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ほうせきの槍

今から5年前・・・


「ぬうううう・・・」


しかめっつらで一人部屋の真ん中で座っているこの男は、時間を酷く持て余していた。

季節は春真っ盛り。ゴタゴタした出来事が全て片付いたあとその鬱憤を晴らすかの如く彼はだらけ、遊びまくった。しかしそんな日々も2日も過ぎれば飽きてくる。


「ネットにも新しい投稿は・・・・ない、か。あーあ」


大の字にねっ転がりながら手に持っていたスマホを落とした。天井を見つめ男は考える。思えば高校受験の成功後、あれやりたいこれやりたいとかんがえていたはずなのにいざ落ち着いてみればこれがなかなかすぐに終わる。


「受験期間中はあんなにやりたいことがいっぱいあったのに・・・今度は暇で仕方ないなんてなぁ」


桜の舞うこの季節、それこそ出来ることなんていくらでもあるであろう。しかし彼はまだただの学生、両親から小遣いをもらって過ごしている。つまりお金がないのだ。


「ゲームももうやり尽くしたし、なにか面白いこととかないかなぁ・・・・」


そんなことを呟きながらテレビをつける。

たいして期待はしてない。インターネットを自由に閲覧できる現代において見たいものの動画など探せばいくらでも出てくる。


「・・・・」


チャンネルを回す。視界をいくつかの番組が消えては点き、点いては消える。



「・・・・・ん?」



そんなことを続けていると男はある番組に釘付けになる。

番組のタイトルは「恐怖!オカルトコレクション!」。どうやら去年の再放送のものらしく、まだ昼過ぎあたりの時間であるにもかかわらず画面には様々な心霊写真が映されてゆく。しかし大して興味は引かれなかったのだろう。男は少し長めてから再び別の番組へ変えようとした時ーーーー



『ここが噂の廃墟ですか。長年誰の手も入ってないためかぼろぼろですね。』


『こんなとこに一人入るとかやばいですって〜』


「!」


そこには名前の知らない芸能人が廃墟を背景にして解説を始めるシーンだった。芸能人は他のタレントや霊能者と共に廃墟にて写真を撮っていく。


話は変わるが、男は冒険などをするゲームが好きだった。あらゆる場所、あらゆる不思議を自ら解き明かしたりするゲーム。小学校の頃はよく森に入り竹を片手に遊び回ったりもした。しかし歳を重ねるうち、やっていいことと悪いことの区別がつくようになると、やがて彼の活動は手のひらに収まるゲームの中だけになっていった。

しかし彼の心の中には、どこかもやっとしたーーー満足できないような感覚をずっと抱え続けており、そしてそれはこの歳になる頃には退屈という明確な形となって現れていた。


だがテレビに映ったその場面を見た瞬間、男の脳裏にとある考えが浮かんだ。


「これだ!!」





これが、男にとっての始まり。やがて不可思議な冒険へとつながる第一歩であった。
















5年後・・・









「とりあえず君にもいくつか渡しておく。反応がある以上向こうもこちら側を意識していることは間違いない」



「あ、あの先輩。それはありがたいんですけどなんで3本も?」


懐中電灯を3本受け取った花梨はその目に恐怖を宿しながらもなんとか修治に質問する。ランタンの火が完全に消える前に修治はバックの中から懐中電灯をいくつも取り出しその中の一つを起動させる。


「機械類は霊障を受け取りやすいんです。いきなり電源が落ちて真っ暗なんてことが結構ありますしだからこその予備。消えたらまた別の懐中電灯を起動すればいい」


「な、なるほど・・・、」


説明しながら修治はハンドカメラを用いて周辺の様子を撮影している。あたりはひび割れを起こした白い壁ばかり、結婚式場と言うからにはそれらしいものがあるのではと期待した花梨だが一向にそれらしいものは見当たらない。それどころか先ほどまでは落書きだらけでとても一般人が入り込んでいいような場所ではなかった。そういうと修治は再びバックに手を入れある包みを花梨に渡す。


