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Solomon's Gate  作者: さかもり
第五章 動き始める世界
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幸運

 皇都レブナに唯一接続するアルバはレブナと比較すれば小さかったけれど、サイズに比例しない多くの艦船が常駐している。そこは皇連軍を取り仕切る本部であり、戦闘時の司令部でもあった。


 ベゼラは皇連軍本部へと潜入していた。ただし、別人に扮している。惑星ゼクスの行方不明者であったゼルス・キグナという若者の名を借りて。


『ゼルス・キグナ、入室を許可します……』


 扉にあるスピーカーから声が聞こえた。ここは連軍の難民管理施設。行き場を失った者たちを軍属させるために立ち上げられた臨時の事務局である。


 緊張しながらもベゼラは指示に従い入室していく。識別番号の乗っ取りには成功したはずなのだが、やはり上手く事が運ぶまでは不安だった。


 ところが、ここで彼に幸運が舞い込む。ベゼラに流れる光皇の血がそうさせるのか、信じる道へと誘うかのような運命が彼を待っていた。


「リザーラ……?」


 思わず声を発するベゼラ。管理官は彼の顔見知りであったのだ。淡々と処理を行うその横顔。リグルナム星院家に仕えていた下級星家の娘にしか見えなかった。


 一方で彼女は不服そうな表情をしつつ、ベゼラの声に振り向く。一応は貴族階級である彼女は難民に名を呼ばれたことが不満だったのだろう。


「確かに私はリザーラと言いますが、貴方は階級というものを……」


 言ってリザーラは固まってしまう。彼女はベゼラの存在に気付き、唖然と見つめるだけである。


「やはり、リザーラか……」


 ベゼラは端末に文字を表示し、それをリザーラへと見せる。


【私はベゼラ・リグルナム。傍受はされていないか? ここは安全か?】


 ようやく理解したのかリザーラは首を何度も縦に振る。どうやらただの難民管理局であるここは皇都のように厳戒態勢ではないらしい。


「本当にベゼラ様でしょうか? 貴方様は先の進軍で失われたと……」


 まだ信じられないといった風にリザーラは聞いた。ベゼラだけでなくクウィズ・ヘーゼン皇子もまた失われたと彼女は聞いていたのだ。だからこそ、現れたベゼラに驚きを隠せない。


 ベゼラは彼女の疑問に答えるべく黄金に輝く鍵を取り出してみせる。それは星院家の紋章が刻まれたものであり、星院家の第一皇子のみが所有を許される鍵だ。光皇になる権利を彼が所有することを意味していた。


 即座に膝を折りリザーラはひれ伏す。皇子の鍵を持つ理由は下級星家である彼女にも分かったようである。


「畏まらなくてもいい。今の私はゼルス・キグナ。操縦士となるためにやって来た難民なのだから……」


「いやしかし、ご無事であるのなら、どうして偽名を名乗られているのです!? 貴方様は光皇連を導かれる者。難民に扮する必要があるとは思えないのですが!?」


 リザーラは何も理解していない。ベゼラが暗殺されそうになっていたこと。体良く葬られる寸前であったことを。


「リザーラ、私は自爆するように仕向けられていた。私が乗る予定だった自爆機にはデボルセが搭乗し、出撃していったのだ。連軍は私だけでなくクウィズにも同じような自爆機を宛がっていた……」


