勝ってはならん。今のところ、とどめを刺すのはエザルバイワ皇子の役目だからな……」
敗戦が前提である。既に太陽人の戦力が光皇路に集結していることは周知の事実だ。功を成すべきは皇子であり、光皇路を突破する者は皇子以外に存在してはならない。
「我々も難しい立場ですね……。まあ了解致しました。兵は鼓舞しておきますが、あの練度故に勝利することなどないでしょう。基地に損壊を与えることを最大目標と致しましょう」
「ああそうしてくれ。破滅願望がないのなら、貴様は光皇路を越えないことだ……」
言ってハニエムは退出を命じた。勝利を収めないという話は決してカザイン光皇の指示ではないのだが、言い訳への伏線としてハニエムはそのように動いている。
光皇の機嫌を損ねる事態を避け、それなりの待遇が今後も続くようにと。
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