「一応持っておいてください。いざと言うときのお守りです」



「あ、あの・・・ほんとにまだ進むんですか?大丈夫なんですかこれ・・・」


「やっぱりこわいですか?」



「そりゃまぁ・・・。でも一人じゃとても帰れないしここまで来ると逆に先まで行っておきたいし・・・」



「ふむ・・・・」



花梨の話を聞き修治は顎に指を当て、しばらく考えると口を開いた。



「まぁなんとかする手段もしっかり準備してるのでそこまで気負わずリラックスしていきましょう」


「いや、こんなとこでリラックスは無理・・・ていうか先輩が怖いことを言うから!」


「仕方ないでしょう事実ですし。それにーーーー」




















 


ふと、言葉が止まった。













「?それに、なんですかせんぱーーーー」


違和感のある状態で止まったそれに花梨は一瞬遅れて反応する。先ほどまで後ろから聞こえてきていた声が聞こえなくなったことで後ろを振り返る。


「・・・え?」




そこに、修治はいなかった。

かわりに先ほどから道の先を照らしていた懐中電灯のみが廊下の真ん中に置かれていた。



「・・・・⁉︎」


思わず花梨は固まる。

かりんの視界の先には自身と先輩と親しむ男とで歩いてきた長い廊下が広がっており、先の見えないその廊下は懐中電灯の僅かな光によってより不気味さを際立たせていた。

しかし花梨が固まったのはそのためではない。


「な、なんで・・・!せ、先輩・・・・⁈」


長い廊下の先には窓があるのみで横道などはない。それは修治が消えたことが決してただの悪戯ではないと言うことの証拠であった。

だが、それをすぐさま理解できるほど人間は万能ではない。


「先輩・・・!悪ふざけとしては度が過ぎてますよ!どこですか?!」



一人の人間がふと姿を消す。一瞬で起こったその出来事を最初花梨は修治の悪ふざけと判断した。だが周りを見渡し人間の隠れられるような場所などないことを理解すると途端に背筋が冷たくなるのを感じた。




「先輩・・・・⁈」




思わず立ち尽くす。

否、湧き上がる感覚に足が固まってしまっている。本来人間という生き物は群れをなす生き物である。彼女がこれまでそこまで恐怖を感じなかったのは自分以外の人物がこの場にいたからに他ならない。

ではその自分以外の人間が、急に姿を消すとどうなるか。




その場から彼女は周りを見渡した。

修治がいないということはもう理解している。だがそれでも探さずにはいられなかった。暗い中懐中電灯の放つ灯りによって自分の姿だけ知覚出来る。後ろにに灯を照らしても先にあるのは暗闇のみ。再び前を照らしてもそこには暗闇のみーーーーーーーーーー





「あ・・・・・・・」





















その先には何かがみえた。






・・・・






彼女の視線の先、はるか彼方の廊下の向こうにそのなにかはあった。

何かは、懐中電灯の灯りの反射によるものなのか白い全体をあらわにしている。しかしそれなりの距離があるためか、はっきりとした像はわからない。だが、重要なのはそこではない・・・。














重要なのは、その何かは動いているということだった。









「ーーーーーーーーーーーーーーッ⁈!!」



次の瞬間花梨は声にならない悲鳴をあげて走り出した。




(なにあれなにあれなにあれ・・・⁉︎)




おかしい、先ほどてらした道は自分と先輩が通ってきた道ではなかったか?今走っている道は一本道だ。何かが紛れるなどということはありえない。

では先輩か?

それもありえない。先輩はこのような悪ふざけをする人ではない。むしろこんなことをされようものならガッカルするような人だ。いやそもそもとしてーーーー






あれは生きたものなのか?



