覚悟
皇都レブナに隣接する皇連軍本部では出撃準備が着々と行われていた。
ベゼラはゼルス・キグナと名を変え、操縦士として連軍に潜入している。
「ベゼラ殿下、お伺いしていたように機体へ送信器を取り付け致しております」
「キロ、私はゼルスだ。以降は必ず呼び捨てにしろ」
キロという女性はリザーラによって配置された人員らしく、ゼルスがベゼラであることを知っているようだ。
「まあ送信器の取り付けは助かった。太陽人の回線に繋がらねば何も始まらん……」
ベゼラは本気で太陽人の協力を取り付けるつもりのよう。降伏する旨の信号を発信し、彼らと交信する。亡命ともいえる無謀な策略によって、彼はカザイン光皇に対抗しようとしていた。
「気をつけてください。先日、自立機ではなく、有人機が初めてこちら側に入ってきたようです。まあ、それも連軍が攻め入ったせいですが……」
「光皇路を太陽人が抜けて来たのか?」
初めて聞く話にベゼラは眉根を寄せた。今まで何度も偵察機を送り込んでいたものの、太陽人は一度として光皇路を越えてこなかったというのに。
「光皇路に待機していたほぼ全軍が偵察に向かったのです。恐らく逃げ場を失い光皇路を抜けて来たのだと思われます」
キロの説明にベゼラは納得した様子だ。好戦的ではないという前提の元に作戦は練られている。カザイン政権が発表したままの野蛮人であっては、計画は最初から考え直す必要があった。
「たった一機だけ。望遠映像に映っていたのは光皇の如き金色に輝く機体でした。ただその一機は運悪く一番の腕前を持つ操縦士だったと思われます。彼らの言葉でいうところのエースパイロットと呼ばれる者であった可能性は高いです」
「エースパイロット?」
一応は太陽人の言語を学んだベゼラだが、聞き慣れぬ単語に問いを返した。とはいえ彼はまだ片言である。意思疎通には星院家が用意した翻訳機を必要とするレベルでしかない。
「光皇路を越えてきたのは一機であったはずが、残存勢力は一掃されています。回避機動は圧倒的であり、火力も申し分ありません。無駄弾は一発としてなく、全てが一撃で沈められてしまったようです……」
黄金の機体にはくれぐれも気をつけてくださいとキロは続けた。皇連軍本部が捉えた映像には、たった一機で残存艦隊を殲滅した黄金の機体が映っていたのだと。
「黄金の機体か……」
「上手く光皇路を越えられたとしても、金色に輝く機体には近付かない方が無難です。有無を言わせず攻撃を受けるやもしれませんから……」
キロの進言にベゼラは頷いた。コンタクトを取る前に沈められては堪ったものではない。光皇の民を救うべく彼は行動しようとしていたのだから。
「了解した。目立つ機体なのは有り難い。気を付けておく……」
最終的な目標以外は計画通りに進んでいた。現在の連軍は人員が激しく入れ替わっており、管理しきれない状態である。そのため連軍内の管理はAIに任せきりであって、ハッキングさえできたのであれば、如何様にでも細工できた。同じ操縦士部隊に部下を配置することすら可能となっている。
「上手く太陽人を説得できれば、私は敵として戻ってくるだろう。必ずや合図を送る。そのときレブナに侵攻できるよう準備を怠るな。またヘーゼン星院家の協力も取り付けておけ……」
未だヘーゼン星院家の動きは不明なままであり、ベゼラと共に難を逃れたクウィズ・ヘーゼン皇子もまた行方不明である。恐らくは所領のあった惑星圏に向かったと考えられるが、連絡もなければ行動を起こす気配すらなかった。
「監視の目を逃れ、必ずやヘーゼン家の協力を取り付けます」
「民を救うのだ。一人でも多く……」
凛々しい眼差しにキロは頷いている。
顎髭を蓄えたベゼラ。輝くような美しい銀髪は刈り上げられ、かつての気品はもう感じられない。けれど、真っ直ぐな心は今も健在である。光皇連のトップに立つべき人であるとキロは再確認していた。
不意に、けたたましいサイレンが響き渡る。どうやら出航時間が迫っているようだ。
「あとを頼む。私は行く……」
「どうかご無事で……」
ベゼラは戦艦に乗り込んでいく。自ら光皇連を救おうと立ち上がった彼はどのような苦難をも乗り越えるつもりだ。命を賭す覚悟がベゼラの背中を押し続けている……。
本作はネット小説大賞に応募中です!
気に入ってもらえましたら、ブックマークと★評価いただけますと嬉しいです!
どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m




