不可解な機体
ミハルたちは指示通りにゲートへ張り付いていた。一機も逃してはならないとの命令通りに撃墜を続けている。
「早速とセッティングの確認ができるなんて有り難い話だわ!」
「気を抜くなよ? これでも大規模な戦闘なんだぞ?」
「分かってる! 分かってるって!」
三百機という有人機は本来なら大戦といっても過言ではない。しかし、何万という大戦を経た現在において、大規模という言葉が適切だとは思えなかった。
生き残ったパイロットたちは経験を積み、全員が確実に成長を遂げている。三百機を相手にしても怯まずに向かっていけるのは、彼らの技量や精神的部分が以前とは異なっているからに他ならない。
「CA215シュート! 次はCA289!」
「了解! CA154チェックだ!」
事もなげに撃墜していく。明確な担当エリアはなかったものの、301小隊は自然とエリア分けが成されており、互いの機動を邪魔することなどなかった。ミハルたちが真っ先にゲートへ張り付いてから、順々にエリアを確保している。一機たりとも逃すなとの命令通りに彼らは機動していた。
順調そのものであったけれど、ふとミハルは気付いた。不可解な機動をする敵機の存在。どうしてかN方向へと離れていく機体に。
「ねぇ、ゲートはN側から侵入できないよね?」
「ああ、S側だけ穴が開いたと聞いてるけど……。どうしたんだ?」
ジュリアは気付いていないようだ。大軍が侵攻したあと、戦闘宙域から離れた機体があることを。
「N方向に三機。完全に射程外だけど、確かにいるの……」
「よく気付いたな? 奇襲でもかけるつもりなのか?」
「とりあえず気を付けて。いつ戻ってくるかも分からないし……」
戦闘を続けながらも後方を意識する。以前の彼であれば試すよりも前に諦めていただろう。だが、現在のジュリアは違った。少しずつ積み上げた技術。今ならばやれると信じている。
「セラフィム・ツー応答してください。N方向に敵機が三機隠れています。警戒してください」
『こちらセラフィム・ツー。了解した。司令部に連絡を取ってみる。どうせ裏からは逃げられん。今のところは警戒だけで良いだろう』
ベイルが司令部に報告してくれるらしい。一番機はミハルであったけれど、やはり隊を纏めるのは副隊長である彼であった。
戦闘はひたすら撃ち落とすだけとなっている。数の割に手応えがない。ミハルはセッティングの確認をしたかったらしいが、これではシミュレーションと何ら変わらなかった。
「ジュリア、この有人機ってどう思う?」
思わず聞いてしまう。侵攻したのは全機が有人機であるのだが、無人機よりも与し易い。自身の技量が大幅に向上したとは思えないし、また新しい機体の性能によるものとも違うと感じる。
「どうってお前なら余裕だろ? 三百機とはいっても密度は低いし、逃がさないようにするだけだ」
「いやそんなことを言ってるんじゃなくてさ、はっきり言って下手くそ過ぎない?」
「俺はお前の機動が凄すぎて、ついて行くのが精一杯なんだ。せっかく上手くなったと考えていたのに、俺よりも成長してんじゃねぇよ……」
ジュリアには分からなかったらしい。また彼はミハルが成長したものと疑っていないようだ。以前にも増してキレのあるフライトが全て成長によるものであると。
「まあいいや。さっさと片付けよう。艦隊くらい突っ込んできたら良かったのに……」
「恐ろしいこというんじゃねぇよ。砲撃手もいないってのに重イオン砲を撃つつもりだったのか?」
「当たり前じゃん? セッティングを煮詰めながら、砲身の操作もできるように頑張ってたのよ!」
ミハルの返答にジュリアは溜め息を吐く。砲身を操作する余裕まであると知っては落胆するしかない。自身は語った通りについて行くのが精一杯であったというのに。
「絶対に最前線はこの機体にすべきよ。前には無人機しかいないし、間違いなく戦力になる。戻ったら司令にお願いしてみようと考えてるの!」
「やめてくれ。そんな曲芸ができるパイロットがどれだけいるってんだよ? それこそ姉貴とミハルくらい。凡人には扱いきれねぇし、的がでかくなるだけだ……」
会話しながらも戦えている。ジュリアはようやく敵機の質について理解し始めていた。明らかに熟練度が足りない。カザインの有人機は明確に訓練不足であると思えた。
「ミハル、やはりこいつら乗れてない……」
「でしょ!? 簡単に裏を取れるし、ミスとしか思えない機動が多いのよ!」
偵察に三百機も送り込んできた理由。ジュリアはそれが練度によるものではないかと考えてしまう。数を送り込めば一機くらいは帰還できるのではないかと。
「さっさと片付けるぞ。俺も積極的に撃墜していく」
「了解。無茶はしないように!」
援軍も到着し、宙域に残るカザイン機はみるみるうちに姿を消していった。既に態勢は決しており、帰還できるカザイン機はいないだろう。戦闘宙域を離れた三機が何か行動を起こさない限りは……。
程なく警備隊及び救援隊の活躍により宙域は平定された。一機残らず撃墜することに成功している。
救援部隊が基地へと帰還していく。ミハルたち301小隊は予定の警備時間を残しており、交戦が終わった今も宙域に残っていた。
引き続き警戒飛行を行っていたミハル。ふと艦隊がゲート脇を抜けていくのが目に入った。
「ジュリア、あれって第一航宙戦団の艦隊よね?」
どうして第一航宙戦団が出撃しているのか分からない。艦隊戦などなかったし、ゲートを越えてどこへ行くのか不明である。
「もしかして例の三機を撃ち落とすつもりなんじゃないか?」
「そういやあの三機ってどこいったの? もう見える範囲にいないけど……」
何らかの企みであるように思えてならない。ゲート裏にいた三機は既に宙域を離れている。指示さえあれば追いかけることもできたが、ベイルからの追加的な説明はなかった。
ゲートの裏側へと進む艦隊をミハルは不思議そうに眺めている……。
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