走りながら後ろをチラリと見る。

それによって花梨は、気付きたくないことに気づいてしまった。何かは走っているはずの花梨との距離を段々と詰めてきていたのだ。


何かの姿がはっきりとしてくる・・・。










それは、白い人の形をしたーーーー





その事実が分かった瞬間花梨は悲鳴をあげた。

もはや彼女はこの場から逃げることだけを考えていた。全力で走ったおかげか曲がり角が見える。そして曲がると同時に彼女は近くのドアに手を伸ばし開け放つと同時に中へ入った。



「どこか、どこか・・・!」


入ったのはどうやら従業員用の休憩室らしかった。室内は荒れ果てていくつもの制服と思わしき朽ちた布が大量にばら撒かれている。急騰があったと思わしきそこはもはや大鋸屑の山と化しており、従業員の私物を入れるロッカーは殆どがボコボコに凹み使い物にならない有様だがまだ幾つか無事なものも残っていた。




近くのロッカーの中に隠れる。

花梨は修治からもらったお守りと読んでいた風呂敷を握りしめひたすら何かに祈った。


(どこか行きますように!どこか行きますように!どこか行きますように!)


恐怖によって瞳からは涙が溢れてくる。だが泣いたことでいくらかは冷静になったのだろう。花梨は両手に握りしめた風呂敷の中身に意識を向けた。



「そ、そういえば先輩から渡されたこれって・・・」



何やらゴツゴツとした感触をしたものだった。大きさは20cm.重さはそこまで重くはない。ただ複雑な形をしているのかぼこぼことした触り心地だ。


(先輩・・・・どこぉ?)


お守りを握りしめた結果修治を思い出し再び涙を流し始める花梨。だがこのまま泣いてもいられない。あんな怖いものがこちらに近づいてきているかもしれないのだ。涙を拭き、意を決して花梨は風呂敷の中身を取り出す。

先輩の用意してくれたお守り、それが状況を好転してくれることを信じて。





そしてその中身を見た瞬間、花梨の思考は停止した。






「・・・・は?」







・・・・・・プラモデル入ってた。




「・・・・は?」



プラモデル入ってた。



「・・・・・え?なんで?」


大きさは18cmくらいだろうか。日曜の夕方に放送しているロボットアニメ、そのロボットの完成品プラモデルが入っていた。



花梨は何かに追いかけられていたことなど諸々忘れて、思わず疑問を口にした。当然だ。あれだけ専門家ですなどという雰囲気を出していながらお守りと称して渡してきたのはロボットのプラモデルである。

まさか間違えたのだろうか?

こんな現場で間違える?

そもそもなんでプラモデル?



口を半開きにしながら花梨はしばしプラモデルを見つめ続ける。













キイイイイイイイイイイ・・・・。




ふと、何かが軋む音がした。

思わず花梨は悲鳴をあげそうになる。だが気合でそれを抑え込むと、手に握りしめたプラモデルを抱え目を閉じた。


こうなってはもはやこの何かが遠ざかるのを待つしかない。修治に対しての恨みを抱えながら花梨はひたすらに祈り続けた。




ひた


   ひた



      ひた

ひた


 ひた              ひた



足音、だろうか。本来花梨と修治のみしかいないはずの建物内において響いてくるこの音の意味を、わからないほど花梨は鈍感ではない。


(お願い・・・・どっか行って・・・!)



再び涙が溢れ出す。

その足音は段々と自分のいるロッカーへと近づいてゆく。花梨は口がガタガタと音を鳴らさないようてを口に突っ込んだ。

それによって手からは血が滴り落ち、花梨の口を赤く染める。



ヒタ

ヒタ

ヒタ


ヒタ・・・・。


だが、そんな花梨の願いも虚しく、足音は花梨の潜むロッカーの近くまで来た途端にピタリとやんだ。





(だれか、だれか・・・・・)



ロッカーの隙間から覗く人でない何か。

その何かの白眼と目があった瞬間、花梨は涙をついに溢れさせ心から願った。


(だれか・・・!だれか!お願いーーーーーー






しかし悲しいかな、この場にはもはや花梨と何かしかいない。花梨の願いを叶えてくれるものはいない。


 真っ白な白眼がゆっくりとロッカーの隙間へと近づく。そしてついに何かの顔がロッカーへと付く瞬間ーーーーーー





助けて!!!!)












