調査結果
軍部から送られてきた緊急的な編成変更の通知に承認をしたデミトリー。息つく暇もないほど忙しかったのだが、彼はどうしてか執務室ではなく通信室にいた。
「ああ、遅くなってすまない。マルコ主任、何か分かったのか?」
『ああいえ、問題ありません』
法の改定を受けて早速とゲート裏の調査が始まっていた。どうやら通信は責任者であるマルコ主任からであるようだ。
ミハルたちが報告したようにゲート裏に陣取っていたカザインの艦隊は全てが機能を停止しており、マルコたち研究者は不眠不休で調査をしているらしい。
「大きな前進ではないのですが、逐一報告をしようかと思いまして……」
まだ数日であるから成果を求めるのは間違っているのかもしれない。かといってデミトリーは少しでも情報が欲しかった。
「カザインのユニック群は開戦前とは異なり、ゼクスの軌道上に散らばっております。新造されたユニックは兵器の生産ラインが主であり、食料等の問題は今も続いていると思われます。ただ生産ラインの増強により艦隊及び戦闘機の生産能力は格段に上がっているはず。既に前回と同規模の兵器が用意されていることでしょう」
あまり良くない話であるが、それは既に覚悟していたことでもある。四ヶ月という期間はGUNSとしても十分な時間となっていたのだ。敵方であるカザインに当て嵌まらないはずもなかった。
「それでカザインの母星はどうなっている? 試算では半数が失われると聞いていたが……」
デミトリーは質問を変えた。惑星の問題がどうなったのかと。傍受できた範囲で何が判明したのだろうかと。
「ゼクスの民は大多数が音信不通となっているようです。宙域には援助物資が足りないとの電波が飛び交っていました。どうもカザイン光皇は逃げ遅れたゼクスの民を切り捨ててしまったようです……」
マルコによると貴族階級が管理していた一部の民は生き長らえているようだ。しかし、ほぼ全域でエネルギー不足となり、大多数が飢餓と極寒に耐えられなかったらしい。
「それでもカザインは戦おうというのか……」
「いえ、過剰な民の数こそが戦い続ける理由のようです。カザイン光皇は飢えに苦しむ者を大々的に兵士として雇用しています。表向きは生活を保障するためとなっておるのですが、明らかに食い扶持減らしではないかと。彼らは十分な訓練も成されないまま実戦投入されているはず。また噂話の域を出ませんが、楯突く者を積極的に戦場へと送っているといった話も傍受しています。全ては政権の安定を図るため。戦争は太陽系の奪取だけでなく、他の目的も兼ねているようです……」
当初考えられていた戦争の理由とは異なっているようだ。やむを得ない事態に選択がなかったのではなく、利用しているとすら感じるものであった。
「もちろん食糧プラントなども建造されていますが、戦争を始めたのは彼らであり、カザインもそれは分かっています。よって人民の生活よりも戦争を重視している。あとに引けなくなったのではないかと思われます」
嘆息するデミトリー。今更ではあるけれど、和平を望むのであれば受け入れる用意がある。しかし、戦争が内政的な要因を含むのであれば、彼らは決して戦争をやめないだろうと考えられた。
「あと星系に関してです。やはりAIが突き止めた謎の宙域には惑星が存在しています。しかし、まだそこで何をしているのか不明なままです。何らかの活動が行われている可能性は非常に高いと思われますが……」
問題となった抵抗粒子濃度が異様に高い宙域は今も何が行われているのか不明なままである。宙域の情報から惑星が存在すると判明しただけのようだ。
「何かしらの実験だろうな。またも兵器であるのなら早く情報を掴まねばならん。引き続き注視して欲しい」
「いや、それがそうも言っていられなくなっております。例の破壊兵器が艦隊に搭載され始めたのを確認しました。近い内に出撃するのではないかと思われます。我々はAIが限界と判断するまで調査を続ける予定ですが……」
研究員の安全を考慮すると調査の時間はあまり残されていないと分かる。だが、マルコは時間が許す限り調査を続けるという。
「それは助かるが、無理はしないでくれ。君たちも守られるべき民なのだからな……」
「心得ております。もちろん本部に迷惑がかからない範囲で行いますので。あと我々研究者は未知なるものへの探究心で動いておりますから、ご心配には及びません」
最後にマルコは笑顔を見せた。無理強いではなく、望んでやっている。研究者たちは危険よりも興味を優先しているのだと。
だが、それは心配させぬための口実であった。戦う術がない彼らも星系を守るという使命を感じている。できることをできる範囲で行っているのであって、彼らには調査くらいしか協力できなかっただけだ。
早々に報告は完了している。次戦に向けた時間は残されていない。二人共が戦闘員とは違ったけれど、各々に責任を自覚しながら動き始めていた。星系を守護する上で重要な役割を二人は担っていたのだ。
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