「そんな!? ではデボルセ卿は自爆と知って出撃し、亡くなられたのですか!?」


 続けられた問いには小さく頷いた。ベゼラにとっても受け入れ難い現実である。長く仕えてくれた一人の死は簡単に感情を整理できるものではない。


「私はデボルセに報いなければならない。キグナという難民の名を借りて連軍に入る。操縦士として艦隊に加わり、出撃しようと考えているのだ」


「それはどういう意味でしょう? 私に助力できますでしょうか?」


「それは有り難い。私は実に幸運だ。リザーラ、君の力で操縦士科へ配備させてくれ。キグナには操縦士経験があるという経歴が加えられている。問題ないはずだ」


「適正があるのなら間違いなく操縦士です。未経験者もほぼ全員が操縦士として採用されておりますから……」


 リザーラの説明によると、ほぼ操縦士が決定しているらしい。連軍は食いぶちを減らすために次々と操縦士を採用しているとのことだ。


「しかし、操縦士となってどうするのです? 何の権力もございませんよ?」


「それには理由がある。リザーラは知らないかもしれないが、実のところ太陽人たちは争いを望んじゃいない。発表されている野蛮人との話は全て連軍のでっち上げなんだ」


 ベゼラの説明にリザーラは眉根を寄せる。それは知らされた内容と異なっていた。連軍の発表によると、戦争勃発は太陽人のせいであったはず。


「だから、私は行動しようと考えている。私が動かねばならない……」


 決意を感じさせる眼差しにリザーラは気付く。皇子である彼は責務を全うするために動き始めたのだと。


「私は光皇路の向こう側へと行く。太陽人と対話をし、一連の災いに終止符を打つつもりだ。そのために簡易的ではあるが彼らの言語を学んでいる……」


「いやでも、捕らえられるかもしれないのですよ!?」


「それは問題ないな。彼らは捕虜の引き渡しについて常々発信しているらしい。野蛮人どころか、とても紳士的だ。太陽人は戦争など望んでいない……」


 知らされるのは敵である太陽人の対応であった。全てが真実であれば、確かに連軍の発表とは異なる。


「しかし、説得をして戦争を終わらせようとしても無駄なことです。連軍は今も侵攻の準備を続けているのですから……」


「いや、終わらせる。我ら光皇連の進むべき道。安寧と繁栄を私は必ずやもたらそう……」


 リザーラには分からなかった。幾ら対話を求めても連軍が拒否しているのだ。彼が何を言おうと理想論でしかないと思う。


 だが、リザーラは驚愕させられていた。思いも寄らぬ方法を聞かされたことによって。


「私はダグマ・レブ・カザインを討つ――――」


 それは明らかに反乱であった。流石にリザーラは受け入れられない。現役の光皇であるカザイン皇に反旗を翻すだなんてと。


「殿下、本気ですか? 光皇様がその気になれば、星院家を罰することも可能なんですよ!?」


「冗談でこんなことをいうはずがないだろ? 私はカザイン皇こそが現状を招いていると考えている。飢えに苦しむ人々を生活と引き換えに戦場へ送り込むなど容認できない。必ずやカザイン皇の首を取るつもりだ……」


 再びリザーラは首を振った。できるはずがないと思う。たとえベゼラの話が真実であったとしても、全権力を有する光皇を打ち破るなど不可能である。


「臣民を守らねばならない。けれど、レブナに攻め入る戦力がないんだ。だからこそ、私は太陽人の力を借り、レブナを陥落させる……」


 ベゼラは他に選択肢がないと考えていた。現政権を打倒するには太陽人の力を借りるしかないと。


「私はもう一度死んだ身。デボルセに生かされただけなのだ。従って何だってできる。太陽人の力だって借りるさ……」


 静かに目を瞑るリザーラ。彼女は尊敬するベゼラの信念を受け入れるしかない。彼が望むがままに処理をし、揺るぎない決意を肯定してあげるだけだ。


「分かりました。殿下、決して無茶はしないようお願い致します。もしも光皇連が良からぬ風向きに晒されているのなら、それを正せるのは殿下しかいないのですから……」


「任せて欲しい。私は光皇連を救う。光皇連に属する全ての民を救うと誓おう」


 とても立派な姿であった。一度死んだと語るベゼラは一回りどころか何回りも大きく成長を遂げていたらしい。


 ニコリとリザーラは微笑みを返した。全てをベゼラに託そうと思う。彼の信念が揺るぎないことに加え、圧倒的なカリスマ性を覚えている。


 リザーラは可能な限りの助力をしようと心に誓っていた。


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