巨大な衝撃音が鳴り響いた。







「・・・・あ、あれ?」




衝撃音が鳴り響いた瞬間目を閉じた花梨は周りを見渡した。おかしい、自分は先ほどまで休憩室のロッカーにいたのではなかったか?

今花梨が立っているのは最初に入った入口近くにある踊り場だった。一体何が起こったのか、先ほどまでいた何かはどこへ行ったのか、そもそも今の衝撃音はーーーー



スチャ!



ふと、自身の座り込む目の前に何かが落ちて来た。暗闇の中だったこともありなかなか見えないそれは、どこか見覚えのある大きさをした人型だった。


「こ、これって・・・さっきの・・・」


落ちていた懐中電灯の先にあったもの、それは先ほどまで自信が握り込んでいたロボットのプラモデルだった。

だが先ほどとは異なる点がいくつもある。一つは何か湯気?だろうか。プラモデルからはもうもうと何か蒸気のようなものが噴き出ていること。そしてもう一つはーーーー



「う、うごいてる!?」


「貴方に渡したそのプラモデルは、近所に住む子供に作ってもらったものです。」




コツコツと音を響かせて聞き覚えのある声がこちらに近づいてきた。


「付喪神というものを聞いたことはありますか?かつてこの日本では、万物に神が宿ると信じられて来ました。しかし海外から取り入れられた宗教によってそれらの考えは薄れていった・・・」



花梨は後ろを振り返る。懐中電灯の灯りによって一瞬目を瞑るが、すぐに駆け出しその場にいる人物に向けて走り出した。










「力や神といったものはほとんどが偶像に宿ります。そのプラモデルは、私の知り合いの子供がみんなを守ってくれるようにと願いを込めて作ってくれた品物です。そしてそのプラモデルのアニメ作品への信仰・・・。そこらの下手な仏像なんかよりもよっぽどの力を生み出す・・・」









男ーーーー修治は走り寄って来た花梨を抱きとめると安心させるかの如く頭に手をやった。



「遅くなって申し訳ありません花梨さん。よく頑張りましたね」



「先輩!!」







数分前ーーーーーーーー


修治は突然動きを止めた花梨にに視線を向けた。話している最中だったこともあり違和感を感じて彼女を覗き込む。


「!こ、これは・・・・!意識をジャックされている⁉︎」



花梨は視線を修治の後ろ側に向けて何かに怯えるような動作を繰り返しており、先ほどから話しかける修治の言葉には一切の反応を示さなかった。


(やはり落書きが少なくなって来ていたのは傾向だったか・・・)


修治が先ほど花梨に伝えようとしていた言葉、それは壁の落書きが少なくなって来たという事だ。

心霊スポットにおいて落書きとは安全地帯の証である。落書きが多いポイントほど心霊スポットというのは安全で少ないということはそれだけ人が近づいてないということの証であるのだ。今二人が歩いていたこの廊下、先ほどまで歩いていたポイントと比べて急に落書きが少なくなっていた。



(彼女の視線の先ーーーーーーーー今は見えないがそこにいるのか。まずい、ここまで暴れ始めたのは大声で騒ぎ立ててしまったせいか・・・)



このままでは危険だ。


そう考えた修治は懐から「あるもの」を取り出そうとする。

すると次の瞬間ーーーー。



「!ま、待て!」




花梨は急に大声を上げて来た道を走り始めたのだ。




「こいつら!まさか気づいたな!」




咄嗟に花梨の裾を掴もうとする。

しかしなんのアクションもなくいきなりの全力疾走だ。何かを取り出そうとしていた修治はほんのわずかな間呆けてしまった。

段々ととおざかる彼女の背を追いかけながら修治は呟いた。







「くそ、こうなったらお守りだけが頼りだ。花梨、頼むからしばらく頑張ってくれよ・・・!」



















「これが守ってくれて助かった。あと少しで君はあれに命を吸い尽くされるところだった・・・」



そうして修治の指を指す先、そこには先ほどまで花梨を追いかけ回していた白装束の髪の長い人型が顔を抑えてうずくまっている光景だった。それを見た花梨は思わずヒィ、と声を上げた。





「なるほど、つまりこの屋敷が急に騒がれ始めたのはこの地縛霊が取り憑いたのが原因か」




「じ、じばくれい?」



花梨は修治につかまりながら聞き返す。



「地縛霊。その地に縛られる、などと書きますが実際は違う。他所から来た霊魂が薄暗い場所を求めて彷徨った際廃墟や電灯の届かない場所に留まり続けて生まれる幽霊です」



なにかーーー地縛霊はやがて両手で顔を抑えたまま立ち上がると再び花梨のそばに近づこうとする。立ち上がった地縛霊は3mほどの高さをしておりその迫力を助長させた。



ヒィ、と思わず小さな悲鳴をあげる花梨の前にいたロボットのプラモデルはその背中に背負った剣を手に持つと幽霊へと向かって走り出した。



それに反応し幽霊も狙いをプラモデルへと向ける。しかしプラモデルは伸ばされた指に狙いを定め上段に振り下ろす。本来であればただのプラスチックのおもちゃにすぎないものの攻撃など効きもしないだろう。

しかし白いモヤを纏った一線は伸ばされたその指を切り落としたのだ。


■■■■■■■■■■■■■!!?


あたりに声にならない悲鳴が響く。

地獄のような光景、本来であれば大声をあげるだろうそれらを前に花梨はなぜか冷静さを保っていた。



「せ、先輩、これって一体・・・?」


(陽の気がめぐってきたか・・・。よかった、あのまま放置してたらどうなっていたことか)


それを見た修治は心の中でそっとため息を吐き出して目の前のそれを眺める。プラモデルは未だ自分達を守るように剣を振りかざしている。

しかしやはりプラスチック。先程の激しい動きにパーツのどこかにガタが来たせいか、どこか挙動がおかしくなっていた。




「・・・仕方ない、か。いや、ここまでのことがあって、命が無事ならやすい、か」




修治は一度プラモデルを下げると一歩前に出る。


「・・・地縛霊は新鮮な霊魂を好みます。最初は恐怖を感じた際もれ出る僅かなもので満足します。しかしやがてそれだけでは我慢できなくなり生きた人間を殺してその霊魂を飲み込む・・・。」




修治が懐に手を入れた。






「花梨くんは私にとって大学で初めてできた友達です。」



「こんな趣味の悪い男が心配だからとついて来てくれただけでなく、その趣味に共感する努力までしてくれた・・・。」



「急に上がり込んだ我々が、先にいたお前にいうのもなんだが、先ほどの行動は悪いが許せない・・・!」





取り出した長い包み、その覆っているものをゆっくりと剥がしながら修治は一歩一歩と前へ出る。

そして取り出したものを地縛霊へと向けるとその顔を見て言った。







「悪いが、祓わせてもらうぞ。その魂!」







修治が取り出したもの、それは1mほどの長さをした石槍だった。

しかしただの見た目の石槍ではない。持ち手の部分には何やら複雑奇怪な模様が彫られており塗られたニスが光を反射して異様さを際立たせている。

そんな槍の先、そこに付いていた黒い石は懐中電灯の光を浴びだことによりうっすらと反対を映し出していた。




「ほ、ほうせきの、槍・・・」



その槍を見た花梨は、光を反射させるその黒い石を見て思わずつぶやいた。

槍を右手に持ち替え修治はゆっくりと振りかぶる。そして、少し離れた位置にいる地縛霊に向けてーーーーーー










「ッダアァッ!!」


思いっきり投げつけた。


槍が地縛霊の顔を貫いた瞬間、地縛霊は表現できないような悲鳴をあげた。

 

 

 

右手で顔を抑えたまま地縛霊は再び飛びかかった。先ほどと違うのはその勢い。まるで苦しむかのような雰囲気を醸し出しながら2人に向かっていく。

その瞬間ーーー

 

 

「あ、ロボットが!」

 

 

またプラモデルは動き出し2人を守るかのようにタックルを喰らわせた。質量差から考えればとてもありえない挙動。

プラモデルに押しのけられた地縛霊はまるで大型のダンプに轢かれたかの如く飛ばされたのだ。

立ち上がる地縛霊。しかし先ほどの勢いはもはやない。ふらふらと二人に近づいてゆき、しかし一歩一歩を歩くにつれその身体は黒い煤のような粒子を撒きながらゆっくりときえてゆく。

 

 

 

 

「その槍の名は晶装と言います」

 

「古来より宝石には、幸福や神秘、お守りとしての力が宿るとされていました」

 

「この先端に取り付けられた水晶はスモーキークォーツといいそれに宿る力はーーーーーー」

そして、その手が二人に触れる瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

「破魔です・・。」

 

 

 

 

地縛霊は完全に消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 


「うえぇえ・・・!先輩ありがどう〜」



「大丈夫大丈夫。もう怖いものはいませんよ」





帰り道、誰もいない電車の中で花梨は修治に縋りつきながら大泣きしていた。

あのあと二人は荷物をまとめると桜の館を出て行った。本来の目的であった調査も地縛霊本体が出て来たことによりその必要も無くなったこともあるが、何より花梨を一旦落ち着かせてやる必要もあったからだ。


「今回は流石にびっくりしました。これまでこのような霊障はいくつか遭遇したことはありますが、まさかここまではっきりと影響を与えるとは・・・」


「ぐす・・・・でも、あの幽霊。私が騒いじゃったから怒ったんですよね。そう考えると、少し申し訳ない気も・・・」




そう言うと花梨は目元を拭って顔を下げる。

その言葉に修治は目を見開いた。まさかあれだけ怖い目にあったのにもかかわらず地縛霊にまで気を使うとは思わなかったからだ。修治はやがてため息を一つすると優しげな目を浮かべていった。


「花梨さん、そもそもとして地縛霊ってなんだと思いますか?」



「え?そ、それはやっぱり・・・死んだ人の魂とか、そういったものではないですか?」



「大体の人はまぁそのように考えるでしょうね。しかし、私の考えは少し違うのです。」



「?幽霊ではないのですか?」



「いや、幽霊ではあるのですが・・・地縛霊というのはいくつもの幽霊が重なり合って生まれる(魔物)と呼ばれる存在なのです。満たされない寂しさのあまり新鮮な霊魂、つまり孤独を感じていない魂を取り込もうとする。」



修治は持っていた板チョコを少し割って花梨に渡す。



「あれをそのままにしておけばきっともっと多くの人の命を奪おうとしていたでしょう。だからあれでよかったんです」



そう言って修治は電車の窓越しに夜の夜景を眺める。

その横顔を見て花梨は思う。自分からついて来ておきながら修治の足を引っ張ってしまったこと、何もできなかったことを浮かべたことによりますます落ち込んでしまう。だからだろうか・・・



「先輩、幽霊に強くなるにはいったいどうすればいいんですか?」



思わずそんなことを聞いてしまった。





「ん?」




「わ、私これからも先輩の後についていきたいです。でも、今日みたいに先輩の足を引っ張っちゃったらと思うと・・・」



その問いに対して、修治は花梨の顔を見て考える。


思い返すはあの日のことーーーーーー

















(先輩!私もついていきますよ!)




(大丈夫!私は怖くなんかないですもん!)



いつの日か、そう言って満面の笑みを浮かべた顔を思い浮かべて修治は口角をそっと上げてゆく。




「大丈夫・・・あなたはすでに持っているのだから」




そして持っていた板チョコを再び割り花梨の口に含ませて、満面の笑みで答えた。









「よく笑うことですよ」

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